コンプライアンス重視の経営の背景

わが国において、コンプライアンスを重視した企業経営を求める声が高まった要因としては、次のようなものが挙げられます。

【コンプライアンス重視の経営が求められるようになった要因】

  • 企業における不祥事件の多発
  • 規制緩和と企業の自己責任に基づく経営の必要性
  • 企業評価における新たな視点

1.多発する企業不祥事

1990年代、総会屋への利益供与事件、証券会社の損失補填事件、ゼネコン汚職といった有名企業の不祥事の頻発を背景に、わが国産業界でも「企業倫理」を定め、浸透させることの重要性が強く認識されました。これを受けて日本経済団体連合会(以下、経団連という)が1991年に「企業行動憲章」を制定し、大手企業を中心に倫理綱領を制定する動きが広まりました。
その後、経団連は、1996年に「企業行動憲章」の改定を行い、企業に向けた明確な指針を発信しました。
しかし、その翌年(1997年)には複数の大手企業で総会屋への利益供与に絡む事件が再び発生しました。2002年にも食品会社、商社、電力会社などで不祥事件が相次いで発覚しました。こうした事態を受けて、経団連は、再び「企業行動憲章」を改定して、企業トップの果たすべき役割をさらに強調したより具体的な手引書を公表しました。
これにより改めて企業倫理、コンプライアンスの必要性が認識されるところとなりました。 金融業界でも、金融庁が2002年からコンブライアンス問題での行政処分を公表する方針を明確にし、各金融機関に対するコンプライアンスの取組みを強力に促しています。

2010年代となっても企業の偽装事件など不祥事件は、後を絶たず発生している状況が続いており、今後もコンプライアンスの取り組みが必要な状況が続いています。

不祥事件の悪影響

不祥事件やその隠ぺいが発覚すると当該企業は、社会や顧客からの信頼や信用を失います。
時には、その企業の商品やサービスの排除運動にも発展するなど、そのレピューテーション(名声)やビジネスに重大な悪影響が生じます。
ケースによっては、短期のみならず中長期的に渡って、売上や利益の減少を招き、その結果、株価の下落、資金繰り悪化等から経営破たんにいたる可能性もあります。

法的に見ても、事件に関与した担当者や経営者の刑事訴追、企業に対する行政処分や罰金、株主による責任追及等の訴え(会社法847条)の提起、経営者への巨額の賠償請求の可能性が出てきます。

さらに問題なのは、そこで働く人々の意欲(モチベーション)、自尊心、企業への帰属意識・忠誠心などが著しく低下し、傷つけられることです。
あまり表面には出てきませんが、この影響の大きさははかりしれません。

このように、企業不祥事は、多面的に企業に甚大な悪影響をもたらす「重大なリスク」であることが認識されるとともに、その予防策として、「コンプライアンス」の確立が認識されるようになってきました。

企業の不祥事の主な原因

企業の不祥事は、
「これを起こす者がそのような行動をとってでも達成したい意図を持っており」
「周囲の者あるいは、組織がそれを許容する環境にある場合に生じる」
ものとされます。

過去の様々な事件を分析すると次のような原因が浮かんできます。

 

【企業不祥事の主な原因】

  • 経営トップの暴走や極端な利益至上主義の経営
  • 社会や顧客との関係を軽視した内向き意識の蔓延
  • 内部統制の欠如
  • 大規模なリストラ等による組織の変化
  • 不祥事件が及ぼす悪影響の認識欠如

 

企業は、法的には、収益獲得を目的とした団体(営利社団法人)です。
しかし、その器は、経営者を中心に運営されるため、経営者の姿勢や態度がそのまま企業の姿勢、態度に反映されます。
利益を獲得するための仕組みも結局は、経営社の姿勢・行動に大きく依存しているのですが、経営者自身が違法行為や反社会的な行為に手を染める事例は後を絶ちません。
経営者が関与する不正や不祥事は、組織ぐるみとも見なされ、極めて重大な結果を引き起こすことになります。
また、経営者が自ら違法行為等に手を染めなくとも、極端な売上や利益至上主義の経営を行った場合、その組織は、何が何でも売上や利益を達成しようとし、従業員にそれを強制します。その結果、従業員は、何をしてでも売上や利益を上げようとするため、強引な勧誘、虚偽広告、粉飾決算などの事件を引き起こす原因になります。
顧客、社会又は従業員の企業に対する目線が厳しくなる中、会社の利益のためならば、多少のルール違反も許されるといった考え方は、過去のものといえるでしょう。

社会や顧客との関係を軽視し、社内の倫理を優先する内向きの企業体質、隠ぺい体質等も不正の温床となります。企業が活動していく上で大なり小なり何らかのルール違反の発生はな免れません。
問題は、このような事態を真摯に受け止め反省しないこと、顧客等に正直に開示しないこと、説明しないことです。
こうした隠ぺい姿勢がより重大な問題を引き起こします。
社会からの期待や信頼を深く認識せず、自社の対面や経営陣の自己保身を優先する姿勢は、現在では社会からの厳しい避難を浴びることになるでしょう。

大規模なリストラ等による従業員の企業に対する忠誠心、モラル低下も不正を引き起こす要因になります。
元々、業務の現場のコンプライアンスは、従業員の倫理観やモラルに大きく依存しています。
企業側が従業員の信頼を裏切れば、その分従業員の企業に対する信頼感やモラルも低下し、不正や不祥事を生み出しやすい環境を醸成することになります。

 

2.規制緩和と企業の自己責任に基づく経営の要請

1990年代以降、様々な産業分野で規制緩和が進められてきました。そのことは、同時に監督当局の指導に従った「行政による事前チェック型経済」から、「司法中心の事後チェック型経済への転換」を意味しています。
こうした環境変化により、企業活動をめぐる多様な訴訟の提起や事後的制裁の機会も増大してきています。

このような変化に対応していくためには、企業は、行政指導などに頼ることなく、自らを取り巻く様々なリスクに対して、全社的な仕組み・体制を整備して、主体的にそれらのリスク管理に取り組んでいく必要があります。

3.企業の評価における新たな視点

外部から企業を投資対象や融資先として評価する場合、これまでは、売上・利益額、利益の伸び率、資本利益率(ROE)といった財務指標が重視されてきました。もちろん現在でもこうした指標が重要であることは言うまでもありません。
しかし、最近では、こうした財務的な指標だけでなく、企業の中長期的な成長を重視する視点から、企業の倫理的側面(企業や経営者の倫理コンプライアンスヘの取組み姿勢、不正や不祥事への対応姿勢など)、社会的な存在としての側面(企業の地域や社会活動への取組み・貢献、情報開示等)も考慮すべきであるという考え方が広まってきており、それを反映した企業評価基準が確立されてきています。
グローバルに活動している企業、資金調達を融資等に頼っている企業、一般消費者を相手とする企業では当然のこと、そうでない企業においても、こうした外部評価の変化を十分に認識して企業活動を進めることが重要です。特に、社会からの期待や信頼を踏まえ、独自の高い倫理観と倫理的行動を促す本質的なコンプライアンス態勢を整備し、 顧客、投資家、従業員等のステークホルダーに対する説明責任を果たしていくことが今後ますます重要になります。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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