統合的リスク管理方針の策定

取締役は、統合的リスク管理を重視し、経営方針に則り、戦略目標、統合的リスク管理方針を決定し、組織全体に周知させる必要があります。
また、方針策定プロセスを見直し、改善を図らなければなりません。

取締役の役割・責任

【金融検査マニュアルにおけるチェック項目】

取締役は、統合的リスク管理を軽視することが戦略目標の達成に重大な影響を与えることを十分に認識し、統合的リスク管理を重視しているか。特に担当取締役は、リスクの所在、リスクの種類・特性及びリスクの特定・評価・モニタリング・コントロール等の手法並びに統合的リスク管理の重要性を十分に理解し、この理解に基づき当該金融機関の統合的リスク管理の状況を的確に認識し、適正な統合的リスク管理態勢の整備・確立に向けて、方針及び具体的な方策を検討しているか。
例えば、担当取締役は各種リスク を統合的に評価する方法(評価・計測手法、前提条件等を含む。以下「統合的リスク評価方法」という。)の限界及び弱点を理解し、それを補う方策を検討しているか。

統合的リスク管理の定義

統合的リスク管理とは、金融検査マニュアルにおいて次のように定義されています。

統合的リスク管理」とは、「金融機関の直面するリスクに関して、自己資本比率の算定に含まれないリスク(与信集中リスク、銀行勘定の 金利リスク等)も含めて、それぞれのリスク・カテゴリー毎(信用リスク、市場リスク、オペレーショナル・リスク等)に評価したリスクを総体的に捉え、金融機関の経営体力 (自己資本)と比較・対照することによって、自己管理型のリスク管理を行うこと

すなわち、「統合的リスク管理」というときは、金融機関の直面するあらゆるリスクを対象とすることが明確化されています。

統合的リスク管理の重要性の認識

本チェックリストでは、取締役会を構成する取締役一人ひとりが、統合的リスク管理の重要性を認識すべきことが第一に挙げられています。
金融機関全体のリスク管理態勢を整備・確立することが金融機関の業務の健全性及び適切性を確保する核心部分の一つとされることから、当然の帰結といえます。
経営陣は、経営方針の決定を行い、これに則った戦略目標を決定し、金融機関全体のリスクを統合的に管理する機能の実効性確保にむけた組織体制の整備を行う等、リスク管理態勢の整備・確立を率先してすすめる責任があります。

リスク管理態勢への理解

取締役会が統合的リスク管理をはじめとするリスク管理態勢について、実質的で十分な議論を行うためには、取締役会を構成する各取締役が、リスク管理態勢について、十分理解している必要があります。
特に担当取締役は、自ら所掌しているリスクに関して、深い理解と認識を有していなければなりません。これには、リスク自体についての所在、種類・特性に対する理解と、リスクの特定、評価、モニタリング、コントロールといったリスク管理のプロセスや手法の理解が含まれます。

担当取締役は、管理すべきリスクやリスク管理手法に対する理解をもとに、自社における現状のリスク管理態勢の特質を認識し、あるべき適正な態勢とのギャップを埋めていくアクションプランを実施していくことが要請されます。
例えば、採用している統合的リスク評価方法の限界や弱点に対する理解など、リスク管理に係る現場の担当者と同程度のレベルまでの深い理解が求められることもあります。少なくとも、リスク管理の現場で行われている議論の概要については、十分に説明できる能力が必要になります。
「担当取締役」に関して、取締役でない執行役員が担当取締役の役割と責任を担っている場合には、当該執行役員が取締役会により担当取締役と実質的に同等の権限を付与されているか、責任の所在が明確になっているか、担当する業務執行について、取締役会による十分な監視が行われているか、等を総合的に検証した上、各チェックリスト上、担当取締役に求められる役割及び責任を十分果たしてどうかがポイントなってきます。

 

戦略目標の整備・周知

【金融検査マニュアルにおけるチェック項目】

取締役会は、経営方針に則り、金融機関全体の収益目標、リスク・テイクの戦略等(資産・負債戦略、リスク・リターン戦略等)を定めた戦略目標を策定し、組織内に周知させているか。戦略目標の策定に当たっては、資産・負債(オフ・バランスを含む。)の構成、各種リスクを勘案し、かつ自己資本の状況を踏まえ検討しているか。
また、例えば、以下の項目について留意しているか。

  • どの程度のリスクを取り、どの程度の収益を目標とするのかを定めるに当たり、リスクを最小限度に抑えることを目標とするのか、能動的に一定のリスクを引受け、これを管理する中で収益を上げることを目標とするのか等を明確にしているか。
  • 金融機関全体及び各部門の戦略目標は、収益確保を優先するあまり、リスク管理を軽視したものになっていないか。
    特に長期的なリスクを軽視し、短期的な収益確保を優先した目標の設定や当該目標を反映した業績評価の設定を行っていないか。

「経営方針の決定」や「戦略目標の策定」は、最重要な経営判断であり、取締役会など経営陣の専決事項となります。
戦略目標は、企業全体としての収益目標とリスク・テイクの戦略から構成されるとありますが、収益機会とリスクは、表裏一体の関係にあり、両者を合わせて策定しなければならないことを意味しています。

収益をどこまで追求できるか検討する際には、収益の源泉となる資産・負債の状況、収益追求に伴うリスクの大きさ、リスクが発現した場合の最後の拠り所となる自己資本の状況、等を勘案しなければいけません。
ここでは、留意すべき点として、次の2つの項目が挙げられています。

  • リスクを取るのか取らないのか、自社がリスクの種類毎にどこまでのリスクを許容するのか、その度合を取締役会が決めるということです。
    この点は、経営トップの姿勢や気風、企業風土により、各企業で相当異なってくることが想定されます。
  • 目先の収益追求に目を奪われて、リスク管理が疎かになりがちな業績評価体系(報酬体系を含む)になっていないかということです。
    収益第一と正面から掲げる企業は少ないでしょうが、経営や組織の実態としてそのような体質になっていないか省みる必要があります。

 

統合的リスク管理方針の整備・周知

【金融検査マニュアルにおけるチェック項目】

取締役会は、統合的リスク管理に関する方針(以下「統合的リスク管理方針」という。)を定め、組織全体に周知させているか。例えば、以下の項目について明確に記載される等、適切なものとなっているか。

  • 統合的リスク管理に関する担当取締役及び取締役会等の役割
  • 責任・統合的リスク管理に関する部門(以下「統合的リスク管理部門」という。)の設置、権限の付与等の組織体制に関する方針
  • 資産・負債を総合管理し、運用戦略等の策定・実行に関わる組織(以下「ALM委員会」という。)の設置、権限の付与等の組織体制に関する方針
  • リスク限度枠の設定に関する方針
  • 管理対象とするリスクの特定に関する方針
  • 統合的なリスクの評価、評価されたリスクのモニタリング、コントロール及び削減に関する方針
  • 新規商品等に関する方針

経営方針に基づいて戦略目標が定まってきます。その戦略目標に応じて対峙すべきリスクもより明確になってきます。
そこで、重要となるのが取締役会において統合的リスク管理に関する方針を明確に定めることです。

ここでは、統合的リスク管理方針として記載すべき項目が列挙して例示されています。
次のような項目が書き込まれている必要があります。

  • リスクの定義
  • リスク・テイクの基本方針
  • リスク管理に関する責任と権限
  • リスク管理に関わる組織
  • リスク管理プロセスにおける各組織の位置づけ
  • リスク・コントロールの手段と方法、
  • 重要な報告経路 など

特に、金融機関が採用すべきリスク評価方法の種類や水準については、戦略目標、業務の多様性及び直面するリスクの複雑さによって決められるべきものであり、複雑又は高度なリスク評価方法が、全ての金融機関にとって適切な方法であるとは限らないことに留意しなければなりません。

統合的リスク管理方針は、列挙された項目全てを包含した統一的な1つの方針としてではなく、複数の方針等の総体として規定されることも容認されます。
ただし、その場合、当局検査においては、それらの複数の方針等が網羅的であり、かつ有機的に一体の統合的リスク管理方針として機能しているかどうかが検証されることになります。

 

方針策定プロセスの見直し

【金融検査マニュアルにおけるチェック項目】

取締役会は、定期的に又は必要に応じて随時、統合的リスク管理の状況に関する報告・調査結果等を踏まえ、方針策定のプロセスの有効性を検証し、適時に見直しているか。

統合的リスク管理方針も見直す必要があります。基本的な方針であるからといって、一度取締役会で決定すれば済むものではありません。
経営環境や経営戦略の変化に応じた見直しを行う必要があります。
また、現在の統合的リスク管理方針で定められている態勢が自社にとって最適なのかどうか、改善の余地がないかを検証した上、是正を図っていく必要があります。
そのような見方から、少なくとも年に一回は見直しを行うことが望ましいです。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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