信用格付制度と自己査定

信用格付は、不良債権の早期発見のための先行指標となるため、信用格付と自己査定は整合的でなければなりません。
信用格付の意義や手法を解説します。

信用格付制度の意義

1.信用格付制度とは

信用格付制度(ローン・グレーディング・システム)とは、リスクに見合ったリターンの追求の観点から、信用リスクの程度に応じ、債務者毎もしくは融資案件毎に格付する制度です。
信用格付は、債務者の財務内容、格付機関(金融庁に登録している業者。株式会社日本格付研究所、ムーディーズ・ジャパン株式会社など)による格付、信用調査機関の情報などに基づいて付与されます。

信用格付制度を与信実行後の中間管理手段として早期から導入している米国の銀行の例を見ると、格付(グレーディング)を10段階程度とし、上位から中位の正常債権を6段階程度に分類し、下位の4段階を監督当局の資産分類(Special mention、Substandard、Doubtful、Loss)に対応させるのが一般的です。

2.信用格付制度の意義

信用格付制度は、債務者の信用力や与信取引の質を把握するための統一的な物差しとなり、正確な自己査定及び適正な償却・引当の基礎として信用リスク管理のプロセスに不可欠なものです。
また、格付区分毎のデフォルト確率等を推計していくことを通じて、信用リスクの計量化を図ることができます。

信用格付制度の重要な意義は、これを継続することによって不良債権の早期発見のための先行指標、いわゆるアーリー・ウォーニング機能として利用できる点です。
信用格付制度の導入により、一時点における格付区分毎の与信額・件数や、全体としてどのような格付の与信が多いかといったポートフォリオ全体の質を把握することができます。
さらに、これを継続していくことによって、正常債権の中の格付(グレーディング)の遷移・変化から、将来問題になる可能性のある債権について、早い段階から予測して管理することが可能となります。
米国の監督当局が、「正常債権の格付が重要である」としていますが、まさにこの理由によるものです。

3.信用格付制度と自己査定

自己査定とは、金融機関自らが保有する資産を個別に検討して、回収の危険性又は価値き損の危険性の度合いに従って区分することです。
そして、預金者の預金などがどの程度、安全確実な資産に見合っているか、言い換えれば、資産の不良化によりどの程度危険にさらされているかを判定するものです。

自己査定においては、債務者区分として、「正常先」、「要注意先」、「破綻懸念先」、「実質破綻先」及び「破綻先」に分けることが求められています。
債務者をその信用度合いに応じて区分する点について、自己査定における債務者区分と信用格付の考え方は共通していることから、それぞれが整合的なものとなっている必要があります。

 

信用格付の手法

信用格付の付与に当っては、次の外部情報を勘案して決定されます。

  • 定量的な債務者の財務実態の評価
  • 業界動向、企業特性(親会社による支援状況等)などの定性的要因の評価
  • 格付機関による格付等

定量的な評価

定量的な財務実態の評価に当っては、財務諸表上の計数を点数化する方法が一般的ですが、近年では、多くの金融機関において、統計的にデフォルトと相関が高い財務指標を抽出して財務スコアリングモデルを利用して評価が行われています。

【債務者格付を決定する定量要因の例】

  • 規模指標 ・・・自己資本額、純資産額
  • 安全性指標・・・流動比率、自己資本比率、経常収支比率
  • 収益性指標・・・総資本経常利益率、売上高営業利益率、有利子負債返済年数、インタレスト・カバレッジ・レシオ
  • その他指標・・・増収率、増益率

 

定性的な評価

定性的な要因の評価は、自社内に蓄積された信用リスク管理に係るノウハウを活用するとともに、中小企業等、財務報告の内容だけでは情報が不足する債務者を評価する際に有用なものですが、信用格付が恣意的な運用となることを防ぎ、客観的で説明可能なものとするように、あらかじめ評価基準を明確に定めておかなければなりません。

【債務者格付を決定する定性要因の例】

  • 業種特性・・・成長性、市場変動の大きさ、参入障壁
  • 企業特性・・・親会社・資本提携先との依存関係、経営者の能力、外部監査の有無

 

 

格付機関等による格付などの外部情報を活用する際には、自社の特性、リスク・プロファイルに即した信用格付の体系と整合的なものかどうか、確認しておく必要があります。

 

信用格付の留意点

信用格付を行う際に留意すべき事項として次の点が挙げられます。

1.設定された格付の見直し

信用格付の最終目的は、償却・引当水準の適切性を確保することにあります。
そのためには、当初の格付の段階、基準がシンプルなものであっても、改善を促すプロセスを繰り返すことによって、安定的な償却・引当水準に近づけていく事後検証プロセスを構築することが重要となります。

ここの信用格付分類の基準作りに傾注してしまい、結果として償却・引当が過小や過大になってしまっては、信用格付の意味が失われます。

2.将来予想の合理性の判断

貸倒引当金は、将来見込まれる損失に対する備えとなりますが、その算定の基礎となる予想損失率は、通常、過去の貸倒実績、倒産確立をベースとしています。
そこで、過去の倒産実績、倒産件数のデータをそのまま将来の損失発生予想に用いることの合理性を判断する必要がでてきます。
まずは、現状で最善とする予想値を算出しつつ、さらにデータの蓄積と損失予想算出プロセスの整備を進めていくことが必要になります。

3.格付推移の分析

貸出債権の信用力推移に関する分析(ローン・マイグレーション・アナリシス)を取り入れたクレジット・レビュー体制を構築します。
ローン・マイグレーション・アナリシスとは、格付毎の与信先が年月を経るにしたがってどのように推移していくかを分析することです。
この分析・検証の結果から得られた情報を信用格付にフィードバックすることによって、格付毎のデフォルト確率を安定化させ、信用リスクの計量化プロセスの正確性を継続的に改善していくことが重要です。

【ローン・マイグレーション・アナリシスのプロセス】

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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