バーゼル銀行監督委員会「信用リスク管理の諸原則」

バーゼル銀行監督委員会の「信用リスク管理の諸原則」の内容を解説します。
「信用リスク管理の諸原則」は、5項目、17の原則から構成されている信用リスク管理のフレームワークです。

「信用リスク管理の諸原則」の概要

1.「信用リスク管理の諸原則」の公表

1990年代の金融機関における不良債権問題には、借り手もしくは取引相手に対する甘い与信審査、不十分なポートフォリオリスク管理、銀行の取引相手の信用状況が悪化することに繋がる経済環境の変化に対する管理・監視の欠如が見られました。
これらが、深刻な銀行経営上の課題となっており、経済状況にも大きなインパクトをもたらしています。
こうした経験は、米国を始めとする諸外国を通じて共通のものです。

2000年9月、バーゼル銀行監督委員会から「信用リスク管理の諸原則」という報告書が公表されました。
この報告書は、各国の金融監督当局において、話し合われた金融機関の信用リスク管理体制を評価する際に用いる原則について、前年7月の市中協議案の公表を経て最終的にとりまとめられたものです。
本報告書の内容は、各国の銀行監督当局に対して、銀行の信用リスク管理を評価する際に用いることが推奨されているが、わが国の金融検査マニュアルの考え方にも通じたものとなっており、金融機関の内部監査担当者にとっても信用リスク管理体制に関する内部監査を行う上で参考にできます。

2.「信用リスク管理の諸原則」の構成

信用リスクの定義について、本報告書では、「銀行の借り手もしくは取引相手が同意した条件に沿ったかたちで債務を履行できなくなる可能性」であると示されいます。
その上で、信用リスク管理の目的に関して、「信用リスク管理の目指すところは、信用リスク・エクスポージャーを許容可能なパラメーター範囲内に収めた状態を維持することにより、銀行のリスク調整後の収益を最大化することである」と述べられています。
また、銀行は、貸出取引のみならず全ての業務から発生する信用リスクを管理すべきことが強調されており、次の5つの項目に関係する17の原則を中心に構成されています。
そして、信用リスク管理は、次の項目について適切かつ高度な運営を維持している必要があるとされています。これらの項目は、COSOの内部統制フレームワークを色濃く反映しているものです。

【「信用リスク管理の諸原則」の5つの項目】

  • 信用リスクを取り巻く適切な環境の確立
  • 健全な信用供与プロセスの下での業務運営
  • 適切な与信の管理、測定、モニタリングのプロセスの維持
  • 適切な信用リスク・コントロールの確保
  • 監督当局の役割

 

信用リスクを取り巻く適切な環境の確立

信用リスクを適切に管理するためには、管理する環境を組織的に整備し、確立する必要があります。
そのためには、取締役、取締役会、上級管理職がそれぞれに与えられた役割をしっかり果たしていく必要があります。
また、取締役は、「何が信用リスクか」、「どこに信用リスクがあるのか」といった点を明確に認識しておかなければなりません。
本報告書では、環境を確立するために次の3つの原則が挙げられています。

信用リスクを取り巻く適切な環境の確立
原則1 取締役会における役割
取締役会は、銀行の信用リスク戦略や信用リスクについての重要な方針の承認や
(少なくとも年1回)定期的な見直しに対して責任を負うべきである。
そうした戦略は、銀行のリスクに対する許容度や様々な信用リスクを負いつつ
銀行が達成しようとしている収益の水準を反映すべきである。
原則2 上級管理職の役割
上級管理職は、取締役会が承認した信用リスク戦略の実行や信用リスクの識別、
測定、モニタリング及びコントロールを行うための方針や手続の策定に責任を
負うべきである。
そのような方針や手続は、銀行の全業務についての、また、個々の与信とポート
フォリオ双方のレベルに係る信用リスクに対応すべきである。
原則3 商品・業務に内在する信用リスクの認識
銀行は、全ての商品や業務に内在する信用リスクを識別・管理すべきである。
銀行は、新規の商品や業務に伴うリスクがその導入や実施が行われる前に適切な
リスク管理の手続やコントロール下におかれること、そして取締役会又は然るべき
下部委員会による事前承認を受けることを確保すべきである。

 

 

健全な信用供与プロセス下での業務運営

実際に貸出を行う信用を供与するというプロセスは、健全かつ明確に定義されていなければなりません。
その際には、信用供与の基準が定められており、信用供与先の区分を判定した上で、それぞれの限度(与信枠)が設けられている必要があります。
また、あらゆる信用供与は、アームズ・レングス・ベースで行われなければならず、その点をモニタリングする体制を整えておくべきだとされています。
健全な信用供与プロセスの下での業務運営として、次の点について明確なプロセスを確立する必要があります。

健全な信用供与プロセス下での業務運営
原則4 健全かつ明確な信用供与基準に基づく業務
銀行は健全かつ明確に定義された信用供与基準の下で業務を遂行しなければ
なりません。こうした基準には、銀行が重点を置く市場に関する明確な定義
及び、借り手もしくは取引相手、与信の目的及び構造、返済原資について、
徹底して理解することを盛り込むべきである。
原則5 区分に基づく与信枠の設定
銀行は、個々の借り手や取引相手、及び関連する取引相手のグループ毎に、
比較可能で有効な方法により、バンキング勘定及びトレーディング勘定の
両方において、オンバランス及びオフバランス両方における異なるタイプの
エクスポージャーを総計した全体の与信枠を設定すべきである。
原則6 明確な審査、承認に基づく与信供与
銀行は、新規与信の承認や既存与信に関する修正、更新、再貸出を承認する
ための、明確に確立されたプロセスを有するべきである。
原則7 信用供与先に対するモニタリングと適切な対応
あらゆる信用供与は、アームズ・レングス・ベースで行わなければならない。
特に、関連する会社や個人向け与信は例外的な位置づけとして承認がなされ
なければならず、また、特別な注意をもってモニタリングを行い、かつアー
ムズ・レングスでない融資に伴うリスクをコントロールもしくは、軽減する
ために、その他の適切な対応をとらなければならない。

 

 

適切な与信プロセスの維持

信用リスク管理態勢を整備する際、入り口となる案件審査だけでなく、中間管理であるモニタリングの機能を充実させることが重要です。
そのためには、信用格付制度の導入が不可欠になります。
また、そうした実務を支える経営情報システムや分析手法についても十分に配慮されていなければなりません。

このモニタリング機能には、将来起こりえる経済環境の変化を考慮し、極端な変動などストレス状況下においても機能するリスク管理となっているかどうかチェックすることも含まれているべきです。

適切な与信の管理、測定、モニタリングのプロセスの維持
原則8 ポートフォリオ管理の体制整備
銀行は信用リスクを内包する様々なポートフォリオを継続的に管理する
ための適切な体制を有するべきである。
原則9 モニタリングの適切な体制
銀行は、個々の与信の状況をその引当の妥当性を判断することを含めて、
モニタリングする適切な体制を有していなければならない。
原則10 信用格付制度
銀行は、信用リスクを管理する上で内部信用格付制度を開発し活用する
ことが推奨されます。
その内部格付制度は、銀行業務の性質、規模及び複雑性に見合うもので
あるべきである。
原則11 経営陣の測定可能な経営情報システム・分析手法
銀行は、全てのオンバランス及びオフバランスの取引に内在する信用
リスクを経営陣が測定できるような情報システムや分析手法を持たな
ければならない。
その経営情報システムは、リスクの集中を明らかにすることを含め、
与信ポートフォリオの構成についての適切な情報を提供するものである
べきである。
原則12 与信ポートフォリオ管理の情報システム
銀行は、与信ポートフォリオの全体の構成や質をモニターするための
適切なシステムを持たなければならない。
原則13 ストレス状況下の与信評価
銀行は、個々の与信や与信ポートフォリオを評価する際に、経済環境の
将来起こり得る変化を考慮し、また、ストレス状況下における信用リスク
・エクスポージャーを評価すべきである。

 

 

適切な信用リスク・コントロールの確保

信用リスク管理の状況の適切性を確保するためには、信用供与を行う部署から独立した信用リスク管理部署の役割が、極めて重要なポイントになります。
クレジット・レビューの結果は、取締役会や上級管理職に直接報告されるような態勢を整備する必要があります。
特に、問題債権に関しては、迅速かつ適切に対応できるような体制を整えるべきです。
適切な信用リスク・コントロールを確保するための要素として、次のような原則を本報告書で掲げています。

適切な信用リスク・コントロールの確保
原則14 与信監査の報告
銀行は、自行の信用リスク管理プロセスの評価を継続的に行うための、
独立した体制を構築しなければならず、そうした検証の結果は、取締役
会や上級管理職に直接報告されるべきである。
原則15 与信供与機能の内部管理
銀行は、信用供与機能が適切に管理され、与信エクスポージャーがブルー
デンス基準や内部限度枠に沿った水準に収まるようにしなければならない。
銀行は、方針、手続及び限度枠の異例扱いのものが、適切なレベルの経営陣
が対応できるよう、タイムリーに報告されるように、内部管理その他の実務
を確立し、実施すべきである。
原則16 債権管理・回収のための体制整備
銀行は、質が低下しつつある債権に対する早期の改善措置、問題債券の管理、
債券の管理・回収が必要となる類似の状況に対応するための体制を有してい
なければならない。

 

 

監督当局の役割

信用リスク管理に関して、監督当局がチェックする主な対象は、経営陣による認識と施策です。
信用リスク管理や自己査定、償却・引当にいたるプロセスについても評価を行うことは当然ですが、最終的には、これらの体制やプロセス全般について、経営陣が責任を負っていることを前提としてチェックすることになります。

監督当局の役割
原則17 監督当局の銀行管理体制
監督当局は、銀行に対して、全般的なリスク管理の一環として、信用リスクの
識別、測定、モニタリング及びコントロールを有効に行うための体制を有する
よう求めるべきです。
監督当局は、信用供与や継続的なポートフォリオの管理に関する個々の銀行の
戦略、方針、手続及び実務について独立して評価を行うべきです。
監督当局は、個々の借り手毎、又は関連する取引相手のグループ毎の銀行の
エクスポージャーを制限するため、ブルーデンス上の限度枠(※)を設定する
ことを検討すべきです。
※例えば、大口与信限度規制などがこれに該当するものとされています。

 

【バーゼル銀行監督委員会による信用リスク管理の諸原則一覧】

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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