信用リスク量の計測におけるキーワード

信用リスク計測の基本的な用語を解説します。

信用リスク計測の基本的な用語の理解

次の記述は、バーゼル銀行監督委員会の報告書「貸出金の健全な信用リスク評価」(2006年6月)の抜粋です。
ここに見られるように、信用リスク量の計測手法は、バーゼルⅡの実施にむけた最近10年ほどの動きの中で急速に高度化され金融工学の理論に基づく精緻なものとなってきており、馴染みづらい専門用語が多用されています。

信用リスクの評価と引当には、リスク測定モデルや、仮定に基づく推計が用いられることがある。モデルは、クレジット・スコアリング、個別取引レベルおよびポートフォリオ・レベルでの信用リスクの推計または測定、ポートフォリオ管理、貸出やポートフォリオのストレス・テスト、自己資本の配賦など、信用リスク評価プロセスの様々な側面において用いられるであろう。
信用リスク評価モデルは、デフォルト確率、デフォルト時損失率、エクスポージャーの額、担保価値、格付遷移確率、内部的な債務者格付といった、債務者および貸出に係る変数の変化が及ぼす影響を考慮するものであることが多い。

ここでは、基本的な専門用語について解説をしていきます。

 

PD、EAD、LGD

信用リスクを評価する上で次の3つの概念が重要になります。

1.デフォルト確率(PD)

デフォルト確率(PD:Probability of Default)とは、債務者が将来の一定の期間内にデフォルトする可能性を測る計数を言います。
デフォルト確率の推計にあたっては、まず、どのような事象が生じた場合を「デフォルト」とするか、その定義を明確に定める必要があります。
わが国の金融機関では、信用リスク計測に際してのデフォルトは、法的な倒産に限ることなく、債務者の格付がある区分(破綻懸念先、等)以下にランクダウンした場合を「デフォルト」と定義することが一般的です。

2.デフォルト時エクスポージャー(EAD)

デフォルト時エクスポージャー(EAD:Exposure at Default)とは、デフォルトした時点でのリスク・エクスポージャーです。
なお、エクスポージャーとは、投資家や企業が持つ金融資産(ポートフォリオ)の中で、市場の価格変動のリスクにさらされている資産の度合い(割合)のことです。

貸出や債券などのオンバランス資産では、与信額・元本金額や簿価がEADとなりますが、コミットメントライン等のオフバランス資産では、将来の与信額が変動するため推計作業が必要になります。

3.デフォルト時損失率(LGD)

デフォルト時損失率(LGD:Loss Given Default)とは、デフォルト時点での与信エクスポージャーに対する損失見込額の割合であり、「1ー回収率」と見ることもできます。
つまり、デフォルトした場合の与信エクスポージャーのうち、担保・保証の履行等によっても回収されない割合のことをいいます。

 

期待損失(EL)と非期待損失(UL)

PDが、EAD、LGDの3つの項目の推計ができると、与信ポートフォリオ全体が持つ信用リスク量の計測が可能になります。

信用リスク量は、期待損失(EL: Expected Loss)と非期待損失(UL: Unexpected Loss)によって把握することが一般的です。

【ELとUL】

期待損失と非期待損失は、次のとおり定義されています。

  • 期待損失(EL)   =今後一定の期間(例えば1年間)に発生が予想される損失額の平均値
            =PD × EAD × LGD
  • 非期待損失(UL)=現在の与信ポートフォリオの構成等を前提として一定の期間の間に
              一定の確率で起こり得る最大損失からELの額を差し引いたもの
             →「信用リスク測定モデル」等で算出

全債務者のELを合計したものが、与信ポートフォリオ全体のELとなります。

一般に、期待損失(EL)は信用リスクを取ることに伴って平均的に発生する必要コストとして捉えられ、信用リスクに見合った金利スプレッド、あるいは貸倒引当金でカ バーするものと考えられます。
これに対して、非期待損失(UL)は「統合リスク管理」の枠組みの中で自己資本の範囲内に収めるべきものとして位置づけられます。

ULを算出するためには、第1段階として、PDに確率分布の形状や債務者間のデフォルト相関等を勘案した「信用リスク測定モデル」によって、確率分布を求めます。
そして、第2段階として、この分布から「どの程度の確率で発生するリスクまで勘案するの か」という発生確率(信頼区間:一般に99%や99.9%)を決めて、その範囲内での最大損失までの累計を管理すべき信用リスクとしてULを算出することになります。
パーセンテージで表示される発生確率は判りにくいのですが、例えば、与信期間1年を前提とした信頼区間が99%の場合、この想定を上回る規模の損失は100年に1度程度しか起こらないことを意味しています。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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