不正行為への対応

不正行為は、内部統制又は情報システムセキュリティの弱点・欠陥があるところで発生する可能性が高いです。
不正行為に対する内部監査の立場は、組織によって異なるため、内部監査部門は、不正行為に対する自らの役割をあらかじめ定めておく必要があります。
内部監査部門の不正行為への対応について、説明します。

不正行為とは

不正行為とは、利益を得る目的で資産その他の着服等を隠微するために、財務諸表及びその他の記録を意図的に歪める行為のことです。
不正行為に法的な定義はありませんが、窃盗、贈収賄及び汚職、偽造、共謀などが不正行為に当たるものと考えられます。

また、不正行為は、組織体の外部者を欺く不正と組織体の内部者あるいは、組織体そのものを欺く不正に区分することもできます。

組織体の外部者を欺く不正の例

  • 外部の関係者に組織体の財務状態をよりよく示すために、重要な情報の記録ないし開示を意図的に行わないこと
  • 法令、規則、規制、契約への違反のような禁止された企業活動
  • 脱税

組織体の内部者あるいは組織体そのものを欺く不正の例

  • 賄賂やキックバックの受領
  • 金銭や資産の私消のような横領着服
  • 実際には組織体に提供されていないサービスや製品についての支払請求

 

不正行為は、次の4つの構成要素からなるものと分析できます。

  1. 動機
  2. 誘引
  3. 機会
  4. 隠微

 

不正行為の兆候

一般的に不正行為が行われる際には、次のような兆候が見られることが多いため、見逃さないように注意する必要があります。

比較・分析の際に説明がつかない異常な変動

日常の管理プロセスや内部監査等の中で、業務の分析・評価・比較を行うことによって、異常な変動が見られたら、説明を要求します。
例えば、特定の月だけ異常に交際費が増加している場合、交際費の指摘流用の可能性があります。

訂正・修正された文書

不正行為を隠避するために文書が未承認で訂正・修正された可能性があります。

文書の紛失

未使用の小切手といった重要証憑が紛失した場合、不正行為の可能性があります。
また、システムで自動的に連番管理されている証憑について、欠番の発生は原因を究明する必要があります。

原文書のコピーの使用

コピーは、原文書の訂正・修正を隠避するために行われる場合があります。
過去には、残高証明書等をコピーで偽造したという例があります。

取引相手先からのクレーム

支払が済んでいるにも関わらず、取引先からの未収のクレームが来た場合には、相手先相違、勘定相違あるいは、不正行為の可能性があります。

職員の習慣

不正行為を行っている者は、早朝や深夜も仕事をしている場合があります。
また、仕事に対して過度な不平・不満を持っている者も不正行為を起こす可能性があります。

 

不正行為に対する内部監査部門の役割と責任

不正行為に対する内部監査部門の役割は、内部監査部門が置かれている状況によって異なりますので一義的に規定することはできません。

内部監査の目的は、不正行為の摘発に限定されるものではありませんが、内部監査は、不正行為を摘発するのに役立つという期待を経営者が持っているため、不正行為の摘発が内部監査部門の役割として重視されがちです。
役割には、責任が伴うため、各企業において不正行為に関する内部監査部門の役割について明確にしておく必要があります。
原則論としては、次のとおりです。

  • 金融機関として不正行為についての明確な方針を定義する。
  • 不正行為の解決に携わる経営陣によって最高意思決定されるようにする。
  • 経営者が不正行為の調査・解決に対する全責任を持つことを明らかにし、内部監査部門は助言(コンサルティング)機能として関与する。
  • 内部監査規程において、内部監査部門の不正行為に対する役割を明記する。
  • 内部監査部門が不正行為の調査を行う場合、経営陣によって操作されないように注意する。
  • 内部監査部門は、経営陣が内部統制の欠陥を修正する責任があると認識していることを確認する。

内部監査部門の判断

自社の内部管理態勢(内部統制)は、業務活動の様々な局面において、想定される潜在的な影響やリスクの程度に対応したものとなっていなければなりません。内部監査部門は、内部管理態勢の妥当性と有効性を調査し、評価することを通じて、不正行為の発生を抑止することに役立つ責任があります。
そのためには、内部監査部門において、次の点について判断することが求められます。

  • 自社の統制環境は、役職員のコントロール意識を高めるものとなっているか。
  • 現実的な組織目標や目的が設定されているか。
  • 禁止行為や違反が発見された場合の措置を定めた方針書(例えば、倫理行為規程など)があるか。
  • 取引に対する適切な権限住所の方針が設定され維持されているか。
  • 特にリスクの高い領域に対して、業務の監視を強化して資産保全を図る方針、実務、手続、報告書などがあるか。
  • 経営陣に適時適切な報告がなされるような報告・連絡態勢が整備されているか。
  • 内部統制の改善を促すためになされる内部監査結果の勧告事項は、不正行為の抑止にも配慮した内容となっているか。

内部監査担当者の責任

内部監査を遂行するにあたって、不正行為の発見に対する内部監査の担当の責任は、次のとおりです。

  • 不正行為の兆候を知ることができるよう、不正について十分な知識を得ること。
    この知識には、不正の特徴、不正を行う方法、監査対象活動と関連付けられる不正の種類を知ることが含まれます。
  • コントロールの弱点のように、不正行為の発生を許すかもしれない機会に油断なく気を配ること。
    万が一、内部監査部門以外の者に重大なコントロールの弱点が知られてしまったときは、内部監査人は追加的なテストを実施し、それ以外の不正行為の兆候を掴むようにすべきです。
    兆候の例としては、権限が授与されていない取引、コントロールの無視、無断での例外的な値決め、高額取引等の異常な損失などが挙げられます。
    内部監査の担当者は、複数の兆候がなんらかの時点で存在しているということは、不正行為が実際に発生している可能性が高まっているということを認識しなければなりません。
  • 不正行為が行われているのではないかという兆候を評価し、さらにどのような措置が必要か、あるいは、調査の実施を勧告すべきかを決定すること。
  • 調査を勧告すべき不正の兆候が十分にあるときは、組織体内の適切な権限を持つ者に知らせること。

 

内部監査の担当者は、不正の発見と調査に第一義的な責任を負う者と同等の知識を持つものとはされていません。
同時に内部監査手続は、たとえそれが正当な職業上の注意をもって遂行されたとしても、不正が発見されることを保証するものではありません。

 

不正の疑いが出た場合の措置

内部監査の担当者は、不正行為が行われているとの疑いを持った場合、適切な権限を持つ者に報告することが求められます。

不正行為の調査権限を有する者は、報告を受けて事実確認のため、調査を実施します。
当該調査では、発見された不正行為の内容についての情報を十分に収集することが重要です。
内部監査人、弁護士、調査担当者、セキュリティ担当者、その他組織体の内外からのスペシャリストが通常、不正行為の調査を実施する関係者となります。

不正行為の調査を実施するにあたり、内部監査の担当者は、次のことを行わなければなりません。

  • 組織体において不正行為が起こり得る程度と共謀が行われる範囲を評価すること。
    これは、内部監査人が不正に関与しているかもしれない者情報を提供したり、あるいはそのような者から誤った情報を得たりすることを回避するために、非常に重要です。
  • 調査を効果的に実施するために必要な知識、技術、技能、専門的な基準を確立すること。
    調査対象者は、組織体のいかなる従業員や経営管理者とも関係がないようにすべきです。
  • 犯人、不正の程度、用いられる方法、動機を明らかにすることができるような監査手続を計画すること。
  • 調査活動の全過程を通じて、経営管理者や法務担当者やその他のスペシャリストとその活動を適切に調整すること。
  • 疑われている者や従業員の権利及び組織体自体の評価に配慮すること。

 

不正行為の調査技術

不正行為の調査技術としては、次の方法などがあります。

1.インタビュー(質問)

不正行為を調査では、事実確認と情報入手のために、インタビューが有効となります。
質問の形式や対象者を理論的に選択し、真実を引き出す必要があります。

インタビューの手順例

  1. インタビューの対象者に対して、インタビューの目的と手続を説明します。
  2. 質問があるか確認します。
  3. 様々な範囲にわたって質問を行います。
  4. 質問の結果を文書に記録します。
  5. 文書記録の正確性を対象者と確認し、コピーを対象者に渡します。

インタビュー時の留意点

  • 誘導的・暗示的質問は行わないこと
    誘導的・暗示的質問は、対象者に不正行為調査であることを悟られてしまうおそれや、誤った回答を引き出す恐れがあります。
  • 犯罪用語(着服・横領・不正等)の使用は避けること
    不正行為調査の場合は、対象者に犯罪捜査という印象を与えないように注意します。
  • インタビューを急がないこと
    インタビューは、時間制限がないことを示し、対象者に真実追求が目的であることを理解させるようにします。
  • 対象者のインタビューの順番・場所を考慮する
    外堀を固めてから本丸を責めるというのが操作の定石と言われています。
    対象者が複数いる等、場合によっては別室において1対1でインタビューを行うことを検討します。他人がいたら回答しにくい場合や自分に責任がないことを主張しにくい場合に有効です。

分析的手続

分析的手続は、粉飾決算等の不正行為を発見する1つの調査技術になります。

事前調査

着服・横領等の不正行為調査のためには、事前にその疑いのある役職員の担当業務を詳細に調査する必要があります。
特に、当該職員の管理者から情報を入手して、インタビューの基礎資料とします。
また、管理者による牽制効果の向上も期待できます。

 

不正行為調査の結論づけと報告

内部監査部門の担当者が不正行為の調査を結論づけるには、判明した事実を評価し、次のことを実施するべきです。

  • 今後、管理システムの弱点を減少させるために、コントロール手段を強化し、実施する必要があるかどうかを判断すること。
  • 将来的に同じような不正行為の存在を明らかにできるような監査のあり方を計画すること。
  • 不正行為に関する十分な知識を保持し、将来的に不正行為の兆候を識別するという内部監査人の責任を果たすために役立てること

経営管理者に対する報告は、不正行為調査の進行状況や結果に応じて、手段(口頭又は報告書)、タイミング(中間段階又は最終段階)を考慮して適宜行う必要があります。
報告書の中には、発見事項、結論、勧告事項、是正措置を記載すべきです。
なお、重大な不正行為が行われていることが合理的に判断できるときは、直ちに経営者及び取締役会に報告しなければいけません。
中間報告又は最終報告における結論と共に、結論の根拠も示す必要があります。
また、報告の中では、結論の根拠情報が必要十分に入手できたかどうかについても触れなければいけません。不正行為についての最終報告書の草稿は、法務担当部署によるリーガル・チェックを受けるべきです。

不正行為の結果として、1年又はそれ以上にわたって、組織体の財政状態や経営成績(財務諸表として既に公表されているものを含む)が、既に重大な悪影響を受けているようなケースもあり、内部監査部門は、その旨を経営者及び取締役会に報告しなければなりません。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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