市場リスク管理の方法

市場リスク管理方法について、管理に必要とされる「方針と手続き」という観点からポイントを説明します。

市場リスク管理ポリシー(基本方針)

1.市場リスク管理ポリシー(基本方針)の重要性

過去に多くの金融機関において、当局対応の目的のためにリスク計測システムを導入する動きがみられましたが、このような発想ではリスクを把握し管理することの真のメリットは享受できません。

従来のフロント・オフィスでのリスク計測手法とは全く異なったリスク量を計算するのであれば、その意義や活用方法について、経営陣やフロント・オフィスなどに関係する役職員の理解と協力を得る必要があります。

まずは、自社においてどのようにリスク管理を行うか示した市場リスク管理ポリシーと手続について決定することが重要です。

2.市場リスク管理ポリシーの要点

市場リスク管理ポリシーと手続においては市場リスク管理部門とリスク管理委員会の責任、組織構成、運営方針、報告態勢といった点を明確に定義する必要があります。
これらの内容は、実際の手続に携わる人間だけでなく、これらの手続の影響を受ける役職員全員に周知徹底される必要があります。

リスク管理のポリシーを規定する際には、どこまでのリスクを許容するかなど、経営人の判断を要する事項に関する権限委譲について、どの階層にどこまで委譲するかを定めておく必要があります。そのような権限は、(当該部門の管理責任者)-(部長)ー(各チームのマネージャー、チーフ・トレーダー)-(各トレーダー)の各階層が想定されますが、それぞれの委譲された権限を越えて取引を執行した場合、その上位者へ報告を行うとともに、その段階でポジションを減らす指示を与えるか、例外的に枠の増加を承認するかの判断を行う仕組みが必要になります。
また、必要に応じて業務分野や機能別に方針と手続を規定する場合もあります。

市場リスク管理方針と手続では、定量的なリスク・リミット(限度枠)の設定方法を規定することが一般的です。具体的なリスク・リミットの設定には高度な計量化手法を規定することが一般的です。具体的なリスク・リミットの設定には高度な計量化手法を用いることもありますが、その詳細はともかくとして基本的なリスク・リミット設定の考え方は、経営陣も理解しておく必要があります。

【市場リスク管理ポリシーで規定すべき具体的な項目例】

(1)リスク・リミット

  • リミットはどのように設定されるのか。
  • 現在の状況に近い水準に設定されるのか、それに余裕を持たせて設定されるのか。
  • リミットは高リスク取引よりも低リスク取引をより促すように設定されるのか。

(2)価格評価

  • 価格評価の正確性と時限性はどのように確保されるか。

(3)高リスク商品のリミットと管理

  • 高リスク業務について、追加的モニタリングはなされるのか。

(4)新商品・新規業務の審査

  • 新商品・新規業務の審査は行われるのか。
  • その内容(法務・オペレーション・収益性・他のリスク)はどうか。

(5)モデル審査

  • 価格評価モデルの審査はその商品・取引への採用前に行われるか。
  • モデル更新の際の手続はどうか。

(6)当局報告

  • リスク管理部門の当局報告業務への関わりはどうか。
  • 当局報告はどのように扱われるか。

以上の諸点は、リスク管理手続を整備していく上での出発点となるものであり、それぞれの金融機関の体制や企業風土に応じた市場リスク管理ポリシーの中で定められる必要があります。
また、このような市場リスク管理方針と手続は、外部の市場環境や内部的な業務の変化に合わせるよう、定期的にまたは随時必要に応じて見直しされなければなりません

 

リスク・リミット(限度額)

リスク・リミットは、市場リスクをコントロールする重要なツールとなります。
市場リスク管理において、用いられる代表的なリスク・リミット(限度枠)について 、整理します。

1.資産運用限度

資産運用限度とは、投資商品を制限するのものです。
通常、フロント・オフィスの取引執行者が取引できる対象は、リスク管理部門や経営陣に承認されたものに限られます。これは、複雑なデリバティブやシステム構築の未対応により、リスク管理を行うことが困難な商品をフロント・オフィスの投資対象から外すために行われます。
リスク管理において最も簡単な方法は、このようにフロント・オフィスにそもそも取引を行わせないことです。

2.ポジション限度

ポジション限度とは、投資金額やリスク感応度に対してリミットを設定するものです。
例えば、ポジション限度には、市場で最もよく取引されている標準物(例えば、国債10年物等)に換算するとどれだけに相当するかという標準物換算金額などがよく用いられています。
ポジション限度は、どの程度の額の市場取引ができるかというリミット設定のため、VaR(Value at Risk)を経営上最も重要なリミットと定義しておいて、ポジション限度をVaRリミットに収まるように設定する場合が通常です。

3.VaR限度

VaR限度とは、算出されたVaRの値に対してリミットを設定するものです。
VaRは、様々なリスクを同一尺度で比較できるなどの利点があることから、単に規制対応としてではなく、金融機関の内部管理用としてVaRを経営上の根幹のリミットと設定し、経営体力(自己資本等)に関連付けることも広く行われるようになっています。

4.損失限度

損失限度は、フロント・オフィスの損失が、ある一定以上になった場合、強制的にポジションをクローズさせる限度です。
市場リスクの顕在化の影響は直接的には、損益計算書上の損失という形で現れるため、損失限度は市場リスク管理上重要なリミットの1つであり、欧米の金融機関では、VaR限度よりも損失限度の管理を重要視している例も見受けられます。

トレーディング勘定の場合には、損失限度の設定は比較的容易であり、強制的なハード・リミットとして設定されます。しかしながら、バンキング勘定の場合には、金融機関の決算状況に直結するためのロスカット(損切)には経営的判断を要すること、ポジションが大きいため損失限度を超過してもポジションをクローズするのに日数を要することから、損失限度を超過した場合に、関係各部門との協議や経営陣の意思決定を仰ぐ手続をとるソフト・リミットの形態とする例が多くみられます。

5.ストレス限度

ストレス限度は、ストレス・テストの結果の値にリミットを設定するものです。
ストレス・テストが極値的な値であるため、VaRのようにストレス限度を自己資本に対比させることを行わない場合やそもそもストレス・テストの結果にリミットを設定しないケースも見られます。

 

市場リスク管理フロー

次のとおり、市場リスク管理プロセスの流れと各部門の役割を示します。

①時価損益は、管理損益として経営指標に反映します。
 取引確認(コンファメーション)を行い、市場における取引を直接確認します。

②フロント・オフィスの引が市場における適正な価格で行われているか確認します。
 (オフマーケットレート・チェック)

③VaRを計算し、VaR枠と対比させてリスク総額のチェックを行います。

④VaR値と自己資本を対比させ、経営戦略・方針、リスク管理方針を決定します。

⑤得られた管理損益と対比させて収益性の検証を行います。

⑥損失がある一定の数字を超えた場合には、ロスカット(損切り)ルールを発動し、ポジションを解消させます。

⑦VaRにリンクしたポジション枠の遵守状況のチェックを行います。

上記のケースは、リスク管理指標にVaRを用いたケースです。リスク管理指標は、VaRでなければならないということはありませんので、各金融期間の業務内容や規模に応じて決定する必要があります。

市場リスク管理プロセスにおけるポイント

リスク監視

リスク管理部門が独立してフロント・オフィスで生じ得るリスクをいかに監視するかという点にあります。これをどのように効果的に行うかという市場リスク管理のプロセスには、唯一の正解はなく、実態に合せて最も適合する体制・手法を構築する必要があります。
ただし、忘れてならないのは、先の組織体制で述べたような利益相反関係が生じないような牽制機能を必ず組み込むということです。
したがって、リスク管理部門は、独自のデータベースもしくはバック・オフィスで確認されたデータを用いてVaR等のリスク指標を独立に計算し、計算されたリスク指標の値が期初に経営陣から承認されたリスク・リミットに収まっているかどうか確認する必要があります。
また、リスク管理部門は、フロント・オフィスで執行される取引が市場の取引価格からみて妥当な水準でおこなわれているかどうかチェックすること(オフ・マーケット・レート・チェック)も必要です。これは、フロント・オフィスの取引執行者が取引相手と結託して、市場レートから乖離した不当なレートで取引を行い、自社に損失を与えるという背任行為を防止するためです。

新商品や新種取引の対応

市場リスク管理において重要なポイントの1つとして、新商品や新種取引に対する対応があります。往々にして新商品の取扱いや新種取引を開始する際にリスク管理プロセスの十分な事前の検討がなされていないケース、従来取り扱ったことのないリスク特性があるにもかかわらずそれが見過ごされているケースがあります。
リスク管理部門は、特に、新商品や新種取引に対する対応を明確に定めておく必要があります。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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