償却・引当の枠組み

償却・引当は、自己査定と一貫性を持つ必要があります。

償却・引当とは

金融検査マニュアルでは、償却・引当について、次のように定義されています。

償却・引当とは、自己査定結果に基づき、貸倒等の実態を踏まえ債権等の将来の予想損失額等を適時かつ適正に見積ることである。

償却・引当について、その正確性・客観性を確保することは、早期是正措置の運営上、自己査定から自己資本比率の算定に至るプロセスの中で必要不可欠なものです。
そのためには、債権者の信用リスクの程度等を勘案した信用格付に基づく自己査定と償却・引当が一貫性をもって連動して行われる必要があります。
また、算出された償却・引当の総額は信用リスクに見合った十分な水準を確保する必要があります。

このプロセスの流れは、あくまでも不可逆的なものであって、期待される自己資本比率から逆算して償却・引当の金額を決めることは許されません。

償却・引当は、金融機関が公共的・社会的役割を発揮し、その資産の健全性を確保するために、きわめて重要な作業といえます。わが国の不良債権問題に費やされた「失われた10年」を振り返ってみても、金融機関にとって、問題債権の損失計上を先送りすることなく、適切かつ十分な水準の償却・引当を実施することが不可欠であることは明らかです。

 

償却・引当の実務

1.早期是正措置制度の下での償却・引当の実務

早期是正措置制度、自己査定制度の導入を契機として、関係法令、諸規則等の整備行われて、決算経理基準も廃止され、金融機関の償却・引当についての基本的な考え方は、一般事業法人と同様、「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」に従ったものとなりました。
現在、一般事業会社に適用される「会社計算規則」及び「企業会計原則」による貸倒引当金の扱いは、次のようになっています。

会社計算規則 第5条(資産の評価)

1 資産について、この省令又は法以外の法令に別段の定めがある場合を除き、会計
  帳簿にその取得価額を付さなければならない。
2 (略)
3 次の各号に掲げる資産については、事業年度の末日において当該各号に定める価
  格を付すべき場合には、当該各号に定める価格を付さなければならない。
 一 事業年度の末日における時価がその時の取得原価より著しく低い資産(当該資
   産の時価がその時の取得原価まで回復すると認められるものを除く。)事業年
     度の末日における時価
 二 事業年度の末日において予測することができない減損が生じた資産又は減損損
   失を認識すべき資産その時の取得原価から相当の減額をした額
4 取立不能のおそれのある債権については、事業年度の末日においてその時に取り
  立てることができないと見込まれる額を控除しなければならない。
5 債権については、その取得価額が債権金額と異なる場合その他相当の理由がある
  場合には、適正な価格を付すことができる。
6 次に掲げる資産については、事業年度の末日においてその時の時価又は適正な価
  格を付すことができる。
 一 事業年度の末日における時価がその時の取得原価より低い資産
 二 市場価格のある資産(子会社及び関連会社の株式並びに満期保有目的の債券を
   除く。)
 三 前二号に掲げる資産のほか、事業年度の末日においてその時の時価又は適正な
   価格を付すことが適当な資産

会社計算規則 第78条(貸倒引当金等の表示)

1 各資産に係る引当金は、次項の規定による場合のほか、当該各資産の項目に対す
  る控除項目として、貸倒引当金その他当該引当金の設定目的を示す名称を付した
  項目をもって表示しなければならない。
  ただし、流動資産、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産又は繰延資
  産の区分に応じ、これらの資産に対する控除項目として一括して表示することを
  妨げない。
2 各資産に係る引当金は、当該各資産の金額から直接控除し、その控除残高を当該
  各資産の金額として表示することができる。

企業会計原則 貸借対照表原則五のC(債権の評価)
 受取手形、売掛金その他の債権の貸借対照表価格は、債権金額又は取得価額から正常
 な貸倒見積高を控除した金額とする

企業会計原則 注解18(引当金)
 将来の特定の費用又は損失であって、①その発生が当期以前の事象に起因し、②発
 生の可能性が高く、③その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負
 担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を
 貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする(以下省略)

会社計算規則、企業会計原則共に、貸借対照表に計上されている債権の評価として回収可能額を検討し、合理的かつ客観的な基準に基づいて、将来発生が見込まれる回収不能額を算出し、費用に計上すると共に貸倒引当金として引当計上することが基本的な考えとなっています。

さらに、日本公認会計士協会の銀行等監査特別委員会報告4号「銀行等金融機関の資産の自己査定並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針」(以下、「実務指針」という)では、「Ⅵ、貸倒償却及び貸倒引当金の計上に関する幣沓上の取扱い」として、以下の取扱いに準拠して計上されている場合には、(会計)監査上妥当なものとして取扱うと規定されており、早期是正措置制度、ひいては金融検査マニュアルの内容と平灰を合わせたものとしています。

 「実務指針」(日本公認会計士協会 銀行等監査特別委員会報告第4号)における償却・引当

  • 正常先債権

    債権額で貸借対照表に計上し、貸倒実績率または倒産確率に基づき、発生が見込まれる損失率を求め、これに将来見込み等必要な修正を加えて貸倒引当金を計上する。

  • 要注意先債権

    債権額で貸借対照表に計上し、適当なグループに区分した上で当該区分毎に貸倒実績率又は倒産確率に基づき、発生が見込まれる損失率を求め、これに将来見込等必要な修正を加えて貸倒引当金を計上する。
    なお、要注意先債権のうち、債権の元本の回収及び利息の受取に係るキャッシュ・フローを合理的に見積もることができる債権(貸出条件緩和債権等)については、当該キャッシュ・フローを当初の約定利子率で割り引いた金額と債権の帳簿価額との差額について貸倒引当金を計上する。
    また、この方法の適用に当たっては、日本公認会計士協会「銀行等金融機関において貸倒引当金の計上方法としてキャッシュ・フロー見積法(DCF法)が採用されている場合の監査上の留意事項」を参照すること。

  • 破綻懸念先債権

    債権額から担保の処分可能見込額及び保証による回収が可能と認められる額を減算し、残額のうち必要額を貸借対照表に貸倒引当金として計上する。
    なお、破綻懸念先債権のうち、債権の元本の回収及び利息の受取に係るキャッシュ・フローを合理的に見積もることができる債権については、当該キャッシュ・フローを当初の約定利子率で割り引いた金額と債権の帳簿価額との差額について貸倒引当金を計上する。
    また、この方法の適用に当たっては、日本公 認会計士協会「銀行等金融機関において貸倒引当金の計上方法としてキャッシュ・フロー見積法(DCF法)が採用されている場合の監査上の留意事項」を参照すること。

  • 実質破綻先債権
    債権額から担保の処分可能見込額及び保証による回収が可能と認められる額を減算し、残額を貸倒償却するか又は貸倒引当金として貸借対照表に計上する。
  • 破綻先債権
    債権額から担保の処分可能額見込額及び保証による回収が可能と認められる額を減算し、残額を貸倒償却するか又は貸倒引当金として貸借対照表に計上する。

3.金融機関の償却・引当に関する実務指針の拡充

この他、日本公認会計士協会では、金融機関の重要な経営課題とされてきた不良債権問題の早期解消を図るため、金融庁と協調し、金融検査マニュアルに合わせて、次のような実務上の取決めを公表しています。

  • 残存期間の算定方法の考え方
    「銀行等金融機関の正常先債権及び要注意先債権の貸倒実績率又は倒産確率に基づく貸倒引当金の計上における一定期間に関する検討」(平成15年2月24日)
  • DCF法
    「銀行等金融期間において貸倒引当金の計上方法としてキャッシュ・フロー見積法(DCF法)が採用されている場合の監査上の留意事項」(平成15年2月24日)
  • DDS
    「銀行等金融機関の保有する貸出債権が資本的劣後ローンに転換された場合の会計処理に関する監査上の取扱い」(平成16年11月2日)

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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