リスク管理の基本方針の内容

リスク管理の基本方針は、組織のリスク管理に対する姿勢を明示するものです。
リスク管理態勢は、当然ながらそれぞれの金融機関が目指す経営戦略、リスク・テイクの大きさによってことなってきます。そのため、業務上の取引において、どのような目的、分野でどの程度のリスクを取るかといった経営上の基本方針を定める必要があるのです。
一般的には、「リスク管理の基本方針」には、次のような事項が定められている必要があります。

リスク基本方針の内容

1.戦略目標の設定

リスク管理においては、リスク管理手法や規程を定める前提として、金融機関の各収益部門の戦略目標を設定する必要があります。理由は、どのような業務をどのように遂行していくことを組織の目的とするのかが明確化されれば、それを達成する際の不確定要素として、リスクというものがとらえられるからです。
戦略が明確化できないと、どこまでのリスクをどの程度管理すべきかが特定されません。そういう状況下でリスク管理体制を構築することになると、全ての面において完全に対応しようとして、コスト過多のリスク管理態勢を構築してしまったり、リスクの所在を無視した管理態勢となったりすることに陥りがちです。

【リスク管理基本方針の主な内容】

2.取り扱う金融商品・市場の特定

戦略目標が固まれば、リスク管理態勢のプロセスを具体化します。その際には、その戦略目標の下で取り扱う金融商品の種類や積極的に開拓していく市場、もしくは業務の内容を選定します。
そして、管理すべきリスクの種類を特定します。これでリスク管理部門がカバーするリスクの範囲が決定されます。
この段階では、リスク・マネジメントで一般的な次に示す「リスク対応」の考え方を念頭に置いておくとよいでしょう。

【リスク対応の類型例】

  • リスク活用:リスクを積極的に取る
  • リスク甘受:リスクを消極的に取る
  • リスク軽減:リスクをコントロールする
  • リスク移転:リスクを他へ移す(保険・ヘッジ・外部委託等)
  • リスク回避:リスクは取らない、リスクあるものは取り扱わない

3.リスク量の限度の設定

金融商品やマーケット、あるいは金融業務が特定されると、その業務や取引をどの程度の規模で取り扱うのか、明確なイメージを持つことが必要になります。
例えば、信用リスクについては、どの程度まで与信を伸ばすかが検討されなければならないでしょうし、システムや事務処理では、許容することのできる業務量を認識しておかなければならないでしょう。
また、市場リスクについては、金融商品の種類毎、市場毎に、どの程度のリスク・リミット(各部門のリスクの上限)を与えるかにつきその原則を定めることになります。
この場合のリスク・リミットについては、各期に1回、経営上の最高意思決定機関(取締役会又は経営会議等)が設定を行う必要があります。定量化できないリスクに関しては、業務の程度に応じて、撤退や業務量の縮小を含めて十分な議論を尽くす必要があります。
経営の基本的判断として、リスクの上限を決定する際に考慮する項目としては、概ね次のようなものが挙げられます。

  • リスク量の総体として経営体力(自己資本)の範囲内に抑える
  • 各部門が既に取っているリスク量
  • 収益の実績及び目標
  • より長期的な経営上の戦略的位置づけ
  • 人的能力 等

 

金融機関が健全な経営を行うという観点から、各種のリスクの総体を経営体力(自己資本)の範囲に抑えるという考え方が一般的になってきています。
例えば、銀行の場合、顧客からの預金や他の借入金等は、いずれ返す必要のある資金であり、銀行が融資・投資等(運用)を行う際のリスクやその他のリスクに対する備えとしては、返す必要のない自己資本が最後の拠り所(バッファ)となることから、逆算して、自己資本の範囲内にリスクを抑えることによって健全性を保つという考え方です。したがって、この場合、自己資本を各リスクにどのように割り振るかという資本配賦運営(リスク資本枠)を行うために、各カテゴリーのリスクを統合的に把握することが重要になってきます。バーゼルⅡの自己資本比率規制もこのような考え方に基づいています(対象は軽量化されたリスクに限る)。

4.リスク管理の組織・権限

リスク管理は、組織化しなければ実務として定着しません。したがって、特定のリスクを管理するためには、そのリスク管理を所管する部署を決めると共に、対応する権限を委譲する必要があります。その結果、責任が生じます。現場レベルで担当する部門として、リスク管理部門を設けることが必要になってきます。
経営レベルの会議体としてリスク管理委員会を創設する場合には、権限と共にその構成と開催頻度等を決めておかなければならないでしょう。様々なケースに対応した承認規定等が定められなければなりません。
また、それらの取り決めに関しては、文書化されることはもとより、取締役会等において、承認を受けた後、組織内に周知徹底することが求められます。

5.リスク測定の方法と手続

リスク管理を実施するためには、リスクをどのように測定するかをあらかじめ取り決めておく必要があります。
また、リスク要因の測定方法の詳細を決めると共に、リミットの設定基準とリミットを超過した場合の対応方法についても定めなければなりません。

定量化できないリスクに関しても、業務量や事務ミスなど、そのリスクを見るに際して参考となる計数は存在しますし、内部監査を担当する役職員による評価も一種のリスク測定の手法と言えます。
いずれにせよ、常に測定してチェックするという枠組みを整えておく必要があります。

6.リスク管理のための人事

リスク管理を行うための人材育成等に関わる方針を確立することも、リスク管理基本方針に含まれるべき重要な要素です。
リスク管理を行う人材のポストに問題があるとリスク管理のプロフェッショナルは育成されませんし、リスク管理を徹底していくという方針は機能しなくなります。
リスク管理のプロフェッショナルの育成に関する方針を確立すると、リスク管理を重視した企業風土の醸成にも大きく寄与します。
さらに、役職員が不正を働くインセンティブを軽減するために、同じ仕事を長期間にわたって行わせないよう適時適切な人事ローテーションを実施したり、連続休暇を取得させたりすることも重要です。

 

新規業務開始におけるリスク管理方針

1.新規業務開始にあたっての検討

どのリスクに関しても言えることですが、新規業務を開始する際は、通常と異なる管理体制を必要とする場合があります。

バーゼル銀行監督委員会の「金利リスクの管理と監督のための諸原則(2004年7月)」では、次のような例を挙げています。

30年物財務省長期債券を購入し、保有するという決定は、それまではその投資の満期を3年以内に限定してきた銀行にとっては、大きく異なった金利リスク戦略となる。
同様に、固定金利で短期の商業貸付に特化していた銀行が、固定金利の住宅モーゲージ貸付を扱うこととする場合には、(課せられたとしても)少額のペナルティーで借入者に期前返済を認めるような多くのモーゲージ商品に内包されているオプション性のリスクを認識しているべきである。

初めての金融商品や業務は、実際に取扱を開始する前に慎重な検討を経ることにより、組織内の関係者が確実にそのリスクの特性を理解し、自社のリスク管理プロセスに取り込めるようにしなければなりません。
関連する重要部署において理解が不十分な場合は、その商品や業務は取り扱ってはならないということになります。新たなリスクを有する業務や金融商品の取引開始時にあたっては、新商品に関する委員会などを開催し、信用・市場・事務・システム・法務等の各リスクについて、多方面からの検討を行うことが必要になるでしょう。

2.新規業務開始プロセスにおけるリスク管理

金融検査マニュアルにおいても、特に、新規業務、新規商品の取扱について、リスクを特定し、管理に必要なインフラを整備し、管理が適切に行われるように事前に十分な検討を行うことを要請しています。
また、管理すべき特定したリスクが管理不可能であった場合は、関連業務から撤退や規模縮小を検討するような体制を敷くことを要請しています。

新しい商品や取引手法・戦略を導入する前に、管理者は適切な業務手続とリスク管理システムが確実に機能しているようにしなければなりません。
また、主要なヘッジないしは、リスク管理に関するイニシアティブを実施に移す前には、取締役会又は権限委譲された担当の委員会によって承認をうけるべきです。

【新規業務・新規商品に関わる主要な事前検討項目】

  • 関連する商品や戦略の説明
  • その商品ないしは、活動に関する健全で有効なリスク管理を設定する上で必要となる資源の特定
  • 提案されている活動の銀行全体の財務状況や自己資本の水準に照らした適切性に関する分析
  • 提案されている商品ないしは、活動のリスクを計測、モニター、コントロールする上で用いられる手続

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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