個別の問題点−市場業務運営

適切な市場業務運営

【金融検査マニュアルのチェック項目】

市場部門は、戦略目標市場リスク管理方針、市場リスク管理規程等に基づき、適切な市場業務運営を行っているか。市場リスク管理部門は、市場部門においてリスク・コントロール等の適切な市場業務運営が行われているかどうかをモニタリングし、定期的に又は必要に応じて随時、取締役会等に報告しているか。
なお、戦略目標市場リスク管理方針、市場リスク管理規程等に基づいた市場業務運営が行われていない場合には、速やかに改善措置をとっているか。

市場業務は、金融機関自らが定めた枠組みの中で適切に行われる必要があります。この項目では、市場部門(フロント・オフィス)における業務運営をチェックするとともに、市場リスク管理部門による市場部門に対する牽制の状況が問われています。
ここで示された「市場部門」とは、特定取引勘定のトレーディング業務を担当する部署に限られるものではありません。

 

適正価格による取引

【金融検査マニュアルのチェック項目】

市場部門は、適正な価格で取引を行っているか。市場リスク管理部門は、市場実勢からの乖離度を基準にして、市場部門が適正な価格で取引を行っているかを確認しているか。

市場リスク管理部門の市場部門に対する牽制として、市場部門で約定した取引が市場における適正な価格で行われているかどうか、オフマーケットレート・チェック(Off-Market Rate Check)を行うことは、重要なポイントの1つです。
市場における取引量(市場流動性)が少ない取引ほど、この確認は、困難なものになりますので、ある程度の許容範囲を設けておくことが実務的です。
さらに適正価格の確認ができないような取引については、取扱の是非を含めて検討する必要がでてきます。

 

限度枠管理

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 限度枠(リスク枠、ポジション枠、損失限度枠等)を超過した場合、又は超過するおそれがある場合における管理者への速やかな報告体制、権限及び対応を内部規定等に明確に定めているか。
    また、当該内部規定等において、限度枠(ハード・リミットの場合)を超えたままポジションを持ち続けることができないものとしているか。
  2. 担当取締役、管理者及び各ディーラーにポジション、収益目標、損失限度枠等の権限委譲を文書で行い、限度枠の変更の都度ディーラー等から署名による各所を受ける等、ディーラー等に対して責任の領域を明確に指示しているか。
    また、各部門に設定された限度枠については、定期的(最低限半期に1回)に見直しを行っているか。
  3. 限度枠に関する内部規定等の適用について厳正に行っているか。
    また、内部規定等又は運用に問題があると認められる場合には、適切な改善策をとっているか。

限度枠管理においては、限度超過した場合の対応をあらかじめ明確に規定し、これを遵守させる態勢を整備しておくことが重要です。

各ディーラーに市場取引を行う権限を委譲するに際しては、例えば、権限の内容(ポジション、収益目標、損失限度枠、等)を示した確認書を交わすことによってその責任の所在を明確にします。

ALM管理の場合も基本的に同様ですが、限度枠をソフト・リミットとして、限度超過の場合、上位の者・会議体の協議に委ねる取扱とする場合もあり、市場取引実施の権限委譲を部長レベルもしくは、担当グループ単位に留めている例も見られます。

 

損益状況等の分析及び不適切な取扱のチェック

【金融検査マニュアルのチェック項目】

決算操作等のために、デリバティブ取引等を利用した不健全な取扱いを行っていないか。
また、市場部門等が過大な収益を挙げている場合には、市場リスク管理部門において、その要因が分析され、それが内部規程等の逸脱等の不適切な取扱いなどによるものでないかを確認しているか。市場リスク管理部門は、損益を契約額・想定元本、取引量等との関係で査閲することも行っているか。

市場管理部門による分析・チェック方法が的確になされているか、具体的にどのような内容のチェックが実施されているか、牽制機能が果たされているかについても確認する必要があります。

 

市場リスク管理部門への伝達・報告

【金融検査マニュアルのチェック項目】

市場部門は、市場リスクに関する全ての情報を、迅速かつ正確に市場リスク管理部門に伝達しているか。市場リスク管理上、問題が発生した場合には、担当者又は市場部門内で処理せず、市場リスク管理部門へ迅速かつ正確に報告されているか。

市場部門と市場リスク管理部門との意思疎通、報告態勢が問われています。
人間の本性として、「都合の悪いことは隠したがるもの」ですが、そのようなことがないか、という問題意識を持って実態を把握する必要があります。
なお、内部統制のフレームワークでも「情報伝達とコミュニケーション」が重要な構成要素の1つとなっています。

 

相互牽制体制の整備

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 市場部門、市場リスク管理部門及び事務管理部門のシステムが-体で運営されていない場合、市場リスク管理部門は、ポジション情報等を市場部門と事務管理部門の双方から取り、ポジション情報等に齟齬が無いことを確認しているか。
  2. 市場リスク管理部門において取引のモニターに必要な人員は確保されているか。
  3. 市場リスク管理部門は、期中損益(評価損益を含む。)の出方に異常がないかどうか定期的に精査・分析を行っているか。精査・分析に当たっては、例えば、リスク量と対比して検証しているか。
  4. 相互牽制機能の発揮のために以下の項目について留意しているか。
    ・チーフ・ディーラーと事務管理部門の担当者との馴れ合い等により、ディーラーが直接勘
     定系システムの操作をしたり、指示したりしうる立場になっていないか。
    ・ベテラン・ディーラーであることから、上司(担当取締役、支店長等)から個人的にも信
     頼が厚く、他の行員から聖域化されていないか。特定の人材に依存する場合には、人的リ
     スクが高くなることを認識し、注意深く管理しているか。
    ・市場部門の管理者の下にコンファメーション班を設置したり、同一人が市場部門と事務管
     理部門の管理者を兼務するなど、牽制機能が働かないような運用になっていないか。
    ・ディーラーの取引状況については、24時間録音され、定期的に抽出等の方法により録音
     内容と取引記録の照合等を行っているか。録音済のテープは一定期間保管されているか。
     テープの保管・管理は、市場部門及び事務管理部門から分離されたセクション(市場リス
     ク管理部門等)、又は職責が分離された事務管理部門の他のセクションが担当しているか。
     なお、事務管理部門の電話も後日の確認のために、録音していることが望ましい。
     なお、ディーラーの取引状況の録音内容とディーリング・チケット(取引記録)との照合
     を行う際には、ディーリング・チケットを録音内容によりチェックしていくのではなく、
     録音内容に該当するディーリング・チケットが全てあるかどうかチェックしているか。
    ・在宅のディーリングは、営業時間外のリスク回避のために限定された条件の下で行われて
     いるか。取引量、種類、ディーラーを特定して管理されているか(内部規定等に明文化さ
     れているか)。
     また、アンサー・フォーンの設置等により取引記録を録音管理しているか。
    ・ディーラーの取引状況の録音内容は、定期的にディーリング・チケットと照合しているこ
     とをディーラーに周知徹底しているか。

市場業務運営に関わる相互体制が整備されているか、チェックすべき項目が例示されています。
これらの項目は、すべての金融機関に一律に適用されるものではなく、規模・特性に応じたものとなります。

金融庁検査局が公表している「金融検査マニュアルに関するよくあるご質問(FAQ)」では、パブリック・コメントの結果を踏まえ、以下のような設問があります。

Q:「期中損益(評価損益を含む。)の出方に異常がないかどうか」とありますが、その趣旨は何ですか。
A:不自然な損益が計上されていないか、ディーラーの不適切な取引、事務処理ミスを行っていないか
  等の観点から精査・分析を行うことを想定しています。

相互牽制機能を十分に発揮させるためには、適切なチェック方法をとる必要があります。ⅳでは、内部監査を行う上でも有益な示唆に富むチェック項目が設けれられています。

  • スター・プレーヤーに気をつける
    →チーフ・ベテランが常に正しい訳ではない(人的リスク)
  • 市場取引は、電話さえあればどこでも可能
    →アンサー・フォーンによる録音のルール化の必要
    (指定回線の使用を義務づけなければわからない)
    →ディーリング・チケットを起点とする検証では不十分

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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