確認検査用チェックリスト構成と「検証ポイント」

金融検査マニュアルの市場リスク管理態勢の確認検査用チェックリスト及び流動性リスク管理態勢の確認検査用チェックリストの構成と特徴及び「検証ポイント」を説明します。

金融検査マニュアルにおけるチェックリストの構成

金融検査マニュアルでは、各リスク管理態勢の確認検査用チェックリストは、共通フォーマットとしてそれぞれ次の3つの部分から構成されており、経営陣の役割・責任、管理者の役割・責任、個別問題点の切り口からリスク管理体制をチェックするものとしています。

Ⅰ.経営陣による市場リスク管理態勢の整備・確率状況
Ⅱ.管理者による市場リスク管理態勢の整備・確率状況
Ⅲ.個別の問題点

Ⅰ.Ⅱ.Ⅲ.の各章の冒頭に「検証ポイント」がありますが、次のように、Ⅱ.Ⅲ.のチェック項目の検証から判明した問題点についても経営陣の責に追うべきものがないか確認するものとしています。金融検査においては、リスク管理態勢の整備・確率を主導すべき経営陣の役割・責任が厳しく問われています。

【Ⅰ.の「検証ポイント」(抜粋)】

  • 検査官は、①方針の策定、②内部規定・組織体制の整備、③評価・改善態勢の整備がそれぞれ適切に経営陣によってなされているかといった観点から、市場リスク管理態勢が有効に機能しているか否か、経営陣の役割と責任が適切に果たされているかをⅠ.のチェック項目を活用を活用して具体的に確認する。
  • Ⅱ.以降のチェック項目の検証において問題点の発生が認められた場合、当該問題点がⅠ.のいずれの要素の欠如又は不十分に起因して発生したものであるかをもれなく検証し、双方向の議論を通じて確認する。
  • 検査官が認識した弱点・問題点を経営陣が認識していない場合には、特に、態勢が有効に機能していない可能性も含めて検証し、双方向の議論を通じて確認する。
  • 検査官は、前回検査における指摘事項のうち、軽微でない事項の改善状況について検証し、実効性のある改善策が策定され実行されているか否か確認する。

【Ⅱ.の「検証ポイント」(抜粋)】

  • 本性においては、管理者及び市場リスク管理部門が果たすべき役割と負うべき責任について検査官が検証するためのチェック項目を記載している。
  • Ⅱ.の各チェック項目の検証において問題点の発生が認められた場合、当該問題点がⅠ.のいずれの要素の欠如又は不十分に起因して発生したものであるかをⅠ.のチェックリストにおいて漏れなく検証し、双方向の議論を通じて確認する。
  • 検査官が発見した問題点を経営陣が認識していない場合には、特に上記Ⅰ.の各態勢及びその過程が適切に機能していない可能性も含め、厳格に検証し、双方向の議論を通じて確認する。
  • 検査官は、前回検査における指摘事項のうち、軽微でない事項の改善状況について検証し、実効性のある改善策が策定され実行されているか否か確認する。

【Ⅲ.の「検証ポイント」(抜粋)】

  • 本章においては、市場リスク管理の実態に即した個別具体的な問題点について検査官が検証するためのチェック項目を記載している。
  • Ⅲ.の各チェック項目の検証において問題点の発生が認められた場合、当該問題点がⅠ.又はⅡ.のチェックリストにおいて漏れなく検証し、双方向の議論を通じて確認する。
  • 検査官が発見した問題点を経営陣が認識していない場合には、特に上記Ⅰ.の各態勢及びその過程が適切に機能していない可能性も含め、厳格に検証し、双方向の議論を通じて確認する。
  • 検査官は、前回検査における指摘事項のうち、軽微でない事項の改善状況について検証し、実行性のある改善策が策定され実行されているか否か確認することとする。

 

市場リスク管理態勢の確認検査用チェックリスト

「市場リスク管理態勢の確認検査用チェックリスト」のチェック項目の概要は次のとおりです。

Ⅰ.経営陣による市場リスク管理態勢の整備・確率状況
 1.方針の策定
  ①取締役の役割・責任
  ②市場部門の戦略目標の整備・周知
  ③市場リスク管理方針の整備・周知
  ④方針策定プロセスの見直し

 2.内部規定・組織態勢の整備
  ①内部規定の整備・周知
  ②限度枠の適切な設定
  ③市場リスク管理部門の態勢整備
  ④市場部門、営業推進部門等における市場リスク管理態勢の整備
  ⑤取締役会等への報告・承認態勢の整備
  ⑥監査役への報告態勢の整備
  ⑦内部監査実施要領及び内部監査計画の策定
  ⑧内部気規程・組織体制の整備プロセスの見直し

 3.評価・改善活動
 (1)分析・評価
   ①市場リスク管理の分析・評価
   ②分析・評価プロセスの見直し

 (2)改善活動
   ①改善の実施
   ②改善活動の進捗状況
   ③改善プロセスの見直し

「Ⅰ.経営陣による市場リスク管理態勢の整備・確立状況」では、経営陣は、リスク管理態勢の整備・確立に向けて、「方針の策定」、「内部規程・組織体制の整備」、「評価・改善活動」を行うことが要求されており、PDCAサイクルを回すことが強調されています。

Ⅱ.管理者による市場リスク管理態勢の整備・確立状況
 1.管理者の役割・責任
  ①市場リスク管理規定の整備・周知
  ②市場リスク管理規定の内容
  ③管理者による組織体制の整備
  ④市場リスク管理規程及び組織体制の見直し

 2.市場リスク管理部門の役割・責任
 (1)市場リスクの特定・評価
   ①市場リスクの特定
   ②市場リスクの計測・分析
   ③統一的な尺度によるリスク量の計測
   ④ストレス・テスト
 (2)モニタリング
   ①市場リスクのモニタリング
   ②限度枠の遵守状況等のモニタリング
   ③取締役会等への報告
   ④市場部門等への還元
 (3)コントロール及び削減
   ①管理不可能な市場リスクが存在する場合の対応
   ②限度枠を超過した場合の対応
 (4)検証・見直し
   ①市場リスク管理の高度化
   ②市場リスクの特定に関する見直し
   ③市場リスクの評価方法の見直し
   ④限度枠の設定方法及び設定枠の見直し
   ⑤戦略目標等の見直し

「Ⅱ.管理者による市場リスク管理態勢の整備・確立状況」では、市場リスク管理部門の管理者の役割・責任が示されるとともに、市場リスク管理部門が実施する{リスクの特定・評価}ー{モニタリング}ー{コントロール・削減}というリスク管理プロセス、さらにプロセスの見直しについて検証することとされています。

Ⅲ.個別の問題点
 1.市場業務運営

 2.資産・負債運営
 (1)方針等の策定及び体制
 (2)適切な資産・負債運営

 3.ファンド
 (1)審査管理
 (2)継続的なリスク管理
 (3)その他

 4.市場リスク計測手法
 (1)市場リスク計測態勢の確立
 (2)取締役、監査役及び取締役会等の適切な関与
 (3)独立した市場リスク管理部門の設置
 (4)市場リスク管理のための人員の配置
 (5)市場リスク計測手法の研究体制
 (6)市場リスク計測手法に関する内部規定等の整備
 (7)市場リスク計測手法の通常の市場リスク管理手続への取組
 (8)市場リスク計測
 (9)一般市場リスクの計測
    (一般市場リスクに関するリスク量を計測している場合)
 (10)個別リスクの計測
    (マーケット・リスク規制対象金融機関、又は個別リスクに関するリスク量を計測している
     場合)
 (11)追加的リスクの計測
    (マーケット・リスク規制対象金融機関、又は追加的リスクに関するリスク量を計測して
     いる場合)
 (12)包括的リスクの計測
    (包括的リスクについて内部モデル方式を用いて計測する金融機関)
 (13)バック・テスティング
    (統計的手法でリスク量を計測している場合)
 (14)マーケット・リスク規制におけるマーケット・リスク相当額の算出
    (マーケット・リスク規制対象の金融機関の場合)
 (15)ストレス・テスト
    (統計的手法でリスク量を計測している場合)
 (16)市場リスク計測手法の正確性や適切性の検証
    (統計的手法でリスク量を計測している場合)
 (17)市場リスク計測手法に関する記録
    (統計的手法でリスク量を計測している場合)
 (18)監査
    (統計的手法でリスク量を計測している場合)

 5.外部業者が開発した市場リスク計測モデルを用いている場合

 6.システム整備

 7.時価算定

 8.特定取引関連(特定取引勘定設置金融機関の場合)

「個別の問題点」では、市場リスク管理態勢の中で金融検査感が着目すべき項目が列挙されています。
これらの中では、「3.ファンド」の新設、「4.市場リスク計測手法」(従来の「内部モデルの確認検査用チェックリスト」を拡張して取り込んだもの)が目立つところです。

 

流動性リスク管理態勢の確認検査用チェックリスト

「流動性リスク管理態勢の確認検査用チェックリスト」のチェック項目の概要は次のようになっています。

Ⅰ.経営陣による流動性リスク管理態勢の整備・確立状況
 1.方針の策定
  ①取締役の役割・責任
  ②流動性戦略の整備・周知
  ③流動性リスク管理方針の整備・周知
  ④方針策定プロセスの見直し

 2.内部規程・組織体制の整備
  ①内部規程の整備・周知
  ②限度枠の適切な設定
  ③流動性リスク管理部門及び資金繰り管理部門の態勢整備
  ④金繰り管理部門、市場部門、営業推進部門等における流動性リスク管理態勢の整備
  ⑤取締役会等への報告・承認態勢の整備
  ⑥監査役への報告態勢の整備
  ⑦内部監査実施要領及び内部監査計画の策定
  ⑧内部規程・組織態勢の整備プロセスの見直し

 3.評価・改善活動
 (1)分析・評価
   ①流動性リスク管理の分析・評価
   ②分析・評価プロセスの見直し
 (2)改善活動
   ①改善の実施
   ②改善活動の進捗状況
   ③改善プロセスの見直し

Ⅱ.各管理者による流動性リスク管理態勢の整備・確立状況
 1.流動性リスク管理部門の管理者及び資金繰り管理部門の管理者の役割・責任
  ①流動性リスク管理規定の整備
  ②流動性リスク管理規定の内容
  ③流動性危機時の対応策(コンティンジェンシー・プラン)の策定
  ④流動性リスク管理部門の管理者及び資金繰り管理部門の管理者による組織体制の整備
  ⑤流動性リスク管理規定及び組織体制の見直し

 2.流動性リスク管理部門の役割・責任
 (1)流動性リスクの特定・評価
   ①流動性リスクに影響を与える要因の特定
   ②流動性リスクの統合的な管理
   ③流動性リスクの評価
   ④現状の資金繰りの逼迫(ひっぱく)度区分の判定
   ⑤流動性リスクの計量方法
 (2)モニタリング
   ①流動性リスクのモニタリング
   ②限度枠の遵守状況等のモニタリング
   ③資金繰りの逼迫(ひっぱく)度区分の判定基準の適切性等のモニタリング
   ④取締役会等への報告
   ⑤資金繰り管理部門、市場部門等への還元
 (3)コントロール及び削減
   ①限度枠を超過した場合の対応
   ②資金繰りの逼迫(ひっぱく)度が変更される場合の対応
   ③流動性危機時の調達手段の確保
 (4)検証・見直し
   ①流動性リスクに影響を与える要因の特定の妥当性の検証及び要因発生時の報告基準の見直し
   ②流動性リスクの分析・評価方法の見直し
   ③限度枠の設定方法及び設定枠の見直し
   ④資金繰りの逼迫(ひっぱく)度区分、判定基準等の見直し
   ⑤流動性危機時の対応策(コンティンジェンシー・プラン)の見直し

 3.資金繰り管理部門の役割・責任
  ①適切な資金繰り運営・管理
  ②資金繰りの表の作成
  ③資金繰りへの影響の把握
  ④運用予定額・調達可能額の把握
  ⑤流動性危機管理
  ⑥流動性リスクのコントロール及び削減
  ⑦流動性危機時の調達手段の確保
  ⑧流動性リスク管理部門への報告
  ⑨取締役会等への報告

Ⅲ.個別の問題点
 1.市場部門、営業推進部門等の役割・責任
  ①市場流動性リスクを勘案した運用
  ②流動性リスクに影響を与える要因発生時の報告

 2.ALM委員会等の役割・責任
  ①流動性戦略等の策定
  ②ALM委員会等の体制

流動性リスク管理態勢の確認検査用チェックリストでは、ミドル・オフィスとしての「流動性リスク管理部門」と資金繰りの運営を行う部門としての「資金繰り管理部門」の管理者の役割・責任が並べて表記されています。
この点は、市場リスク管理における「市場リスク管理部門」と「市場部門」の関係と比較すると、流動性リスク管理に特徴的なものと見ることができます。

 

検証ポイントに見る金融検査のスタンス

各確認検査用チェックリストのⅠ.の「検証ポイント」では、リスクの定義を明確にしたうえで、いくつかのポイントが示されています。
この検証ポイントでは、各金融機関に固有の戦略目標、業務の規模・特性、リスク・プロファイルに見合った適切なリスク管理態勢であるか確認しなければならないことが強調されています。
このことを金融機関の立場から見ると、「自己責任の原則」に基づき金融機関の自立的な(リスク管理を含む)内部管理態勢の整備・確立が促されていることであり、金融検査マニュアルやバーゼルⅡにおいても一貫して見られた金融監督・金融検査の姿勢を、さらに鮮明にしたものです。すなわち、「金融機関のリスク管理態勢の是非を判断する基準は、検査マニュアルにあるのではなく、金融機関自身の中にある」と言えます。

【市場リスク管理態勢の確認検査用チェックリスト Ⅰ.【検証ポイント】(抜粋)】

  • 金融機関における市場リスク管理態勢の整備・確立は、金融機関の業務の健全性及び適切性の観点から極めて重要であり、経営陣には、これらの態勢の整備・確立を自ら率先して行う役割と責任がある。
  • 検査官は、検査官は、金融機関の戦略目標、業務の規模・特性及びリスク・プロファイルに見合った適切な市場リスク管理態勢が整備されているかを検証することが重要である。
    なお、金融機関が採用すべき市場リスク計測・分析方法の種類や水準は、金融機関の戦略目標、業務の多様性及び直面するリスクの複雑さによって決められるべきものであり、複雑又は高度なリスク計測・分析方法が、全ての金融機関にとって適切な方法であるとは限らないことに留意する。
  • 本チェックリストで多岐にわたる検証項目を記載しているが、検証に当たって、 検査官は、金融機関の運用戦略、投資スタイル、取引規模、リスク・プロファイル、リスク管理方法、リスク計測手法等に応じて検証すべき項目を決定する必要がある。
    「例えば〜」として記載している検証項目はあくまでも例示であり、検査官は、業務の規模・特性、リスク・プロファイル等に応じて必要性を判断すべきである。「〜している場合は」とあるのは、検査官が、金融機関がその管理方法や計測手法を使用している、又は使用する必要があると判断される場合において検証すべき項目である。

 

【流動性リスク管理態勢の確認検査用チェックリスト Ⅰ.【検証ポイント】(抜粋)】

  • 金融機関における流動性リスク管理態勢の整備・確立は、金融機関の業務の健全性及び適切性の観点から極めて重要であり、経営陣には、これらの態勢の整備・確立を自ら率先して行う役割と責任がある。
  • 検査官は、金融機関の戦略目標、業務の規模・特‘性及びリスク・プロファイルに見合った適切な流動性リスク管理態勢が整備されているかを検証することが 重要である。
  • 本チェックリストにおいては、流動性リスク管理部門を流動性リスクの管理を行う部門と、資金繰り管理部門を資金繰りの運営を行う部門と位置づけた上で、 流動性リスク管理態勢にかかる検証項目を記載している。検査官は、金融機関によって流動性リスク管理部門と資金繰り管理部門の果たすべき役割と負うべき責任の範囲が異なることに留意し、流動性リスク管理が全体として適切に機能しているかを検証する必要がある。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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