管理対象となる主要なリスク(信用リスク・市場リスク)

管理対象となるリスクを定義し整理する過程では、金融検査マニュアルに記載されているリスク管理のフレームワークが参考にできますので、金融検査マニュアルのフレームワークに沿って、金融機関のリスク管理において、コントロールすべき基本的なリスクの種類を説明します。

金融検査マニュアルにおいて、基本的なリスクは、次の4つに大別されています。

  • 信用リスク
  • 市場リスク
  • 流動性リスク
  • オペレーショナル・リスク
    (事務リスク、システム・リスク、その他を含む)

実務上、各企業では、上記のリスク以外にも様々なリスクを自ら定義して管理している場合があります。
また、自社が管理すべき重要なリスクは業態によって異なっており、例えば、保険検査マニュアルでは、保険引受リスクや不動産投資リスクが明示的に指摘されています。
金融検査マニュアルが示しているリスクの定義は、1つの典型的なリスクのとらえ方であり、リスクを整理し把握するときに役立つフレームワークですが、唯一絶対のものではありません。各金融機関は、各業務環境や経営戦略に基づいて、自らの経営管理に最も関連が深いリスクを定義し、管理実務に活かしていくべきです。

 

信用リスク

金融検査マニュアルでは、信用リスクは次の様に定義されています。

信用リスクとは、信用供与先の財務状況の悪化等により、資産(オフ・バランス資 産を含む)の価値が減少ないし消失し、金融機関が損失を被るリスクである。
このうち、特に、海外向け信用供与について、与信先の属する国の外貨事情や政治・経済情勢等により金融機関が損失を被るリスクを、カントリー・リスクという。

つまり信用リスクとは、貸出先の経営悪化や破綻により貸し出した資金の回収ができない、ないしは、利息が確保できなくなるなどのリスクであり、金融期間の本来的・伝統的な業務に伴うリスクです。
信用リスクは、貸出、有価証券、債務保証等の貸借対象表上の資産と、デリバティブ取引等のオフバランス取引の両方に関わっています。
多くの金融機関において、信用リスクの大部分は、貸出に関わるリスクですが、最近の証券化の進展やオフバランス取引の増加に伴って貸出以外のものも急増しています。スワップ契約や保証契約の履行不能など、信用力の低下に起因するものも信用リスクに含まれます。

信用リスクは、信用を供与している相手先によって、

  1. 企業与信等に関わる狭義の信用リスク
  2. カントリー・リスク

に大別して理解することができます。

従来の検査や内部監査では、審査基準に対する準則性をチェックすることが主でしたが、今後は、信用リスク管理のフレームワーク全体について、その適切性や有効性をチェックすることが求められます。

1.狭義の信用リスク

狭義の信用リスクとは、貸出や保証を行った企業の倒産等により金融機関の債権が回収できなくなるリスクのことです。
また、債権を保有している場合には、債権の発行体である企業の財務状況が悪化し、利息の支払や償還金の支払が予定どおりに実施されなくなるリスクです。
なお、株式についても、経営不振の企業が解散にいたった場合、株主は一般債権者への弁済の終了後でないと残余財産の分配を得ることができないことから、信用リスクの枠組みの中で捉える場合もあります。

このほか、内外の市場取引や為替取引の際に、相手方となる金融機関等が契約不履行を起こした場合に発生する信用リスクは、カウンターパーティー・リスク(取引先リスク)と呼ばれる場合があります。
過去の著名な具体例として、1974年に西ドイツのヘル シュタット銀行が倒産したケースや、わが国の金融機関も関わりのあった1991年7月のBCCI倒産のケースなどがあります。

2.カントリー・リスク

カントリー・リスクには、大別して2つのリスクがあります。

直接的なカントリー・リスク

貸出の相手先、あるいは債権の発行体としての「国」の財政状態が悪化することによる元利払遅延といった直接的なカントリー・リスク

間接的なカントリー・リスク

貸出先や債権の発行体である企業自体の業績には特段問題はないものの、当該企業が所在している国の財政悪化に起因した外国為替管理政策や預金封鎖等によって元利払いが遅延してしまう間接的なカントリー・リスク

タイ.バーツ切下げを端緒とした1997年のアジア通貨危機、1998年に発生したロシア危機とルーブルの急落など、カントリー・リスクが一国のみならず世界的な規模の金融不安をもたらすケースも幾度か発生しており、資本取引について直接規制がかけられた例もあります。

 

市場リスク

金融検査マニュアルでは、市場リスクは次のように定義されています。

市場リスクとは、金利、為替、株式等の様々な市場のリスク・ファクターの変動により、資産・負債(オフ・バランスを含む。)の価値が変動し損失を被るリスク、 資産・負債から生み出される収益が変動し損失を被るリスクをいう。

市場リスクは、市場価格の変動によって、損失を被るリスクのことを指したもので金融の自由化、国際化等に伴う環境変化により大幅に増大し、かつ高度化・複雑化してきており、金融機関にとって、信用リスクと並んで大きな意味を持つようになってきています。

市場リスクは、次の3つに大別されます。

  1. 金利の変動に伴って損失が発生する金利リスク
  2. 外国為替相場の変動に伴って損失が発生する為替リスク
  3. 有価証券等の価格変動に伴って損失が発生する価格変動リスク

さらに、市場リスクを広くとらえた場合には、所有不動産など保有している資産の価格変化なども含まれてきます。

内部監査の実務においては、価格モデルやリスク管理モデルなどの金融工学の基礎知識が必要とされる局面もあるため、これらを検証することができるような内部監査要員の確保が求められています。

1.金利リスク

金利リスクは、金利変動に伴い損失を被るリスクで、資産と負債の金利又は期間のミスマッチが存在している中で金利が変動することにより、利益が低下ないし損失を被るリスクです。
預金者から預金を調達し貸出や有価証券での運用を行うことによって利ざやを稼ぐことが本業である金融機関にとっては、本質的なリスクの1つといえるでしょう。
また、金利が変動することによる債権等の価格変動を金利リスクの中に含める場合もあります。

かつての規制金利の時代から金利自由化が進展するに伴って、市場金利の変動が金融機関の損益に与える影響も拡大してきています。この金利リスクに対するコントロールとして市場性資金取引(コール・ローン、コール・マネー、譲渡性預金、CP、ユーロ円調達等)や金利スワップ・金利先物などのオフバランス取引を用いたALM管理が果たす役割が重要になってきています。

2.為替リスク

為替リスクは、外貨建資産・負債について、ネット・ベースで資産超又は負債超ポジションが造成されていた場合に、為替の価格が当初予定されていた価格と相違することによって損失が発生するリスクです。

為替リスクは、変動相場制移行当時から広く認識されてきましたが、金融機関のみな らずその顧客にとっても外貨建ての輸出入取引、外貨建ての借入(インパクト・ローン)や外債発行、外貨預金・外貨建有価証券による運用などが広く一般的なものとなってきたこと等によって、さらにその重要性が増大してきています。

3.価格変動リスク

価格変動リスクは、有価証券等価格の変動に伴って資産価格が減少するリスクのことです。

対象となる有価証券等の代表的なものとして、株式や債券が挙げられますが、さらには、先物・オプション等のオフ・バランス取引の場合にも価格変動リスクが発生します。 わが国の大手金融機関では、取引先企業と株式持合いの慣行を永く続けてきたことから、株式保有残高が自己資本の額を大きく上回っており、株式市場の低迷・株価の下落によって金融機関経営に多大な影響が懸念された時期があったことも、そう古い話ではありません。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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