バーゼルⅡと市場リスク管理

バーゼルⅡにおける市場リスクの扱いについて、説明します。
バーゼルⅡには、3つの柱から更生されており、「第二の柱」において、バンキング勘定の金利リスク(アウトライヤー基準)が規定されました。

バーゼルⅡ(3つの柱)

2004年6月26日、バーゼル銀行監督委員会より「自己資本の測定と基準に関する国際的統一化:改定された枠組」(いわゆる「バーゼルⅡ」最終文書)が公表されました。

バーゼルⅡは、次の3つの柱から構成され、①バーゼルⅠ合意を基礎としつつ、リスク感応度のより高い精緻なリスク計測手法の採用を促すとともに、②銀行自身が内部統制や経営管理を整備してリスクに対する自己資本充実度の評価を行い、監督当局がその状況を検証するプロセスを確立すること、③銀行が行う開示(ディスクロージャー)を充実させ市場規律の強化を図ることを通じて金融機関の健全性の確保を図るものです。

バーゼルⅡ合意の3つの柱

  • 第一の柱 最低所要自己資本規制
  • 第二の柱 金融機関の自己管理と監督上の検証
  • 第三の柱 市場規律

 

バーゼルⅡにおける市場リスクの扱い

1.「第一の柱」における市場リスクの扱い

第一の柱では、最低自己資本比率について定めています。
バーゼルⅡでは、資本の定義と、最低自己資本比率を8%とすることを維持しつつ、信用リスク計測方法の精緻化、オペレーショナル・リスクの計測開始という点で大きく変更されましたが、市場リスクに関しては従来と変更ありません。
市場リスクの計測方法は、「標準的手法」と「内部モデル手法」から各金融期間が選択します。内部モデル手法をとる場合には、金融庁長官の承認が必要とされます。

  • 自己資本充実度の計り方
    [mathjax] $$\frac{自己資本(定義に変更なし)}{信用リスク+市場リスク+オペレーショナル・リスク}=銀行の自己資本比率(最低8%)$$
  • 信用リスク計測手法のメニュー(修正)
    標準的手法
    基礎的内部格付手法
    先進的内部格付手法
  • 市場リスク計測手法のメニュー(変更なし)
    標準的手法
    内部モデル手法
  • オペレーショナル・リスク計測手法のメニュー(新設)
    基礎的指標手法
    標準的手法
    先進的計測手法(AMA)

公表されたバーゼルⅡ「第一の柱」のわが国の金融機関への適用に関しては、金融庁による自己資本比率規制についての3回にわたる案分の公表・意見募集を経て、平成18年3月27日、「銀行法第14条の2の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(金融庁告示19号)をはじめとする業態毎のいわゆる「自己資本比率告示」が官報掲載され、平成19年3月期から適用されています。

2.「第二の柱」における市場リスクの扱い

バーゼルⅡの「第二の柱(金融機関の自己管理と監督上の検証)」は、金融機関自らその業務の規模やリスク・プロファイルに応じて「第一の柱」に含まれないリスクも含めた総合的なリスク管理と自己資本の充実を図ることを中心とした自己管理を行う一方、金融当局はその状況をモニタリング・監督するものとされており、以下の4つの主要原則が定められています。

  • 原則1
    銀行は、事項のリスク・プロファイルに照らした全体的な自己資本充実度を評価するプロセスと、自己資本水準の維持のための戦略を有するべきである。
  • 原則2
    監督当局は、銀行が規制上の自己資本比率を満たしているかどうかを自らモニター・検証する能力があるかどうかを検証し評価することに加え、銀行の自己資本充実度についての内部的な評価や戦略を検証し評価すべきである。監督当局はこのプロセスの結果に満足できない場合、適切な監督上の措置を講ずるべきである。
  • 原則3
    監督当局は、銀行が最低所要自己資本比率以上の水準で活動することを期待すべきであり、最低水準を超える自己資本を保有することを要求する能力を有しているべきである。
  • 原則4
    監督当局は、銀行の自己資本がそのリスク・プロファイルに見合って必要とされる最低水準以下に低下することを防止するために早期に介入することを目指すべきであり、自己資本が維持されない、あるいは回復されない場合には早急な改善措置を求めるべきである。

 

バンキング勘定の金利リスク

バンキング勘定の金利リスクは、金融機関の主要なリスクの1つとしてバーゼル銀行監督委員会でも議論されましたが、国際的に活動する金融機関のリスク管理手法・プロセスに大きなばらつきがあり、バーゼルⅡでは、「第一の柱」に含めず、「第二の柱」で取り扱うものとし、併せて2004年(平成16年)7月に「金利リスクの管理と監督のための諸原則」が公表されました。

これを受けて、わが国では、2005年(平成17年)11月、金融庁(監督局)は「バーゼルⅡ第二の柱(金融機関の自己管理と監督上の検証)の実施方針について」を公表しました。
その後、2006年(平成18年)3月に「主要行等向けの総合的な監督指針」、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」を改正し、バンキング勘定の金利リスクについての具体的な指標「アウトライヤー基準」を既存の早期警戒制度に「安定性改善措置」として組み込むことでバーゼルⅡの「第二の柱」に対応し、2007年(平成19年)4月より実施されています。

 

アウトライヤー基準

アウトライヤー基準は、バンキング勘定の金利リスク料が基本的項目(TierⅠ)+補完的項目(TierⅡ)の合計額の20%として設定されています。
金利リスク量は、
①上下200ベーシス・ポイントの平行移動による金利ショック
②保有期間1年、観測期間最低5年間で計測される金利変動の1パーセンタイル値と99パーセンタイル値による金利ショック
のいずれかを金融機関が選択します。
また、金利リスク料に大きな影響を与えるコア預金(滞留している随時払の預金)の捉え方も選択できるようになっています。

アウトライヤー基準を含む安定性改善措置については、「主要行等向けの総合的な監督指針」では、次のように規定されており、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」でも同趣旨の記述がなされています。

 

主要行等向けの総合的な監督指針

Ⅲ−2−3−3−3 監督手法・対応

(1)オフサイト・モニタリング

  1. 継続的なモニタリング(月次)
    市場リスク情報に関するオフサイトモニタリングデータ(月次)に基づき、市場リスク等の状況を常時把握し、分析等を行う。
  2. 随時のオフサイト・モニタリング
    金利や資産価格の変動が発生した時など、必要に応じ随時ヒアリングを行い、市場リスクの状況を把握し、分析等を行う。
  3. オフサイト・モニタリングに基づく早期警戒
    以下のいずれかに該当する銀行に対しては、原因及び改善策等について、深度あるヒアリングを行い、必要な場合には、法第24条に基づき報告を求めることを通じて、着実な改善を促すものとする。
    また、改善計画を着実に実行させる必要があると認められる場合には、法第26条に基づき業務改善命令を発出するものとする(安定性改善措置)。

    1. 有価証券の価格変動等による影響を基準として、市場リスク等の管理態勢について改善が必要と認められる銀行
    2. アウトライヤー基準(銀行勘定の金利リスク量(標準的金利ショック(①上下200ベーシス・ポイントの平行移動による金利ショック又は②保有期間1年、最低5年の観測期間で計測される金利変動の1パーセンタイル値と99パーセンタイル値による金利ショック)によって計算される経済価値の低下額)が基本的項目(TierⅠ)と補完的項目(TierⅡ)の合計額の20%を超えるもの)に該当する銀行(19年3月期より適用)
      (注1)アウトライヤー基準の適用に際しては、以下の点に注意する。

      1. アウトライヤー基準の金利リスク料の算出における標準的金利ショック(上記1.2.の2種類の金利ショック)は銀行の選択に委ねられる。
      2. 上記のように、金利リスク量はコア預金の定義によって大きく変動することとなる。そのため、コア預金について、以下のa.又はb.の定義を用いることとする。一度選択したコア預金の定義は、合理的な理由がない限り継続して使用しなければならない。
         a.①過去5年の最低残高、②過去5年の最大年間流出量を現残高から差し引いた残高、
         又は③現在高の50%相当額のうち、最小の額を上限とし、満期は5年以内(平均
          2.5年以内)として銀行が独自に定める。
        b.銀行の内部管理上、合理的に預金者行動をモデル化し、コア預金額の認定と期日
         への振分けを適切に実施している場合は、その定義に従う。
      3. 金利リスク料の算出に当たって、内部管理で使用しているモデルに基づく高度なリスク計算方法は、その合理性を当局に説明できる場合には使用することができることとする(例えば、契約上のキャッシュ・フローとは異なるキャッシュ・フローに基づくリスク計算や、市場金利と完全連動しない対顧客レートの予測推定に基づくリスク計算など)。

(注2)アウトライヤー基準に該当する場合であっても、当該銀行の経営が不健全であると自動的にみなされるものではなく、当局としても、必ずしも直ちに経営改善を求めるものではない。
また、改善が必要とされる場合でも、金融市場への影響等に十分配慮し、改善手法や時期等が適切に選択されるよう、特に留意して監督を行うものとする。

(注3)ゆうちょ銀行は、法令上、一部の資産について国債等の安全資産の保有が義務付けられているため、上記3.ⅱに基づく監督上の対応をするに当たっては、当該特殊事情を適切に勘案することとする。

(2)上記3.以外の場合であっても、検査結果やリスク管理ヒアリング等により、銀行の市場リスク管理体制に問題があると認められる場合には、必要に応じ、法第24条に基づき報告を求め、重大な問題があると認められる場合には、法第26条に基づき業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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