市場流動性リスクとリスク管理手法

市場流動性リスクの定義とリスク管理手法について説明します。

市場流動性リスクとは

金融市場において、取引を約定しようとする相手方が現れないために、本来可能であるはずの取引が実行できなくなる場合があります。特に、現在、保有している資産を市場で売却、解約(手仕舞い)することが不可能な場合、「市場流動性がない」といいます。

金融検査マニュアルでは、「市場流動性リスク」とは、「市場の混乱等により市場において取引できなかったり、通常よりも著しく不利な価格での取引を余儀なくされることにより損失を被るリスク」と定義されています。

市場流動性と資金繰りリスクの相違点

市場流動性リスクと資金繰りリスクには、次のような違いがあります。

資金繰りリスク

運用と調達のミスマッチなど、主に金融機関自らの責めに負うべき理由によって「資金(キャッシュ)」のやり繰りがつかなくなるリスク

市場流動性リスク

対象が必ずしも「資金」に限られない、「市場で取引される金融商品」であり、他の市場参加者や市場自体がリスクを発生させる要因となる場合も多い

市場流動性の欠如

市場流動性の欠如は、市場取引が困難になることによって換金できなくなり、結果として資金繰りリスクの顕在化につながって、金融機関の突発的な破たんの原因となる可能性があります。その意味で金融機関にとって重要なリスク要因となります。
また、例えば、自社の売り注文の量が市場の取引高に比べて大きい場合、当該売り注文が市場価格を引き下げることとなり、自社の想定した価格では売却できなくなる現象が起きることがあります。こうしたケースも広義の市場流動性リスクに含まれてきます。

歴史的にみる市場流動性リスクの重要性

市場流動性リスクの重要性は、1990年2月のドレクセル・バーナム・ランベール社の倒産に際して注目されました。
1980年代ドレクセル社は、マイケル・ミルケン氏の下で従来見向きもされていなかった信用力が低く高利子率の債権(ジャンク・ボンド)の市場を興し、M&AやLBOの資金調達手段として一世を風靡しましたが、1988年に発覚したインサイダー・スキャンダル事件を契機にジャンク・ボンド市場の参加者が激減、ドレクセル社は、在庫保有していた債券の売却による資金化を図ろうとしましたが買い手がつかず、資金繰りが悪化して倒産に至ることとなったのです。

また、1997年、1998年と連続して発生した、アジア通貨危機、ロシア危機が、金融機関のリスク管理において市場流動性リスクに対する意識の高まりを促しました。
1997年7月のタイ・バーツの為替相場暴落をきっかけとして始まったアジア通貨危機時には、タイ、韓国、インドネシアなどアジア各国に波及して大きな経済的混乱・金融危機となりインドネシアでは、政府がIMFの指導のもとに市中銀行を閉鎖したことから取付け騒ぎも起きました。
また、翌年のロシア危機では、ロシア国債がデフォルトを起こし、多くの金融機関が損失を被ることとなりました。中でも米国の著名なヘッジファンドであったLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)社の破たんは、世界の金融界にとって大きな衝撃でした(ただし、LTCM社の破たんは、ロシア危機に端を発したものでしたが、極めて高いレバレッジでの運用をしていたことが破たんの主因と考えられています)。

市場流動性が枯渇する原因

突然かつ予想しない形で市場流動性が枯渇する原因には、様々なものがあります。これには、例えば、主要な取引相手の信用リスク見直しによる取引規模削減や、投資先の所在する国家の政策急変など、信用状況と市場価格の双方に影響を及ぼすような幅広いショックの発生、決済システムに関する市場参加者の不信が広まることなどが挙げられます。他にも、価格に関する情報やショックによって買い手と売り手のバランスが著しく偏る(「ワンウェイ・マーケット」という。)減少の発生も要因の1つとして考えらます。

マーケット・インパクト

広義の市場流動性リスクにあたる「事故の売買により市場価格が変動するリスク」は、「マーケット・インパクト」と呼ばれています。年金基金などの機関投資家や大手運用機関では、大口の有価証券売買を日常的に行っており、市場価格に大きな影響を与えることなく保有銘柄の売却を行う手法の一環としてマーケット・インパクトの軽量化に関する様々な研究が進められています。これは、運用機関等の場合、計量化されたマーケット・インパクトを執行コストに勘案することによってパフォーマンスの向上を図るというインセンティブが働いているためと見られます。
しかしながら、マーケット・インパクトに関しては、あくまで推計値であり、また、計測モデルによって計算方法も多様であることから、現状では、いまだ確立された統一的な方法はありません。

リスク管理において考慮すべきマーケット・インパクトは、必ずしも最先端の精緻化された計算方法方法まで要求されるものではありませんが、少なくとも市場で起こりうるストレス・ケースを設定し、手仕舞いに要する日数やその間の価格下落を推測することが望まれます。
市場流動性リスクを勘案した場合、平常時における適正価格での売買を前提として算出されたVaRの額以上の損失となる可能性があります。これは、市場流動性リスクがある場合には、マーケット・インパクトによって適正価格での取引執行ができず、より不利な価格での約定を余儀なくされるためです。

 

市場流動性リスク管理の手法と体制

1.市場流動性リスクの管理の手法

市場流動性リスク管理は、一部の金融機関では、すでに計量化が実施されているものの、リスクの計量化が困難であるため、次のような管理を実施していることが一般的です。

【主な市場流動性リスク管理手法】

取引残高に対するリミットの設定

過度な市場流動性リスクを回避するために、市場規模、市場参加者の数、オファー・ビット・スプレッド等を勘案し、取引額あるいは取引残高にリミットを設けることで、多くの金融機関で行われています。

市場規模、市場占有率、市場参加者のモニタリング
オファー・ビッド・スプレッドのモニタリング

マーケット・インパクトの度合いを把握することができます。
具体的には、現在の持ち高(ポジション)を市場で売却する場合、どの程度のマーケット・インパクトが予想されるか、あるいは、逆に金融商品毎に適正価格で取引が可能な1日の取引量などを把握しておくことで手仕舞いに必要な日数を予測でき、ひいては当該日数を保有期間とするVaRを計量するという方法も可能となります。
また、市場の参加者を分析することは、前述した「ワンウェイ・マーケット」に陥りやすい市場か否かの判断材料になります。

ストレス・テスト

1987年11月のブラック・マンデーや、アジア通貨危機、1988年のロシア危機等、過去、実際に起こった金融市場での事象を現在保有している市場ポートフォリオに適用することで、危機が発生した場合の状況を把握し、市場流動性危機時における対応策をあらかじめ決めておくことで、結果として市場流動性リスクの顕在化による損失を最小化しようとするものです。

2.市場流動性リスク管理の体制

市場流動性リスク管理においても市場リスク管理の場合と同様に、市場部門(フロント・オフィス)と流動性管理部門(ミドル・オフィス)を分離して相互牽制機能を確保する必要があります。
しかしながら、市場流動性リスクは、いまだ確立したリスク管理手法が存在しないことや、市場流動性リスクが主に市場流動性プレミアムとして取引価格に反映されていることから、市場部門(フロント・オフィス)におけるリスク管理上の対応が求められるため、市場部門にある程度のリスク管理機能を分担させる(フロント・ミドル)体制を採用している金融機関もあります。
なお、金融検査マニュアルでは、「流動性リスク管理部門」が資金繰りリスクおよび市場流動性リスクの管理を行う機能を担う部門であることを想定して記述されています。

流動性リスク管理部門(ミドル・オフィス)は、権限上ど独立した組織として、市場部門(フロント・オフィス)の市場流動性リスクについて、モニタリングを行い、市場部門とは別に経営陣あて報告を行う必要があります。市場部門でリスク管理機能を分担している場合には、流動性リスク管理部門は、市場部門における市場流動性リスク管理の実施状況をモニタリングすることで間接的に市場流動性リスク管理を行うこととなります。

 

【市場流動性リスク管理体制と手法】

  1. 取引残高に対するリミットの設定
    • 過度な市場流動性リスクを回避するために、市場規模、市場参加者の数、オファー・ビッド・スプレッド等を勘案して市場取引にリミットを設ける
  2. および3.市場規模・市場占有率、市場参加者のモニタリング
         オファー・ビッド・スプレッドのモニタリング

    • マーケットインパクトの度合いを把握

 

 

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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