経営管理態勢の整備・確立の状況-経営方針等の策定

取締役会を構成する取締役は、企業倫理を築くことを重要課題として位置づけて、具体的に担保する姿勢を整備しなければなりません。
また、取締役会は、自社が目指す目標の達成に向けた経営方針を決定し、それに則った経営計画、内部管理基本方針を定めます。
なお、経営方針に則った、収益目標、戦略目標、整合性・一貫性のあるリスク管理方針の体系を定めます。

企業倫理の構築及びそれを担保する態勢の整備

【金融検査マニュアルにおけるチェック項目】

取締役及び取締役会は、金融機関に求められる社会的責任と公共的使命等を柱とした企業倫理の構築を重要課題として位置付け、それを具体的に担保するための態勢を整備しているか。

至極当たり前の内容であるため、お題目のようにとらえがちですが、金融機関の経営に対する非常に重要なメッセージが含まれていると考えるべきです。
ならならば、金融機関を揺るがすコンプライアンス問題の多くが、形式的な法令等遵守の手続やチェック態勢ではなく、経営者の倫理観の欠如に起因することが多いからです。真の企業倫理の確立とその徹底を図るシステムの脆弱性こそが、今の金融機関が抱えている最大の問題であると言っても過言ではありません。
これは、形式主義的なコンプライアンスの取組の行き詰まりとも言えます。

なので、各金融機関は、「企業倫理の構築そのものを経営の重要課題として位置づける」ということから始めなければなりません。具体的な理由として、金融機関の社会的責任や公共敵指名等を中核とする企業倫理が第一にあって、これに反するようなケースでは、断固としてこれに対峙しなければならないということです。
すなわち、適切な理行倫理が構築され、これを社内に周知徹底し共有するために、遵守すべき社内ルールがあり、「これを守るためには利益を犠牲にしなければならない場合もある」、「儲かれば、何をやってもよい」ということではない。という企業風土や社内文化を実際の経営プロセスでしっかりと定着させる必要があるということです。

だからこそ、「具体的に担保するための態勢」整備が必要であると定義しているのです。
例えば、いかに営業活動が順調に見えても企業倫理に関わる社内のルールを逸脱した場合には、人事制裁を含めて厳しく処断されなければならないということを意味しています。
ここでは、態勢整備への強いコミットメントが代表取締役をはじめ取締役等の経営陣にあるか否かが問われています。
各取締役個人がその重要性を認識して、リーダーシップをとって態勢整備をすすめていかなければならないことを示しています。

コンプライアンス問題に関連する多くの不正や不祥事件は、企業倫理を重視する風土が組織内に醸成されていないことに起因しています。
役職員一人ひとりが、誠実さや正しい倫理観をもって業務を行うという当たり前の風土を構築することが、レピュテーショナル・リスク(評判リスク)の管理に繋がるということを認識すべきです。
社会的に責任と公共的指名に貢献している組織であればこそ、役職員の意識は高まり、仕事の満足度も向上し、信頼と責任感と強い士気の下で最善を尽くす風土が形成されることになります。

経営方針・経営計画等の整備・周知

【金融機関マニュアルにおけるチェック項目】

取締役会は、当該金融機関が目指す目標の達成に向けた経営方針を明確に定めているか。
また、取締役会は、経営方針に沿った経営計画を明確に定め、これらを組織全体に周知させているか。

金融機関が自ら定めた企業理念や目標を達成するための具体的な道標として、まずは、金融機関の経営方針とそれに従った経営計画を定める必要があることを示しています。別の言い方をすると、経営方針は、単なるお題目であってはならず、金融機関が目指す経営目標の達成に向けて作成されなければならないということです。当然ですが、経営目標と反する、又は関連のない経営方針であってはなりません。
また、中期経営計画や年度経営計画は、経営方針と明確に結びつけられて具体化されなければならないということです。「経営目標」→「経営方針」→「経営計画」という形で、経営目標の達成を全ての出発点として、当該金融機関の目指すべき方向性やその手順が明確に定められるべきです。

経営方針や経営計画は、単に経営陣だけが認識していればよいというものではありません。組織全体、すなわち、全ての役職員は、当該企業の経営目標、経営方針、経営計画を明確に認識することにより、意識を統一し同一のベクトルで日々の金融機関の業務運営を確保する必要があります。そのために、経営方針や経営計画を全ての役職員に周知させることがポイントとなっています。

経営方針や経営計画は、最高レベルの経営事項であることから、その制定・改廃は取締役会の責務と考えられますが、本チェックリストでは、上記のようにそれらの方針・計画の周知徹底についても、その対応を取締役会に求めていることに注意が必要です。
なお、「経営方針に沿った経営計画」には、もちろん、年次の経営計画も複数年の中長期事業計画も含まれると解されます。

内部管理基本方針の整備・周知

【金融検査マニュアルにおけるチェック項目】

取締役会は、経営方針に則り、代表取締役等に委任することなく、 |当該金融機関の業務の健全性・適切性を確保するための態勢の整備に係る基本方針(以下「内部管理基本方針」という。)を定め、組織全体に周知させているか。
内部管理基本方針は、当該金融機関の営む業務の規模・特性に応じ、適切な内容となっているか。

会社法では、例えば、大会社である取締役会設置会社において、会社業務の適正性を確保する態勢整備は、取締役会が決定すべきものであると規程しています(会社法362条4項6号、5項)。
会社業務の適正性確保のための体制とは、内部管理体制又は内部統制と解されており、会社法でも明確に内部管理体制又は内部統制の整備義務が法定化されたと理解できます。

一方、従来から金融機関には、その業務の公共性や国民経済への影響力から、高い水準の厳格な内部管理態勢の整備が必要とされてきたことは周知のとおりです。上記のチェックリストは、こうした金融機関への従来からの要求に加えて、新たな会社法等の規程を受けて、内部管理態勢の整備とそのための基本的な整備方針を定めるべきことを金融機関にもとめているものです。
基本方針の制定自体は、法律上の義務とも重なるものですが、金融検査マニュアルでは、内部管理態勢の整備に関する基本方針は、経営方針を踏まえたものであることが必要とされていることに注意が必要です。
その結果、内部管理基本方針は、それぞれの金融機関の経営目標や経営方針から導き出されるものであり、各金融機関で横並びのものであってはおかしいということになります。
また、法律上の義務に加えて、取締役会が組織全体に当該基本方針を周知することを求めていることにも留意してください。
内部管理基本方針は、最重要な経営マターであることから、取締役会がこれを決定し、周知するべきものであり、代表取締役などのその時の経営トップに一任してはならないことを明確に求めています。

戦略目標の整備・周知

【金融検査マニュアルにおけるチェック項目】

取締役会は、経営方針に則り、代表取締役等に委任することなく、当該金融機関全体の収益目標及びそれに向けたリスクテイクや人的・物的資源配分の戦略等を定めた当該金融機関全体の戦略目標を明確に定めているか。
また、取締役会は、当該金融機関全体の戦略目標を踏まえた各業務分野の戦略目標を明確に定め、全体の戦略目標とともに組織内に周知させているか。

各金融機関の取締役会には、経営方針に基づいた戦略目標を設定して業務運営を行っていくことが求められています。金融機関経営においても、当然に「収益」と「リスク」は表裏一体の関係にあります。
なお、収益目標を立案するときには、それに伴うリスクの大きさやそのリスクに対してどこまでの備えを持つかという経営資源配分についても同時に検討しなければなりません。
もっとも、収益計画が往々にして、収益目標の達成のためだけの計画になっていることもあります。このため、収益計画においても「どの程度のリスクを取り、どの程度の収益を目標とするのか」といった戦略目標を明確に定めることが重要になるのです。
戦略目標の設定に当っては、「各部門の戦略目標が収益確保を優先するあまり、リスク管理を軽視したものになっていなか」という視点を忘れてはいけません。この戦略目標は、経営決定事項の最重要事項の一つであることから、取締役会が代表取締役などに委任することなく、戦略目標を設定することが必要です。

各リスク管理方針等の整合性・一貫性の確認

【金融検査マニュアルにおけるチェック項目】

取締役会は、当該金融機関全体の戦略目標を踏まえ、金融機関全体のリスク管理に関し、統合的リスク管理方針及び各リスク管理方針について、整合性・一貫性を確認した上で定めているか。

取締役会は、戦略目標を踏まえて金融機関全体としての統合的リスク管理方針を定めると共に、信用リスク、市場リスク、オペレーショナル・リスク等の各リスク・カテゴリー毎にリスク管理方針を決定することが求められています。その際、統合的リスク管理方針と各リスク管理方針は、整合的で一貫性のある体系として整備されていなければなりません。それぞれのリスク管理方針を寄せ集めただけでは、統合的なリスク管理とは言えません。
まず、トップダウンで全社包括的な統合リスク管理方針を定める必要があります。その上で、各リスクの管理方針を定めます。それらが、統合リスク管理方針と整合的であるか、リスク計測の考え方(ただし、必ずしも各リスク・カテゴリーで同一のリスク計測手法を用いることを強制するものではありません。)や報告体制にアンバランスなものがないかなど、各方針の内容について横断的に確認する必要があります。

これらを踏まえると、リスク管理体制に関する内部監査を実施する際、一連の経営目標、経営方針、戦略目標、リスク管理方針等がこうした要請を踏まえて制定されているか、役職員に周知されているか、整合性・一貫性を保持しているか等を検証することが極めて重要になります。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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