方針の策定

取締役は、信用リスク管理を重視しなければならず、取締役会は、経営方針、融資部門等の戦略目標に則った信用リスク管理方針を決定します。

取締役の役割・責任

【金融検査マニュアルのチェック項目】

締役は、信用リスク管理を軽視することが戦略目標の達成に重大な影響を与えることを十分に認識し、信用リスク管理を重視しているか。
特に担当取締役は、信用リスクの所在、信用リスクの種類・特性及び信用リスクの特定・評価・モニタリング・コントロール等の手法並びに信用リスク管理の重要性を十分に理解し、この理解に基づき当該金融機関の信用リスク管理の状況を的確に認識し、適正な信用リスク管理態勢の整備・確立に向けて、方針及び具体的な方策を検討しているか。
例えば、担当取締役は信用リスク計測・分析方法(手法、前提条件等を含むo)の限界及び弱点を理解し、それを補う方策を検討しているか。
また、担当取締役は、債務者の実態を把握し、必要に応じ債務者に対する経営相談・経営指導及び経営改善に向けた取組みへの支援を行うための具体的な方策を検討しているか。

金融検査マニュアルでは、経営陣の役割・責任について、会社法等の法律上の規定を前提として記述されており、金融機関の業務執行の最高意思決定は、代表取締役ではなく、取締役会によってなされることを想定しています。
したがって、信用リスク管理の出発点として、取締役会を構成する取締役一人ひとりが信用リスク管理を重視しなければならないことを第一に示しています。

企業の戦略目標として、顧客の獲得、取引推進によって収益・資金量の拡大を目指すことは、当然のことながら金融機関にとって極めて重要なことです。
しかし、戦略目標を立てる際に、収益獲得だけに目が奪われて、戦略目標の達成を阻害する要因となるさまざまなリスクに対して、どのように対処していくかというリスク管理の側面を忘れてはなりません。
例えば、売り上げのみを追求するあまり、人材の育成など短期的な数字だけにとらわれて長期的な人材育成が滞るなどです。

ここでは、「特に担当する取締役は」と記載されていますので、金融機関において信用リスク管理を担当する取締役が任命されていることが前提となっています。
したがって、例えば、リスク管理部門担当、融資部門担当の取締役は任命されているが、信用リスク管理担当は不在であるなど、金融機関における各取締役の所掌と金融検査マニュアルで想定されている「信用リスク管理」の機能が異なっている場合、あるいは、信用リスク管理の担当が取締役ではなく、執行役員、部長等になっている場合には、留意が必要です。

信用リスク管理を担当する取締役が理解すべき内容

信用リスク管理を担当する取締役は、信用リスクおよび信用リスク管理について、特に深い理解が求められています。
その理解すべき内容としては、次の項目があります。

  • 信用リスクの種類・特性および信用リスクの特定
  • 評価
  • モニタリング
  • コントロール

これらの項目は、信用リスクとしてどこにどのようなリスクがあるのか特定することからコントロールに至るまで、信用リス管理プロセスの全体を示すものとみることができます。
なお、「モニタリング」については、金融検査マニュアルの「本マニュアルにより検査を行うに際しての留意事項」において、「監視することのみならず、警告その他具体的な抑止行動を行うことも含む」ものとされています。
単に眺めているだけではなく、具体的なアクションに結びついたものでなくてはなりません。

これらの項目の中では、特に「コントロール」が重要です。我が国の金融機関では伝統的に融資を実行する前の入り口審査に重点が置かれ、どのような企業等に対して融資を行うべきかという点に関しては、相応のノウハウがあります。
しかしながら、既に実行された融資に関して、どのように能動的にコントロールし、削減する手段があるのかという点に関しては、十分な経験や知見を持った人材が限られています。
例えば、貸出先の業種に集中する傾向が判明した場合に、これをどのように分散化するのかといった課題を実務的に解決できることが求められています。
解決方法を誤ると過去に見られたように「貸し剥がし」として批判されることにもなりかねないです。

完全な信用リスク計測手法、信用リスク量の唯一の答えというものはありません。たとえ、高度な信用リスク計測手法であっても、それは、計測手法の前提条件や計測ロジック、入力されるデータによって制約を受けます。
担当取締役は、このような自社の信用リスク計測・分析手法についても知見を有している必要があります。
これには、例えば、取締役会に報告される信用リスクの量の金額がどのような前提条件のもとに算出されたものであるか、あるいは、自社の採用する信用リスク計測手法の課題・問題点が何であるか、説明できるといったことが挙げられます。
また、金融円滑化推進の重要性に鑑み、担当取締役は、債務者の実態を把握し、必要に応じ債務者に対する経営相談・経営指導および経営改善に向けた取り組みへの支援を行うための具体的な方策を検討することも求められています。

 

融資部門等の戦略目標の整備・周知

【金融検査マニュアルのチェック項目】

締役会は、金融機関全体の戦略目標と整合的な融資部門等の戦略目標を策定し、組織内に周知させているか。融資部門等の戦略目標の策定に当たっては、自己資本の状況を踏まえ、例えば、以下の項目について留意しているか。
・収益確保を優先するあまり信用リスク管理を軽視したものになっていないか。特に、長期的な信用リスクを軽視し、短期的な収益確保を優先した目標の設定や当該目標を反映した業績評価の設定を行っていないか。

チェック項目の主語は、「取締役会は」となっており、融資部門等の戦略目標の策定について、取締役会自体において実質的議論を行って、その内容を決定することが求められています。その際には、融資部門の独走を許すことなく、金融機関全体の経営方針、戦略目標と整合性を取る必要があります。

以前の金融検査マニュアルと比較して、現在は、自己資本の状況を勘案すべき点が強調されています。
また、取締役会を主語として、能動的な書きぶりとなっています。

取締役会は、融資部門等の戦略目標として、どの分野・市場をターゲットとして、いつまでにどこまでの収益獲得を目指すのか、定めることになります。
その場合に、「リスクリターン」の表裏一体の関係にあるリスクが自社としての許容の範囲内、金融機関としての健全性を損なうことのない水準に留めることができているか、十分に検討した上で決定しなければなりません。
なお、融資部門等の戦略目標の策定は、取締役会で決定することが求められていますが、その原案の検討を常務会、経営会議等の他の会議体、融資部門または部署で行うことを妨げるものではありません。

 

信用リスク管理方針の整備・周知

【金融検査マニュアルのチェック項目】

取締役会は、信用リスク管理に関する方針(以下「信用リスク管理方針」という。)を定め、組織全体に周知させているか。
例えば、以下の項目について明確に記載される等、適切なものとなっているか。
また、金融円滑化管理方針との整合性を確保しているか。

・信用リスク管理に関する担当取締役及び取締役会等の役割・責任
・信用リスク管理に関する部門(以下「信用リスク管理部門」という。)の設置、権限の付与等の組織体制に関する方針
・信用リスクの特定、評価モニタリング、コントロール及び削減に関する方針

「信用リスク管理方針」を決定することは、取締役会の重要な役割です。
これは、会社業務の適正性を確保する体制整備を取締役会が決定すべきとする会社法の規程を反映したものと見ることができます。

この「信用リスク管理方針」の内容は、単なる精神的なものではなく、経営陣の役割と責任、組織体制、信用リスク管理プロセスの各段階に関わる個々の方針について、具体的に規定するものでなければなりません。
その上で、信用リスク管理方針は、関連する部門だけでなく、全ての役職員に周知されている必要があります。

 

方針策定プロセスの見直し

【金融検査マニュアルのチェック項目】

締役会は、定期的に又は必要に応じて随時、信用リスク管理の状況に関する報告・調査結果等を踏まえ、方針策定のプロセスの有効性を検証し、適時に見直しているか。

「信用リスク管理方針」は、一度策定すれば、終わりではありません。

取締役会は、信用リスク管理部門をはじめとする各部門からの報告や、自ら指示して部門に行わせた調査の結果を踏まえて、適時適切に見直しを行い、改善を図っていく必要があります。

取締役会が説明責任を果たしていく上では、この見直しのプロセスが文書化されていることにとどまらず、実態としてもそのとおりに実施されていなければなりません。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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