事務リスクの管理

事務リスクを管理するためには、事務リスク管理のフレームワークを再構築し、事務リスク管理部門の機能について、見直しを実施することが重要になります。

これまでの事務管理

事務リスクに対する管理は決して目新しいものではありません。
金融機関の信用は、日々の正確な事務処理・業務運営の積み重ねの上に成り立っています。不適切な事務処理や不祥事件の発生は、こうした金融機関の信用を傷つけることになり、一度損なわれた信用を回復することは、大変な労力を必要とします。その意味で、不正を防止し、事務管理態勢を整備して、取引処理エラーを削減することは金融機関にとって常に重要な課題であったといえます。

従来より、金融機関では、「事務管理」として、ほとんど例外なく、①事務規程等の整備と遵守、②業務ライン内部への統制メカニズムの組み込み、③内部監査部門等による牽制などが行われてきました。

1.事務規程等の整備、遵守

事務規程等を整備することは、事務処理の基本です。
金融機関をはじめ組織には、定款、業務方法書、社内規程、就業規則、行動規範、事務取扱規程、マニュア、通達等の様々な規定があります。
ここで重要な点は、整備された諸規程の内容が職員に周知されており、十分に理解され、これに則った業務が実施されることです。

こうした諸規程は、金融機関の組織や業務、顧客との金融取引に関連した業法をはじめとする各種諸法令や金融庁の監督指針(旧事務ガイドライン)、判例、あるいは事故事例等を踏まえて、組織として適切に業務を行うために遵守すべきルールとして定められています。その意味で、諸規程の遵守ということでは、コンプライアンスとも重なり合ってきます。

コンプライアンス(法令等遵守)と事務リスク管理の相違点として、コンプライアンスでは、ルールに従わせる強制的な仕組みに主眼が置かれるのに対して、事務リスク管理は、ルールから逸脱した事務処理が自社にどれだけの損失をもたらす可能性があるか、いかにしてその損失を低減させるかという視点からのアプローチであることが挙げられます。

2.業務ライン内部への統制メカニズムの組み込み

「業務ライン内部への統制メカニズムの組み込み」とは、日常業務プロセスの中にリスク管理の手続が組み込まれた形で運用されていることをいいます。具体的には、次のようなものが挙げられます。

  • 認証
    伝票の記載内容とシステム入力結果を示す認証印字とを照合して、システム入力の正確性を確認することであり、オペレーターにとって最も重要な確認事項の1つです。
    テラーや出納窓口においては、顧客が作成した伝票・納付書等の金額と現金・小切手などの金額の一致を確認して収納しますが、この作業も窓口における「認証」とみることができます。ここでは、金種、金額、合計額、小切手の要件、納付書の記載事項についてもチェックします。
  • 検印(証印)、承認
    検印、あるいは、証印は、ラインの上位者の権限及び責任のもとに取引を承認することであり、役席者の重要な役割になります。検印とは、「一定の権限を与えられた役席者が、その権限の行使により、所管業務の重要なプロセスの妥当性と正確性を事前もしくは事後に確認するものです。
    過去に発生した銀行や信用金庫の架空預金証書作成事件では、役席者自らが伝票を起票し、未使用預金証書用紙を取り出してオフライン・オペレーションで証書を作成していました。
    本来、役席者自らが起票した検印は、その上席あるいは他の役席者が行うべきであり、事故検印は、回避しなければなりません。
  • 相互チェック
    相互チェックの基本は、部内における各担当者の職責分離です。すなわち、兼務するとミスや不正の可能性がある業務の担当者を分けることにより相互にチェックする機会を設けることにあります。
    例えば、出納元受と各テラー、テラーとオペレーター、オペレーターと検印者を同一人が行わないということです。
    人員削減の一環として担当者の業務多能化が進められていますが、相互チェックが機能する業務運営がなされているか、注意が必要です。
  • 管理・監督者の責任の明確化
    監督者は、部下の動き、職場における様々な事象に対してリスク面で問題がないか、管理・指導のポイントを把握していなければなりません。
    例えば、出納の現金過不足事故等で表沙汰にしたくないとか、探索に要する時間外労働を避けたいとの思惑から関係者で補てんして処理するようなことでは、管理・監督者として責任を果たしていることにはなりません。

3.検査部門あるいは内部監査部門による牽制

わが国の金融機関においては、従来から厳しい事務の検査が行われてきました。それは、主として営業店を対象として、日常の事務が事務規程に定められたとおりに行われているか、現金や手形・証書などの現物をチェックして資産の保全が図られているか、不正や事故・トラブルが発生していないか、その兆候がないかを調べるもので、業務の諸規程に対する準拠性や正確性の検証が中心でした。
また、不正等があった場合には調査し摘発したり、検査結果を営業店の業績考課に反映させたりすることによって強制力を持たせるといった性格のものであったといえるでしょう。
検査部門による検査は、内部監査と比較すると、その範囲は限定的なものであるとはいえ、特に営業店における事務リスク管理に関して大きな牽制の役割を果たしてきました。

 

事務管理と事務リスクの発生

様々な仕組みがあるにも関わらず事故が発生するのは、主としてその運用面に問題がある(定められたルールや管理態勢が意図したとおりに機能していない)ことにあります。
具体的には、次のようなケースが考えられます。
①営業店等の管理態勢や本部のサポート態勢に問題があるケース
②人員配置や職場環境に原因があるケース
③内部監査や事故の原因究明が不十分で事故の経験が生かされていないケース

1.営業店等の管理態勢や本部のサポート態勢に問題があるケース

例えば、営業店事務の中で人手によるものは、一部の複雑な事務・異例取引等に絞り込まれてきましたが、チェックを行う管理者が事務に不慣れで判断を誤る、あるいは担当者に任せきりにしているようでは問題があります。
また、近年目立つ事例として、金融機関の取扱商品やサービスが急速に多様化し、コンピューター処理やオペレーションが次々と追加されていながら、関連する取扱規程・マニュアルの見直しや整合性の確認が不十分なため規程間で祖語が生じ、営業店等で混乱を起こしたり、誤った取扱をしたりするケースも挙げられます

2.人員配置や職場環境に原因があるケース

営業推進と事務管理は業績向上を図る両輪とも言われますが、営業店等での実態は必ずしも両者のバランスが取れているとは限りません。
また、人事異動ではベテランが抜けて新人が加わることが常ですが、人事ローテーションが計画的に円滑に行われていない場合には、業務に支障をきたします。月末などの業務繁忙時に十分な人員配置・支援体制がとられていなければ、ミスやエラー、さらには事故・トラブルの発生原因ともなります。
営業店では限られた店舗スペースの中に多くの事務機器や金庫・ロッカー、机等があり、人の動線を無視した執務効率の悪いレイアウトになっている場合もあります。

3.内部監査や事故の原因究明が不十分で事故の経験が生かされていないケース

ミスやエラー、あるいは軽微な事故が繰り返し発生している場合に、これを放置することは将来の大事故につながるおそれがあります。
細かい不正であっても社会的批判を受けることに変わりはありません。こうした場合には、徹底した調査と分析によって、同様のミスや事故が起きない態勢を構築する必要があります。

営業店等の業務運営・事務処理における問題点について、その原因がどこにあるか深く考えず、表面的にしかとらえていないため、小手先の対応に終始して抜本的な対応策がとられてこなかったことが原因です。

 

事務リスク管理態勢の再構築

わが国の金融機関では、従来から事務リスクの金融機関重要性が認識され、個々の業務では高いレベルでの管理が行われてきました。
しかしながら、金融検査マニュアル、ひいては1999年のバーゼル銀行監督委員会による「銀行組織における内部管理体制のフレームワーク」が発表されて以来、わが国における金融機関の内部管理のあり方は根底から見直しを迫られることとなりました。

金融検査マニュアル等では、金融機関が適切なリスク管理態勢を確立していくために、経営陣の主導により次のフレームワークの各項目を整備していくことを求めています。

【リスク管理のフレームワーク】

  • リスクの所在・種類の特定
  • リスク管理方針の確立
  • リスク管理のための規程整備
  • リスク管理のための組織の整備
  • 相互牽制体制の構築

金融機関における事務管理についても、現行の態勢でこれらのプロセスが適切かどうか、見直しを行わなくてはならないということです。各金融機関においては、事務管理として築きあげてきた品質管理的手法などのノウハウの良いところを承継し、改めるべきところを修正して事務リスク管理態勢の改善を図っていくことが求められます。
見直しを行う上での主要な課題として、次のものが挙げられます。

  • 統合的リスク管理態勢の中で事務リスクを位置づけ、事務リスク管理方針を確立する。
  • 事務リスク管理の対象とすべき範囲の見直しを行う。
    (営業店のみならず、本部の各部署・事務集中部門・業務委託先を対象に含める必要がある。)
  • 組織体制について、関連部署の機能、役割分担の見直しと明確化を図る。
  • 事務リスクの定量的評価、計量化に取り組み、他のリスクとともに経営体力との比較においてリスクのコントロール、健全性の確保を目指す。

こうした事務リスク管理態勢の再構築は、他の分野のリスク管理に比べると既存の態勢ができ上がっているだけに、かえって頭を切り替えて根づかせていくことに困難が伴う一面もあります。事務リスク管理態勢のフレームワークを念頭に、各項目のポイントを再認識していくことが望まれます。
特に、事務リスク管理態勢において中心的な役割を担う「事務リスク管理部門」の機能発揮状況について、改めて見直しを行っていくことが重要です。

【事務リスク管理部門のチェック・ポイント】

  • 営業店等の実態把握が的確になされているか?
    ⇒実態を踏まえた事務規程の見直し、事務指導等の改善策がとられているか?
    ⇒フィード・バック・プロセスが機能しているか?
    ⇒事務規程・通達の発信だけの一方通行になっていないか?
  • 事務リスクへの対応として、事務規程の追加に頼っていないか?
    ⇒ルールの増加は営業店の負担大
     現場のやる気をそぎ、疲弊感・遍そく感を増大させる
    ⇒内部統制における「業務の有効性と効率性」を目指した事務リスク管理を実施しているか?
  • 経営陣は、事務リスク管理部門に必要な経営資源を投入しているか?
    ⇒管理部門(コスト・センター)としてただ縮小均衡を目指す位置づけになっていないか?
  • 業務分野毎の事務所管部署(融資事務、公金・代理事務、証券業務、外為業務、等)が事務統括部署と異なる場合に、「事務リスク管理」として総合的・横断的にリスク管理されているか?
  • 事務集中部署、外部業務委託先に対する事務リスク管理は実施されているか?

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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