市場リスク管理の必要性

過去のデリバティブ取引に関わる巨額損失事例から市場リスクへの関心が高まりました。
特にペアリング社、大和銀行の事件は、世界各国の金融機関、規制当局に決定的な影響を与えました。

市場リスクを巡る損失事件

金融機関にとって、市場リスクのある取引は以前から行われてきましたが、これに対する管理が注目されるようになったのは、1990年代以降になります。
市場リスクが注目され、その管理手法が開発されてきた背景には、市場リスク、特にデリバティブ取引の失敗が少なからぬ企業や金融機関等を破綻させ、あるいは、巨額の損失を発生させたことがあります。

例えば、1990年、米国のジャンク債市場の雄ドレクセル・バーナム・ランベール社の倒産、1994年にはバンカーズ.トラスト銀行とデリバティブ取引を行っていた事業法人ギブソン・グリーティング社やプロテクター・アンド・ギャンブル(P&G)社の多額の損失計上、さらには、財務責任者が起こした16億ドルの損失によるカリフォルニア州オレンジ郡の破産などがありました。
中でも世界中の金融機関や規制当局に衝撃を与え決定的な景況を及ぼしたのは、1995年2月に起きたペアリングス社の事件と、同年9月の大和銀行ニューヨーク支店の事件です。

ペアリングス社の事件概要

イギリスのベアリングス社は1762年に設立された名門マーチャント・バンクで、金融監督当局として世界的にも評価の高いイングランド銀行によって監督されており、資本が厚く収益性も高い金融機関と見られていました。
しかしながら、シンガポール拠点の先物取引部門マネージャーが、シンガポール金融取引所と大阪券取引所の両取引所に上場されていた日経225株価指数先物の取引で発生させた損失を「エラー・カウント88888」という内部勘定で隠蔽し、不正に利益計上してきたことが発覚、10億ポンドという巨額の損失を出したのです。

大和銀行ニューヨーク支店の事件概要

同じ年の9月には、大和銀行ニューヨーク支店で1,100億円の損失が発生した事件が発覚しました。
この事件は、米国債ディーリング取引の損失を隠蔽するため、ディーリング担当者が長年にわたって顧客からの預り証券の無断売却、残高証明の偽造などによって銀行検査部や当局検査を潜り抜け、損失を簿外で先送りしてきたことが本人の告白により明らかになったものです。
この事件では、事件発覚後、銀行から報告を受けた大蔵省が米国金融当局への報告を怠ったこともあいまって、大和銀行は米国から全面撤退を余儀なくされました。

 

各国の金融当局の動き

ペアリングス社と大和銀行の事件が示したことは、単にデリバティブや市場取引のリスクが大きく、十分な管理が求められるということにとどまりませんでした。
金融機関の経営者にとっては、リスク管理手法の抜本的な見直しが不可欠となりました。
また、各国の金融規制当局にとっても、この事件を契機に新たに国際的な規制の枠組みを構築する必要に迫られることになったものです。

事件直後、世界の主要なデリバティブ市場を監督する各国の金融当局者が一堂に会し、ウィンザー宣言としてデリバティブ市場の規制監督と国際協調を促進するためのプログラムを発表しました。
米国では先物業協会(Futures Industry Association)と先物オプション協会(Futures and Options Association)が協調して、デリバティブ市場および国際市場で活動する金融機関にとっての行動規範を公表しました。
また、業界参加者と規制当局が一体となってG30調査が行われ、システミックリスクの回避策について検討することになりました。
また、国際金融市場に対する監督・規制に対する政治的な意識も高まり、1995年6月のハリファックスでのG7サミットでは、銀行および証券業の各国監督当局に国際金融市場の安全性を確保するための枠組みの調査と強化を求める宣言が採択されました。これを受けてバーゼル銀行監督委員会とIOSCO (証券監督者国際機構)は、1996年5月に国際的銀行監督についての8つの原則を制定し、国際的に活動を行う企業を監督する際の当局間の協調を図る新たな枠組みが提唱されました。
また、1997年のデンバー・サミットに合わせ、バーゼル銀行監督委員会は「有効な銀行監督のための主要原則」(Core Principles for Effective Banking Supervision)を発表し、IOSCOは1998年のバーミンガム・サミットに向けて証券市場規制のための主要原則についての報告書を公表しました。

さらに、バーゼル銀行監督委員会では、1998年「銀行組織における内部管理体制のフレームワーク」を発表し、金融機関におけるリスク管理と内部統制(インターナル・コントロール)の重要性が強調されることとなったのです。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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