バーゼルⅡと信用リスク管理

バーゼルⅡは、次の3つの柱から構成されています。
成立の経緯、導入の動きや信用リスク計測手法を解説します。

バーゼルⅡの経緯

1988年7月にバーゼル銀行監督委員会が自己資本合意を定めて以来、約30年以上経過し、その間に銀行業の内容、リスク管理の実務、監督の手法、金融市場は大きく変化しています。

これらを踏まえて、1999年6月にバーゼルⅡ導入に向けて第一次市中協議案「自己資本の充実に係る枠組みについて(A Capital Adequacy Framework)を公表し、バーゼルⅠ合意を見直し、リスクの違いをより正確に反映するものにするための提案を実施しました。
その後、第二次、第三次の市中協議案を公表して金融業界や各国金融監督当局との協議を重ね、また、新提案が銀行に及ぼす影響について、各国の銀行に対し定量的な影響度調査を実施した上、提案の内容を見直し、2004年6月26日「自己資本の測定と基準に関する国際的統一化:改定された枠組(「バーゼルⅡ」最終文書)が公表されました。

公表されたバーゼルⅡのわが国の金融機関への適用に関しては、金融庁による自己資本比率規制についての素案の公表・意見募集(2004年10月~11月)、見直し後の規制案 の公表(2005年3月)、再見直し後の告示案ならびに銀行以外の預金取扱金融機関に関する告示案の公表と意見募集(2005年12月~2006年1月)を経て、2006年3月27日、「銀行法第14条の2の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(金融庁告示19号)をはじめとする業態毎のいわゆる「自己資本比率告示」が官報掲載され、2007年3月期(ただし、 信用リスクに係る先進的内部格付手法採用行およびオペレーショナル・リスクに係る先進的計測手法採用行に関する規定は2008年3月期)から適用されています。

【自己資本に関するバーゼル合意の流れ】

  • 1998年7月     バーゼルⅠ制度の公表
  • 1992年末       バーゼルⅠ合意の適用開始
  • 1999年6月     新しい合意に関する第一次市中協議案の公表
  • 2001年1月     第二次市中協議案の公表
  • 2003年4月     第三次市中協議案の公表
  • 2004年6月     「自己資本の測定と基準に関する国際的統一化:改定された枠組」
              (バーゼルⅡ)の公表
  • 2004年10月〜11月 「新しい自己資本比率規制」(第一の柱)素案の公表、意見募集
  • 2005年3月     見直し後規制案の公表、意見募集
  • 2005年11月     第二の柱に係る「実施方針」公表
  • 2005年12月〜    再見直し後の告示案の公表、意見募集
              第三の柱に係る告示案の公表
  • 2006年3月     金融庁「自己資本比率告示」官報掲載
              「バーゼルⅡに関するQ&A」公表
              (→その後、追加修正あり)
  • 2007年3月     バーゼルⅡ適用開始
                (先進的手法については、2008年3月末から)

 

バーゼルⅡの概要

バーゼルⅡ合意は、次の3つの柱からなっており、この柱は互いに補強しあって三位一体として金融システムの安全性と健全性に寄与するものです。

【バーゼルⅡ合意の3つの柱】

  • 第一の柱  最低所要自己資本比率規制
  • 第二の柱  金融機関の自己管理と監督上の検証
  • 第三の柱  市場規律

すなわち、この合意は、
①バーゼルⅠ合意を基礎としつつ、リスク感応度のより高い精緻なリスク計測手法の採用を促すとともに
②銀行自身が内部統制や経営管理を整備してリスクに対する自己資本充実度の評価を行い、
 監督当局がその状況を検証するプロセスを確率する
③銀行が行う開示(ディスクロジャー)を充実させ市場規律の強化を測ること
が求められています。

バーゼルⅠの見直し理由:より柔軟に、よりリスク感応的に

バーゼルⅠ合意 バーゼルⅡ合意の内容
単一のリスク計測が中心 ①銀行自身の内部管理手法
②監督上の検証
③市場規律
の3つを重視
多様な銀行に一律の枠組みを適用
(one size fits all)
柔軟性を持った枠組み
複数の手法をメニューとして提示
リスク管理向上へのインセンティブを提供
大雑把なリスク把握 リスクの違いをより正確に反映

 

 

バーゼルⅡにおける信用リスクの扱い

1.「第一の柱」最低所要自己資本比率規制について

  • 自己資本充実度の測り方

 

  • 信用リスク計測手法のメニュー(変更なし)
    標準的手法
    内部モデル手法
  • オペレーショナル・リスク計測手法のメニュー(新設)
    基礎的指標手法
    標準的手法
    先進的計測手法(AMA)

第一の柱では最低自己資本比率に関して定めています。
バーゼルⅡの枠組みにおいても、資本の定義と最低自己資本比率8%は、維持されています。
銀行グループ全体が持つリスク管理が勘案されることを確実にするため、見直し後の合意の適用範囲は、銀行グループの持株会社にも拡大されて、連結ベースで適用されます。

見直しの中心は、リスクの計測方法の改善(自己資本比率の計算式における分母の計算の仕方を改善)することです。
信用リスクの計測方法は、標準的手法と内部格付手法(基礎的内部格付手法、先進的内部格付手法)から各金融機関が選択することになります。内部格付手法を利用するためには、バーゼル委員会が定める基準にしたがって金融当局の承認を得る必要があります。

【信用リスク計測手法】

2.信用リスクのための標準的手法

標準的手法の基本的な考え方は、各資産の額やオフバランス取引の想定元本額(信用リスク・エクスポージャー)に所定のリスク・ウェイトを掛け合わせて信用リスク・アセットの額を計算し、それらの総額を算出します。

バーゼルⅡにおけるリスクウェイトは、事業法人向け債権等について信用力に応じたリスク・ウェイトの加減が認められています。(バーゼルⅠは、与信先の属性(政府、銀行・証券会社、事業法人等)によって一律定まっていました。)
例えば、事業法人向けの貸出(法人向けエクスポージャー)では、バーゼルⅠでは100%という単一のリスク・ウェイトしか用意されていませんが、バーゼルⅡでは、20%、50%、100%、150%の4つのリスク・ウェイトが用意されています。
また、中小企業・個人向け貸出や住宅ローンは、小口分散によるリスク軽減効果を考慮してリスク・ウェイトが軽減されており、遅滞債権についても引当率に応じたリスク・ウェイトが適用されるものとしています。

  • 中小企業向け・個人向け融資はリスク・ウェイトを軽減
与信先 バーゼルⅠ
規制
バーゼルⅡ
標準的手法 内部格付手法
国・地方公共団体 0% 0% (略)
政府関係機関 10% 10%
銀行・証券会社 20% 20%
事業法人(中小企業以外) 100% ※20〜150%
中小企業・個人 100% 75%
住宅ローン 50% 35%

※標準的手法では、一律100%とする手法も選択可能。

  • 引当率の低い不良債権は、加重、引当率の高い不良債権は、軽減
    ①標準的手法 (企業向け、90日以上遅滞債権)
引当率 0〜20% 20%〜50% 50〜100%
リスク・ウェイト 150% 100% 50%

 

3.内部格付手法(IRB)

一般的に、内部格付手法を用いた場合、標準的手法よりも最低所要自己資本の額が少なくて済むというメリットがあります。
ただし、内部格付手法を用いる場合には、自己資本比率の算出態勢を整備し自己資本告示で定められた要件を満たし、金融庁長官の承認を受けなければなりません。

自己資本比率告示の定義によれば、「事業法人向けエクスポージャーについてLGD及びEADの自行推計値を用いないことを条件として、内部格付手法を使用することについて金融庁長官の承認を受けた銀行」を「基礎的内部格付手法採用行」と言い、「事業法人向けエクスポージャーについてLGD及びEADの自行推計値を用いて内部格付手法を使用することについて金融庁長官の承認を受けた銀行」を「先進的内部格付手法採用行」と言います。

内部格付手法のもとでは、まず銀行が与信先の信用力を評価し、その結果を将来損失となる可能性のある額の推計値に換算したうえで、それをもとに最低所要資本額が計算されます。
この将来損失の推計値は、

  1. 債務者のデフォルト率(PD)
  2. デフォルト時損失率(LGD)
  3. デフォルト時エクスポージャー(EAD)

といったリスク構成要素から算出されますが、そのためには、卓越したクレジット・レビューのプロセスが確立されていなければなりません。
事業法人向け、政府向け、銀行向け与信については、基礎的手法と先進的手法の2種類の内部格付手法が用意されています。 基礎的手法の場合、銀行は個々の借手のデフォルト確率(PD)を推計しますが、その他の入力情報については当局が指定した計数を用います。

4.信用リスク削減手法及び証券化

バーゼルIIの枠組みでは、担保・保証、クレジット・デリバティブ、ネッティング、証券化の取扱いに関し、リスクをより正確に反映する手法が、標準的手法と内部格付手法ともに取り入れられています。
また、内部格付手法を採用した場合、リスク・ウェイトの範囲が標準的手法に比べてはるかに広く、リスク・アセットが圧縮される仕組みとなっており、内部格付手法の適用を促すものとなっています。

さらに、バーゼルIIでは、銀行がバランスシート圧縮策として行う証券化の取扱いについても規定しています。原債権者である銀行が証券化した資産をバランスシートから外すためには、「真正売買(更改、譲渡、信託宣言、サブパーティシペーションなど)」 を通じて行う必要があります。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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