市場リスク計測の基礎

市場リスク管理においては、様々なリスク計測手法が用いられています。

市場リスク計測の基礎

市場リスクについては、以前からトレーディング業務を中心に定量的なリスク把握がなされてきました。

市場リスクの計測手法は、リスク・カテゴリーに応じて、単純なものから複雑なものまで様々なものがありますが、市場リスクの計測手法の基礎となる用語や考え方について、改めて解説します。

ポジション

「ポジション」とは、市場取引(証券取引、外国為替取引、等)において、対象となる商品を買い越し又は売り越しとなっている持ち高を言います。
ポジションは、市場リスクに晒されていることからエクスポージャーとも言われます。

ポジションは、取り扱う商品の数量で計量する場合、同様のリスク・カテゴリーにおける標準的な商品に換算して軽量する場合(例:日本国債10年標準物換算〇億円相当額、米ドル換算〇百万ドル相当額)、円貨額で軽量する場合など、各金融機関におけるリスク管理の取り決めに従って様々な規定方法があります。

ポジションの種類

対象商品を買い越していることを「ロング・ポジション」といい、売り越していることを「ショート・ポジション」といいます。
ロング・ポジションの場合、市場価格が上昇すると収益となり、市場価格が下落すると損失が発生します。
反対に、ショート・ポジションの場合には、市場価格が上昇すると損失が発生することになります。

 

評価損益と実現利益

評価損益や実現損益は、財務会計上では、詳細な取り決めがありますが、市場リスク管理の観点から示すと次のようになります。

「実現損益」とは
資産(有価証券等)を売却又は決済し、取引を完結させたときに発生する確定した利益又は損失です。

「評価損益」とは
資産(有価証券等)を保有している(ポジションを持っている)場合に、これを時価で評価することによって算出した損益です。評価損益は、未実現の損益であり、確定した損益ではありません。

市場取引の総合損益は、「総合損益=実現損益+評価損益」として捉えることができます。

未実現の損益として、財務・経理においては、期間帰属計算に応じた「未収収益、未払費用」がありますが、これらは、決算における登記の損益計算(期間損益)に際して用いられるものであり、時価評価を前提とする評価損益とは考え方を異にしたものなので注意が必要です。

 

現在価値と期間収益

金融検査マニュアルでは、市場リスクについて次のように定義し、「資産・負債の価値が変動し損失を被るリスク」、「資産・負債から生み出される収益が変動して損失を被るリスク」という二次元的な捉え方をしています。

市場リスクとは、金利、為替、株式等の様々な市場のリスク・ファクターの変動により、資産・負債(オフ・バランスを含む。)の価値が変動し損失を被るリスク、資産・負債から生み出される収益が変動し損失を被るリスクをいう。

市場リスクの計測手法として一般的になったVaRの考え方は、金融機関の資産・負債の価値の変動に着目したリスク計測手法です。

一方で、金融機関の決算、当期の損益状況(期間収益)がどうなるかは、経営陣をはじめ、金融機関に関係する多くの者にとって関心の高いところであり、特に保有株式や国際・地方債等の投資有価証券、バンキング勘定の金利リスクを中心とした市場リスク期間収益に与える影響が注視されます。

現在価値(PV:Present Value)とは、ポートフォリオが生み出す将来のキャッシュフローを利子率で割り引いて集計したものをいいます。

PV=ΣCt×{1/(1+r}  

Ct:t期のキャッシュフロー    

:t期の利子率(スポットレート)

上記のとおり、現在価値は、ポートフォリオの満期まで将来の全期間にわたるキャッシュフローについて、期間に応じた割引率を用いることによって算出できます。
これに対して、期間収益は、指定された期間(例えば、金融機関の決算期に合わせた1年間、もしくは、半期、四半期)における損益の状況に焦点を合わせた考え方になります。
期間収益の考え方は、一般に金融機関のALM管理において重視されており、また、わが国の機関投資家による債権運用が毎期支払われるクーポンの高い銘柄を選考する「直利重視」であったこともこの現れといえます。

 

債券の理論価格と現在価値

金利リスクの計測手法、特にデュレーション・ギャップ法やBPV・GPSの出発点として、現在価値の考え方に基づいた債権の理論価格の算出方法について説明します。

1.割引債の評価

割引債の理論価格は、満期時に額面金額で償還される債権を利子率で割り戻した現在価値が債券価格になるという考え方に基づいています(ただし、この理論価格は、完全資本市場や効率的市場であることが、その前提となります)。

例えば、金融市場における1年物の利子率が2%、2年物の利子率が2.5%とすると、額面100百万円の割引債の現在価値は、1年満期が98.039百万円、2年満期が95.181百万円になります。

2.利付債の評価

利付債は、一定期間(半年、1年など)毎にあらかじめ定められたクーポン(利金)が支払われ、満期時に最終回のクーポンと額面額が得られる債権です。
利付債の評価は、先に述べた「キャッシュフローが複数機関にわたって発生する場合、この投資の現在価値は、それぞれのキャッシュフローの現在価値を合計したものに等しくなる」という性質に基づいて計算できます。
これを計算すると次のようになります。

例えば、金融市場における利子率が、1年物 2.0%、2年物 2.5%、3年物 3.0%であるとき年払いクーポン率が3.0%、満期3年の利子債(額面100百万円)の現在価値は、次のようにして100.06百万円として算出されます。

期間(t) 1年目 2年目 3年目 累計
キャッシュフロー(Ct) 3 3 103  
利子率(rt) 2.0% 2.5% 3.0%  
ディスカウント・ファクター
(DF=1/(1+rt)^t)
1/1.02=0.9804

1/(1.025)=0.9518

1/(1.03)3=0.9151  
現在価値
(PV=Ct×DF)
2.94 2.86 94.26 100.06

 

債券は、このようにして算出された現在価値をベースに需給動向など他の要因を勘案した債券価格によって売買されます。したがって、市場金利と債券価格の間には、市場金利が上昇すると割引率が大きくなって債券価格は下落し、反対に、市場金利が低下すると割引率が小さくなって債券価格が上昇するという関係があります。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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