わが国における信用リスク管理

わが国では、バブル期以前の信用リスク管理には、問題がありました。
主な問題として、入り口審査に偏重し、クレジット・レビューが不十分でした。
信用リスク管理プロセスの転換点として、早期是正措置の枠組みを解説します。

従来の信用リスク管理の問題点

従来のわが国の金融機関における信用リスク管理は、一般論として言うと、審査部署が営業店等から個別与信案件の審査及び決裁を通じて実質的な与信判断の権限を有し、実質的に信用リスク管理部署としての機能を果たしていました。
また、融資企画部署は、融資に関わる融資残高・収益計画の計数のとりまとめ、融資事務管理規程等の立案などの業務を担ってきました。
しかしながら、1990年以降の「バブルの崩壊」、「失われた10年」を経て、こうしたバブル期以前の伝統的な信用リスク管理の手法が十分に有効とはいえないことが明らかにされました。バブル期以降の金融不況については、金融当局の姿勢や税制の問題など多くの要因がありますが、金融機関サイドの問題点として、次の点が挙げられます。

  • 案件毎の審査に偏り、ポートフォリオ全体としての与信管理が不十分であったこと
  • 特にバブル期において審査部署が営業推進的な正確を帯びてチェック機能が脆弱であったこと
  • もっぱら、営業店や審査部門における入口審査に重点がおかれ、与信実行後の中間管理(クレジット・レビュー)が不十分であったこと
  • 資産査定は、大蔵省検査、日銀考査の査定結果に依存し、与信等の資産内容の実態と離れて、査定額が少ないほどよいという価値観に支配されていたこと
  • 期間損益や保有株式の含み益からなる「償却原資」をベースとして、決算に大きな影響を及ぼさない範囲内で償却・引当を行ってきたこと
  • いわゆる護送船団方式の金融行政の下、経営者が主体性(自己責任原則)を欠き、リスク管理の意識が希薄であったこと

総じて信用リスク管理の問題点として指摘できることは、信用管理を一連のプロセスとして、もしくはフレームワークとして整備するという視点が十分でなかったという点です。
さらに、このようなフレームワークとしての管理意識が欠如していたことに加えて、リスク評価に基づき、リスクの大きな与信先や業種から重点的に管理を行っていく姿勢に乏しかったことも指摘できるでしょう。

 

早期是正措置制度の導入

早期是正措置制度は、金融機関の経営の健全性を評価するための客観的な指標として「自己資本比率」を用いることとしていますが、この指標に基づく監督当局の是正措置の発動が的確かつ円滑に運営されるためには、その前提として金融機関の資産内容の実態が正確かつ客観的に自己資本比率に反映されている必要があります。
このため、早期是正措置制度においては、次のような枠組みが必要とされます。

  • 銀行が自己責任原則に則って、自らの資産内容についての自己査定を行う
  • 査定の結果に基づいて適切な償却・引当を実施する
  • 資産内容の実態を客観的に反映した財務諸表を作成する
  • その財務諸表の適正性について、外部監査による検証を受ける
  • 財務諸表に基づいて自己資本比率を算出し、当局に報告する

この枠組みにおいては、金融機関が自己資本比率の維持を図るためには、自ら資産査定を実施し、これに基づく償却・引当を行って適切な財務諸表を作成するという信用リスクに関わるプロセスを確立することが前提とされていますので、早期是正措置制度が機能するためには、金融機関自らが適切な信用リスク管理態勢を構築していかなければなりません。

また、金融機関は、「金融機能の再生のための緊急措置に関する法律(平成10年10月16日法律132号)」6条、「金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律(平成10年10月22日法律143号)」3条2項2号の規定により、自己査定の実施や自己査定結果に基づく適切な引当等を行うことが法律上も求められています。
早期是正措置制度の導入は、わが国の金融機関に対して自己査定をはじめとする信用リスク管理プロセスの確立、与信の中間管理強化を促す大きな転換点となりました。

【早期是正措置の枠組み】

 

早期是正措置の発動等

現在、早期是正措置の発動は、銀行法26条2項に規定されています。
また、早期是正措置の発動基準については、「銀行法第26条第2項に規定する区分等を定める命令(内閣府・財務省令)1条等で定められており、是正措置の区分は、国際統一基準ないし、国内基準による自己資本比率の充実度に応じて、それぞれ次の表のとおり4つの区分とされています。
なお、国際統一基準で8%以上、国内基準で4%以上の場合は、「非対称区分」となります。

【早期是正措置の区分と発動基準】

区分 自己資本比率 措置の内容
国際統一
基準

国内
基準

第1 8%未満 4%未満 ・経営改善計画(原則として資本の増強に係る措置を含む)
の提出及び実行命令
第2 4%未満 2%未満 ・自己資本増強計画の提出・実行
・配当又は役員賞与の禁止・抑制
・総資産の圧縮、増加抑制
・不利な条件の預金等の受け入れの禁止・抑制
・一部営業所の業務の縮小
・本店を除く一部営業所の廃止
・子会社等の業務縮小
・子会社等の株式ないし持ち分の処分
・その他業務の縮小又は新規取扱の禁止
・その他金融庁長官が必要と認める措置
第2の2 2%未満 1%未満 ・自己資本充実、大幅な業務縮小、合併又は銀行業の廃止等
のいずれかの措置を選択した上、実施命令
第3 0%未満 0%未満 ・業務の全部又は一部の停止命令

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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