個別の問題点−市場リスク計測手法

市場リスク計測手法は、金融機関の規模、特性、およびリスク・プロファイルを踏まえ、管理すべき全ての市場リスクをとらえたものとします。
内部モデル等、市場リスク計測手法の確率に求められる定性面、定量面のチェック事項を理解します。

ここでの「リスク計測手法」は、脚注において「リスク計測手法については、統計的手法でリスク量を計測している場合ではなく、BPV(ベーシス・ポイント・バリュー)、GPS(グリッド・ポイント・センシティビティ)等の手法も含む」とされており、VaRに限られることなく金融機関の内部管理用に用いられている市場リスク計測手法全般にわたるものとして広く解されます。

 

市場リスク計測態勢の確立

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 市場リスク計測態勢に概念上の問題がなく、かつ、遺漏のない形で運営されているか。
  2. 市場リスク管理方針のもとで、市場リスク計測手法の位置づけを明確に定め、例えば、以下の項目について把握した上で運営しているか。
    また、連結対象小会社に対しても問題がないか確認しているか。
    イ.当該金融機関の戦略目標や業務の規模・特性及びリスク・プロファイル
    ロ.イ.を踏まえた市場リスク計測手法の基本設計思想
    ハ.ロ.に基づいた市場リスクの特定及び計測(範囲、手法、前提条件等)
    ニ.ハ.から生じる市場リスク計測手法の特性(限界及び弱点)及び当該手法の妥当性
    ホ.ニ.を検証するためのバック・テスティングの内容(統計的手法でリスク量を計測して
      いる場合)
    ヘ.ニ.を保管するためのストレス・テストの実施の内容(統計的手法でリスク量を計測し
        ている場合)
  3. 資本配賦運営を行っている場合、市場リスク計測手法で算出された結果を踏まえ、資本配賦運営の方針を策定しているか。計測対象外の市場リスクがある場合には、計測対象外としたことについて合理的な理由があるか。
    また、当該対象外のリスクを十分に考慮してリスク資本を配賦しているか。

市場リスク計測を行う態勢全般を概観して問題点がないかどうかを確認するものです。金融機関の規模・特性やリスク・プロファイルに適合した市場リスク計測手法で行われているかどうかが一番のポイントになります。
ⅱ.のホ、ヘについては、統計的手法でリスク量を計測している場合のチェック事項である旨、示されています。

平成19年2月における金融検査マニュアル改定に際してのパブリック・コメントでは、本チェック項目に関連して以下のやり取りがなされています。

  • 「市場リスク管理方針のもとで、市場リスク計測手法の位置づけを明確に定め、例えば以下の項目について把握した上で運営しているか。また、連結対象子会社に対 しても」とあるが、ここでいう連結対象子会社とは、「単体ベースで内部モデルを使用する連結対象子会社」との理解でよいか。
    → 該項目は、マーケット・リスク規制の内部モデルを利用している金融機関だけを対象にしているわけではありません。連結ベースで市場リスク管理を適切に行う必要があり、連結対象子会社のリスク計測手法が連結ベースのリスク管理の視点にお いて適切なものかを確認するものです。

 

取締役、監査役および取締役会等の適切な関与

【金融検査マニュアルのチェック項目】

①市場リスク計測手法への理解

  1. 取締役は、市場リスク計測手法及びリスク限度枠又はリスク資本枠(資本配賦運営を行っている場合)の決定が、経営や財務内容に重大な影響を及ぼすことを理解しているか。
  2. 担当取締役は、当該金融機関の業務について必要とされる市場リスク計測手法を理解し、その特性(限界及び弱点)を把握しているか。
  3. 取締役及び監査役は、研修を受けるなどして、市場リスク計測手法について理解を深めているか。

②市場リスク管理への取組

  1. 取締役は、市場リスク計測手法による市場リスク管理に積極的に関与しているか。
  2. 取締役会は、当該金融機関の業務内容に必要とされる市場リスク計測手法の基本的な考え方を明確に定めているか。
  3. 取締役会等は、市場リスク管理方針、市場リスク管理規定等の策定に当たって、ストレス・テストの結果を考慮しているか。

取締役は市場リスク計測態勢に積極的に関与し、取締役会として市場リスク計測手法の基本的な考え方を決定すべきです。
市場リスク計測手法の内容には、技術的、専門的な項目が多く含まれており、管理者や市場リスク管理部門に一任することになりがちになります。
市場リスク計測は経営判断をサポートするものと位置づけられますので取締役が積極的に関与する必要があります。

金融庁検査局が公表している「金融検査マニュアルに関するよくあるご質問(FAQ)」では、パブリック・コメントを踏まえて、次のような回答がなされています。
Q:「取締役会等は、市場リスク管理方針、市場リスク管理規定等の策定に当たって、ストレス・テスト
   の結果を考慮しているか」とは具体的にどのようなことですか。
A:ストレス・テストの結果次第では、リスク計測手法の変更やリスク限度枠の設定方法の変更が必要に
   なるなどリスク管理プロセス(リスクの特定・評価、モニタリング、コントロールの方法)を見直す
   必要がでてくると考えられます。
   また、これらの方針を定めている市場リスク管理方針を見直す場合もあると考えます。

 

独立した市場リスク管理部門の設置

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 市場リスク管理部門の独立性の確保

    市場リスク管理態勢の設計・運営に責任を負う市場リスク管理部門を、市場部門から独立して設置しているか。
    また、マーケット・リスク規制対象金融機関の場合、同一の取締役が、市場部門及び市場リスク管理部門を担当していないか。

  2. 市場リスク管理部門の役割・責任の明確化
    市場リスク管理部門の役割・責任について、市場リスク管理規定に明確に定めているか。
  3. 市場リスク管理部門の役割・責任
    1. 市場リスク管理部門は、市場リスク計測手法の算出結果を担当取締役及び取締役会等に直接、報告しているか。
    2. 市場リスク管理部門は、遵守すべき内部規定・業務細則等を関連部門全てに周知徹底しているか。
    3. 市場リスク管理部門は、市場リスク計測手法から得られた結果を適切に分析し、検討しているか。

パブリック・コメントでは、本チェック項目に関連して、次のやり取りがなされています。
「市場リスク管理体制の設計・運営に責任を負う市場リスク管理部門を、市場部門から独立して設置しているか。」とあるが、
①例えば、資金証券部の下でフロント課とミドル課が別れているケースは、認められないことになるの
 か。
→Ⅰ.2.③(ⅰ)の注記2「市場リスク管理部門を独立した態様で設置しない場合、(例えば、他の
 リスク管理部門と統合した一つのリスク管理部門を構成する場合のほか、他の業務と兼担する部署
 が市場リスク管理を担当する場合や、部門や部署ではなく責任者が市場リスク管理を担当する場合
 等)には、当該金融機関の規模・特性及びリスクプロファイルに応じ、その態勢のあり方が十分に
 合理的で、かつ、機能的な側面から見て部門を設置する場合と同様の機能を備えているかを検証す
 る。」に従って検証するものです。

②ここでいう「市場部門」とは、あくまでもディーリングを専門に行っている部門のみを想定している
 とも考えられるが、具体的にどのような部門を想定しているのか。
→ディーリング目的だけでなく、市場取引を行う部門を想定しています。

③本項目「独立した市場リスク管理部門の設置」が「Ⅲ.個別の問題点」に記載されている理由は何
 か。
→市場リスク計測手法を採用している場合について検証項目として記載しています。
 さらに、マーケット・リスク規制対象金融機関の場合は、同一の取締役が市場部門及びリスク管理
 部門を担当していないことを検証項目として記載しています。

 

市場リスク管理のための人員の配置

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 各部門(市場部門、市場リスク管理部門、事務管理部門、内部監査部門等)の業務に応じて、市場リスク計測手法及びプライシング・モデルの使用に習熟した人員が確保されているか。
  2. 管理者は、市場リスク計測手法及びプライシング・モデルに関し十分な知識と経験を有しているか。

市場リスク計測を実施している金融機関においては、市場部門あるいは、市場リスク管理部門のみならず、市場リスク計測に関係する多くの部門に市場リスク計測手法やプライシング・モデルに習熟した要員が配置されている必要があります。
ここでは、特に、内部監査部門においてその要員を確保しなければならないことを明示している点が重要です。

 

市場リスク計測手法の研究体制

【金融検査マニュアルのチェック項目】

市場リスク計測手法の研究を行う体制が整備されているか。例えば、以下の項目について、研究しているか。

  • 市場リスク計測手法の限界及び弱点への対応
  • 市場リスク計測手法の陳腐化の防止
  • ポートフォリオの市場リスク構成変化への対応
  • 市場リスク計測手法の高度化及び精緻化

市場リスク計測手法は、ルーティン化されればそれで済むという性質のものではありません。
また、様々な前提条件の下で計測されていることから、金融機関の内外の状況やリスク分析手法・理論の進展とともに見直しが必要となってきます。
そのため、常時、継続的に市場リスク計測手法の研究が実施されなければなりません。

 

市場リスク計測手法に関する内部規定等の整備

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 内部規定等の整備
    市場リスク計測手法の運営に関する方針、管理及び手続きを記載した内部規定・業務細則等を整備し、定期的に見直しているか。
    また、市場リスク管理態勢に関する他の内部規定・業務細則等との整合性を確保しているか。
  2. 内部規定等の遵守
    内部規程・業務細則等を遵守するための態勢を整備しているか。

市場リスク計測手法の運営について定めた内部規程が求められます。この規程は、他の関連する内部規程と整合性があるものでなければならず、また、本規定と実態が異なることがないようにする必要があります。

 

市場リスク計測手法の通常の市場リスク管理手続への取組み

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 市場リスク計測結果レポートの作成・報告
    1. 市場リスク計測結果を迅速にリスク・レポートに反映し、管理者に報告しているか。
    2. 市場リスク計測手法の算出結果が限度枠を超過した場合、適切な対応をとっているか。
    3. 管理者へのコメントを含み、主要な市場リスクの状況を要約した報告書を定期的に作成し、管理者に報告しているか。
  2. 市場リスク計測結果の分析・活用
    1. 市場リスク計測手法の算出結果を適切に分析し、市場リスク管理に活用しているか。
    2. 各関連部門は、リスク・レポートを日々の市場リスク管理に活用しているか。
    3. 市場リスク計測結果は、戦略目標、市場リスク管理方針及び市場リスク管理規程の策定並びにモニタリング等に十分に活用されているか。
      また、運用方針や限度枠の策定に反映しているか。
    4. 市場リスク計測手法により算出した市場リスク量と限度枠及び収益目標との関係について分析しているか。
    5. 市場リスク計測手法の算出結果(例えば、VaR)を業績評価のために活用しているか。内部管理と整合的な収益ユニット毎に、市場リスク計測手法の算出結果を活用したリスク・リターン分析に基づく業績評価を行っているか。
  3. 市場リスク計測手法の適切な運営
    1. 市場リスク計測手法を変更する場合の手続は適切に行われているか。
    2. 市場リスク計測手法の変更に当たっては、市場リスク管理方針と整合的であることを確認した上で、関連する部門や連結対象小会社等に対して伝達しているか。
    3. 市場部門と市場リスク管理部門は、同一の市場リスク計測手法の算出結果を使用して市場リスク管理を行うことが望ましいが、同一でない場合には、その差異を把握しているか。

管理者への報告、市場リスク管理への活用など、市場リスク計測結果をいかに通常リスク管理手続に組み込んでいるかを確認するチェック項目です。

ここで、②(ⅴ)に関しては、金融検査マニュアル改定に際してのパブリック・コメントで複数の業界団体からの照会を受け、「金融検査マニュアルに関するよくあるご質問(FAQ)」では、次のように回答されています。
Q :「市場リスク計測手法の算出結果(例えば、VaR(バリュー・アット・リスク))を業績評価のた
  めに活用しているか」とありますが、その趣旨は何ですか。
A:本チェック項目は、リスク管理の実効性を確保するためには、リスク・リターンの関係を踏まえた
  パフォーマンス評価等を行うことが必要であるとの観点からの検証項目であり、特定目的の業績評
  価に当たっての利用について述べているものではありません。

 

市場リスク計測

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 市場リスク計測手法の適切性の確保
    1. 金融機関の保有する重要な市場リスクを全て反映する市場リスク計測手法を採用しているか。計測対象外とする市場リスクが存在する場合、重要でないことの妥当性を確保しているか。
    2. 市場リスク計測手法を採用するに当たっては、テスト・データにより他の計測手法で算出した結果と比較・検討した上で、採用を決定しているか。
  2. 市場リスク計測手法のシステムへの反映
    1. 市場リスク計測手法(計測手法、前提条件等)及びその変更は、市場リスク計測システムに正しく反映されているか。
    2. 市場部門、市場リスク管理部門及び事務管理部門のシステム整合性を確保しているか。例えば、市場部門と市場リスク管理部門は、同一モデル(市場リスク計測モデル、プライシング・モデル、リスク・ファクター算出方法等)を使用することが望ましいが、同一でない場合には、その差異を把握しているか。
  3. データのシステムへの取込み
    1. データを適切なタイミングで取得し、異常データの発見と対処のための具体的運用基準を定め、運営しているか。
    2. データのエラー・チェックを行っているか。
    3. 外部データは適正なソースのものを使用しているか。異なったソースを使用している場合には、合理的理由及び整合性があるか。データ・ソースの整合性、適時性、信頼性及び独立性に問題はないか。
    4. ポジション・データの正確性及び完全性を確保しているか。例えば、取引データの入力プロセスは、ダイレクト・リンクにより行われているか。手入力となっている部分については、データの正確性の確認のためのレビューが行われているか。
  4. 新規商品等への対応
    新規商品等については、取組前に確実に市場リスクの特性を理解し、市場リスク計測手法に組み込んでいるか。市場リスク計測手法対象外とする場合、計測対象外とする理由は妥当であるか。

市場リスク計測は、金融機関が管理対象とすべきであると判断した市場リスクを全て反映した計測手法であり、それらがシステム的にもカバーされ、他の関連システムとの整合性も取られた上で、データの取込段階でも問題ないものとなっていなければなりません。
問題点、エラーなどの支障が生じた場合には、どのように対処したか記録を保存することが望まれます。

 

一般市場リスクの計測(一般市場リスクに関するリスク量を計測している場合)

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 市場リスク計測
    金融機関が保有する重要なリスクを全て反映する計測手法を採用し、適切なリスク計測を行っているか。リスク量の算出において市場リスク計測手法を使用していない商品及びリスク・ファクターが存在する場合は、代替的手法でリスク量を捉えているか。

    • 市場リスク計測において、線形リスク、非線形リスクを捉えているか。
    • オプション・リスクを保有する場合には、オプションのガンマ及びベガ・リスクを捉えているか。
    • 経路依存型の商品を保有している場合には、経路依存型商品特有のリスクを捉えているか。
    • 代理変数を使用してリスク計測を行っている場合、別途、残差リスクを捉えているか。

「一般市場リスク」は、「個別リスク」に対立するもので、金融庁の自己資本比率告示(バーゼルⅡ第1の柱に関する告示)では、次のように定義されています。

  • 個別リスク
    =特定の債権、株式等の価格が市場全体の価格変動と異なって変動することにより発生しうる危険
     をいう。
     (金融庁告示19号1条、79号)
  • 一般市場リスク
    =市場全体の価格変動により発生しうる危険をいう。
     (金融庁告示19号1条、80号)

当項目(9一般市場リスクの計測)は、自己資本比率策定において、マーケット・リスク規制が適用される銀行のみならず、内部管理上、一般市場リスクを算定している全ての銀行が対象となっている点に留意が必要です。(次の②〜④を除く。)。

【金融検査マニュアルのチェック項目】

②市場リスク計測頻度
 マーケット・リスク規制における内部モデル方式を採用している場合、トレーディング勘定のVaRを1営業日に1回以上、ストレスVaRを1週間に1回以上の頻度で計測しているか。

③信頼水準
 マーケット・リスク規制における内部モデル方式を採用している場合、信頼水準は、片側99%を適用しているか。市場リスク計測手法により算出した結果は、信頼水準に応じた正確性を確保したものか。内部管理用については、正確性に加え、採用した信頼水準の根拠が明確であるか。

  • パラメトリックな手法(分散共分散法等)を採用している場合、分布の仮定は妥当なものになっているか。
  • シュミレーション法(ヒストリカル・シュミレーション法等)を採用している場合、テール部分の推計は妥当なものになっているか。
  • モンテカルロ・シュミレーション方を採用している場合、乱数制度や発生回数と信頼水準は、整合的なものとなっているか。

④保有期間
 マーケット・リスク規制における内部モデル方式を採用している場合、保有期間は、10営業日以上としているか。
 また、採用したデータの採取方法は、保有期間に応じた妥当性を確保したものか。内部管理用については、妥当性に加え、採用した保有期間は、ポジションの流動化期間やポジション内容と整合的なものとなっているか。

マーケット・リスク規制は、VaRを日次で、ストレスVaRを週次で計測することを前提としています。
ここで、ストレスVaRとは、「適切なストレス期間を含む12月を特定し、当該ストレス期間におけるヒストリカル・データを銀行が現に保有するポートフォリオに適用して算出したバリュー・アット・リスクをいう。」とされています。
(例えば、銀行向けの自己資本比率告示(金融庁告示19号)274条3項9号を参照)

マーケット・リスク規制に即して内部モデル方式によりVaRを算出する場合、金融庁告示により、「信頼水準」を片側99%とすることと定められています。(例えば、銀行向けの自己資本比率告示(金融庁告示19号)274条3項1号を参照)。
また、これとは別に、金融機関がもっぱら内部間利用として市場リスク計測にVaRを利用している場合には、その信頼水準の根拠について明確に説明できるようにしておく必要があります。
さらに、ここでは、VaRを算出する代表的な3つの方法(分散共分散法、ヒストリカル・シュミレーション法、モンテカルロ・シュミレーション法)について、それぞれの方法において、問題となりやすいポイントを指摘しています。

VaRを算出する場合の「保有期間」については、274条3項1号で10営業日以上とすることとされています。
ただし、これにより短い日数で算出された値を適切と認められる方法によって10営業日相当に換算する扱いが認められています。

マーケット・リスク規制とは別に、金融機関の内部管理用としてVaRにより市場リスク計測・分析を行っている場合、その保有期間の設定は、ポジションを解消するのに必要な期間やポジションの内容と整合的なものとする必要があります。

【金融検査マニュアルのチェック項目】

⑤ヒストリカル・データの観測期間、更新頻度、欠損データの取扱い等

  1. ヒストリカル・データの観測期間は1年以上となっているか。
    また、採用したヒストリカル・データの観測期間は妥当性を確保したものか。
  2. ヒストリカル・データを1か月に1回以上は更新されているか。市場価格が大きく変動するなど、更新頻度の妥当性に問題が生じた場合には、ヒストリカル・データについての見直しの必要性を認識し、適切な対応を行っているか。
  3. 欠損データの補完方法は妥当なものになっているか。
  4. ストレスVaRを算出する場合には、当該ヒストリカル・データの選出及び定期的な見直しの基準が適切か。

ヒストリカル・データについては、例えば、銀行向けの自己資本比率告示(金融庁告示19号)では、1条25号で「過去に実際に発生した価格変動を表す数値をいう」と定義されています。
また、本チェック項目のⅰ、ⅱに関しては、一般市場リスクを算出するリスク計測モデルの承認の基準(定量的基準)を定めた同告示274条3項において、次のように規定されています。

金融庁告示第19号
第274条第3項

ニ バリュー・アット・リスクの算出に用いるヒストリカル・データの観測期間は、一年以上であるこ
  と。
三 ヒストリカル・データをその各数値に掛目を乗じて使用する場合は、各数値を計測した日から算出
  基準日までの期間の長さにその掛目を乗じて得たものの平均が、六月以上であること。
  ただし、より保守的なバリュー・アット・リスクが算出される場合は、この限りではない。
四 ヒストリカル・データが一月に一回以上更新されていること。
  ただし、市場価格に大きな変動がみられた場合には、当該変動を反映するための更新及び推計が行
  わなければならない。

ⅲ.ヒストリカル・データを採取する際にデータの欠損が判明した場合には、あらかじめ規定された内部手続に基づいて補完し、後日の検証が可能な形で記録を残すなど、妥当性を確保する態勢が必要とされます。

【金融検査マニュアルのチェック項目】

⑥相関関係の考慮

  1. 各ブロード・リスク・カテゴリー(金利、為替、株式及びコモディティ・リスク。
    ただし、オプションのボラティリティは、関連するリスク・カテゴリーに含む。)内で相関を考慮する場合、ヒストリカル・データを用いて相関の妥当性を検討しているか。
  2. 各ブロード・リスク・カテゴリー間において相関を考慮する場合は、合理性を検討し、その合理性を説明した書類を作成し、保存しているか。

ⅰ.ポートフォリオが複数のリスク・ファクターから構成される場合、リスク・ファクター間に相互に影響を与え合う関係(すなわち、相関関係)がある場合には、これを考慮に入れることが、より現実的なリスクの計測になります。例えば、金利リスクに関しては、金利が変化する場合、イールドカーブ全体が平行移動(パラレルシフト)する、つまり、イールドカーブ上に置かれた複数のリスク・ファクター(オーバーナイト金利、1か月物金利、3か月物金利、6か月物金利、1年物金利、3年物金利、5年物金利、10年物金利、など)が同方向に動くことが多いことが観測されており、相互に高い相関関係が認められます。
ここでは、リスク計測プロセスにおいてそのような相関関係を考慮している場合に、過去の実績値から相関関係の妥当性を検討すべきことがしめされています。

ⅱ.については、銀行向けの自己資本比率告示の中で次のように規定されています。

金融庁告示第19号
第274条第3項

八 金利、株式、外国為替及びコモディティの各リスク・カテゴリー間において、ヒストリカル・
      データから計測される相関関係に基づいてポジション同士を相殺する場合には、これを合理的
  に説明した事項を記載した書類を作成し、保存すること。

【金融検査マニュアルのチェック項目】

⑦マーケット・リスク・ファクターの設定

  1. マーケット・リスク・ファクターの設定に当たっては、金融機関のポートフォリオに内在する市場リスクを十分に把握できるものとなっているか。
    • マーケット・リスク・ファクターについては、金利、為替、株式及びコモディティのブロード・リスク・カテゴリーに関するものを設定しているか。
    • マーケット・リスク・ファクターの設定に当たって、全てのプライシング・ファクター(金融商品の価格に影響を及ぼす金利その他原因の区分)を用いているか。
    • 業務内容、市場環境等の変化に応じ、設定したマーケット・リスク・ファクターを見直しているか。
    • 代理変数を使用している場合は、その妥当性及び保守性を確保しているか。
  2. 金利リスク・ファクターの設定に当たっては、金融機関のポートフォリオに内在する金利リスクを十分に把握できるものとなっているか。
    • イールドカーブの作成方法についての内部規程・業務細則等を整備しているか。
    • イールドカーブのリスク・ファクターの設定(通貨・種類・期間)及び構築方法について、金融機関のポートフォリオ特性との整合性に問題はないか。
    • スプレッド・リスクを把握しているか。
  3. 為替リスク・ファクターの設定に当たっては、金融機関のポートフォリオに内在する為替リスクを十分に把握できるものとなっているか。
    • 市場流動性に欠ける通貨の取扱について、市場リスク計測における取扱と業務運営方針における取扱は、整合しているか。
  4. 株式リスク・ファクターの設定に当たっては、金融機関のポートフォリオに内在する株式リスクを十分に把握できるものとなっているか。
    • 株式リスク・ファクターは、市場特性及び運用特性(非上場、ファンド、銘柄の分散と集中度合等)と整合的になっているか。
  5. コモディティ・リスク・ファクターの設定に当たっては、金融機関のポートフォリオに内在するコモディティ・リスクを十分に把握できるものとなっているか。
  6. 金融機関のポートフォリオに内在するオプションのリスクを十分に把握できるリスク・ファクターがリスク・カテゴリー内に設定されているか。
    • ボラティリティ・カーブの作成方法についての内部規程・業務細則等を整備しているか。
    • ボラティリティ・リスク・ファクターの設定(通貨・種類・期間)及び構築方法について、金融機関のポートフォリオ特性との整合性に問題はないか。
  7. 金融機関のポートフォリオがⅱ.〜ⅵ.以外のリスクを保有している場合、そのリスクを十分把握できるものとなっているか。

 

⑧ポジション・データ
 ポジション・データとリスク・ファクターの関連付けの正確性・適切性を確保しているか。複数のリスク・ファクターに属する資産のマッピングにおいては、各リスク・ファクターに対応させているか。

マーケット・リスク・ファクターの設定は、自社のポートフォリオの実態に即したものとすることが重要です。
銀行向けの自己資本比率告示では、定量的基準の一貫として次のように規程されており、特に、ブロード・リスク・カテゴリーの種類を告示で指定し、それぞれにマーケット・リスク・ファクターを設定すべきことを定めています。

金融庁告示第19号
第274条第3項

五 マーケット・リスク・ファクター(マーケット・リスク相当額の算出の対象となる取引の価格に影
  響を及ぼす金利その他の原因の区分をいう。以下同じ。)については、金利、株式、外国為替及び
  コモディティに関するものを設定すること。そのうち、金利については、六以上のマーケット・リ
  スク・ファクターを設定すること。
六 前号のマーケット・リスク・ファクターの設定に当たって、全てのプライシング・ファクター(金
  融商品の価格に影響を及ぼす金利その他の原因の区分をいう。以下その号において同じ。)を用い
  ていること。
  ただし、プライシング・ファクターのうち、一部又は全部を用いないことにつき正当な理由がある
  場合には、この限りではない。

マーケット・リスク・ファクターが設定されたところで、次のステップとしてポジション・データとの関連付け(マッピング)を行います。⑧は、そのマッピングの正確性・適切性を確認するものです。

 

個別リスクの計測

(マーケット・リスク規制対象金融機関、又は個別リスクに関するリスク量を計測している場合)

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 個別リスクについては、もれなく計測しているか。
  2. 個別リスクについて、内部モデル方式を用いて計測する場合には、以下の基準を満たしているか。
    • ポートフォリオに関する過去の価格変動を説明できること
    • リスクの集中度も含めたポートフォリオの構成の変化が、マーケット・リスク全体に与える影響を把握していること
    • 市場環境の変化が、マーケット・リスク全体に与える影響を把握していること
    • 同一の主体に関するポジションのうち、期間、優先劣後関係、信用自由その他の差異の存在により、類似するが同一といえないポジションの有するリスクを把握していること
    • イベント・リスク及びデフォルト・リスクを正確に把握していること
    • バック・テスティングの結果から、個別リスクを正確に把握していることを説明できること
    • 流動性の劣る又は価格の透明性が限られているポジションから発生し得るリスクを、現実的な市場シナリオのもとで保守的に把握していること
  3. 個別リスクについて、内部モデル方式を用いて計測していない場合には、標準的方式を用いて計測しているか。

「個別リスク」および「一般市場リスク」について、銀行向けの自己資本比率告示では、次のように定義されています。

  • 個別リスク
    =特定の債券、株式等の価格が、市場全体の価格変動と異なって変動することにより発生しうる危
     険をいう。
     (金融庁告示19号1条、79号)
  • 一般市場リスク
    =市場全体の価格変動により発生しうる危険をいう。
     (金融庁告示19号1条、80号)

銀行向けの自己資本比率告示(金融庁告示19号277条)では、個別リスクを算出するリスク計測モデルの承認基準が詳細に規定されています。

 

追加的リスク計測(マーケット・リスク規制対象金融機関、又は追加的リスクに関するリスク量を計測している場合)

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 債券等に関わる個別リスクを内部モデル方式を用いて計測する場合には、当該債券等に関わる追加的リスクを内部モデル方式を用いて計測し、マーケットリスク相当額の合計額に加えているか。
  2. 追加的リスクについて、内部モデル方式を用いて計測する場合には、以下の基準を満たしているか。
    • 計測対象ポジションの流動性、集中度、ヘッジ状況及びオプション性に関する特性に応じて調整のうえ、信用リスクの内部格付手法に関する基準を適切に充足すること(この場合において、銀行の管理の状況に応じ、ポートフォリオのリスクが一定の水準にあるとの前提を置くことができる)
    • 追加的リスクを算出する場合には、片側99.9%の信頼区間を使用し、保有期間は1年以上とすること
    • 債務者間でのデフォルト及び格付繊維が連鎖することにより追加的リスクが増幅される効果を勘案していること
    • 追加的リスクとその他のリスクとの間の分散効果を勘案していないこと
    • 集中リスクを把握していること
    • 同一の金融商品に係るショート・ポジションとロング・ポジションの間以外でのエクスポージャーの額の相殺をしていないこと
    • 主要なベーシス・リスクを把握していること
    • 債券等の満期が流動性ホライズンを上回ることが確実でないと見込まれかつ、それによる影響が重大と認められるときは、当該債券等の流動性ホライズンよりも短い期間に償還されることに伴う潜在的なリスクを把握していること
    • ダイナミック・ヘッジにおける流動性ホライズンよりも短い期間におけるヘッジのリバランスの効果について、次に掲げる要件を満たしている場合にのみ当該効果を認識し、当該ダイナミック・ヘッジにより軽減されないリスクを反映していること
    • 追加的リスク計測モデルにおいて、マーケット・リスク相当額の計測対象となるポジションに対しヘッジのりバランスによる影響を勘案していること
    • 銀行が当該リバランスの効果を認識することがリスクの把握の向上に寄与することを説明していること
    • 銀行がヘッジに用いる金融商品が取引される市場が十分に流動的であることを説明していること
    • 債券等の非線形リスクを把握していること
  3. 追加的リスクの額を1週間に1回以上の頻度で計測しているか。

内部モデル方式により、債券等の個別リスクを内部モデル方式を用いて計測する銀行に対して、平成23年12月31日より、マーケット・リスク相当額への追加加算が求められることとなった追加的リスク(デフォルト・リスク及び格付遷移リスク(格付が変動した場合に資産の価格の変動を引き起こすリスク))の管理に関するチェックポイントです。

 

包括的リスクの計測(包括的リスクについて内部モデル方式を用いて計測する金融機関)

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 以下の基準を満たしているか。
    • 包括的リスク計測モデルが少なくとも、デフォルト・リスク、格付遷移リスク、複合的なデフォルトに係るリスク、クレジット・スプレッドに係るリスク、インプライド・コリレーションのボラティリティに係るリスク、ベーシス・リスク、回収率の変動に係るリスク、ヘッジのリバランスに係るリスクを含むリスクを計測するものであること
    • 主要なリスクを把握するための十分な市場に関する情報を保有していること
    • 包括的リスク計測モデルがコリレーション・トレーディングのポートフォリオに関する過去の価格変動を説明できること
    • 内部モデル方式を用いているポジションと用いていないポジションが明確に区別されていること
    • 包括的リスク計測モデルに対し少なくとも毎週ストレス・テストを実施していること
    • ストレス・テストの結果の概要を四半期ごとに(当該ストレス・テストの結果が包括的リスクに係る所要自己資本の不足を示している場合には、速やかに)金融庁長官へ報告するために必要な体制が整備されていること
  2. 包括的リスクの額を1週間に1回以上の頻度で計測しているか。

コリレーション・トレーディング(証券化取引等に関するポジションとそのヘッジポジションの組み合わせで、告示に特定された要件を満たすもの)に関する個別リスクについて、内部モデル方式により算定したリスク(包括的リスク)を用いることとしている銀行におけるチェックポイントです。

 

バック・テスティング(統計的手法でリスク量を計測している場合)

【金融検査マニュアルのチェック項目】

①バック・テスティングの実施

  1. バック・テスティングの目的、実施方法、頻度、分析手続及び報告手続について文書化しているか。
  2. 実際に発生した損益又はポートフォリオを固定した場合において発生したと想定される損益のいずれかを使用したバック・テスティングを定期的に実施しているか。
  3. 各ブロード・リスク・カテゴリー(金利、為替、株式及びコモディティ・リスク。ただし、オプションのボラティリティは、関連するリスク・カテゴリーに含む。)内で、過去のデータから計測される相関を考慮している場合、ブロード・リスク・カテゴリー別のバック・テスティングを業務内容等に応じて実施しているか。

②バック・テスティングの結果の分析

  1. 損益が市場リスク計測手法の算出結果を超過した差異の原因を分析・検討し、その原因に応じてモデルの見直しを行っているか。
  2. 損益が市場リスク計測手法の算出結果を超過した回数に応じて適切な対応を行っているか。
  3. バック・テスティングの結果に基づき、市場リスク計測手法の特性(限界及び弱点)や捕捉していないリスクについて把握し、必要な対応を行うことにより市場リスク計測手法の信頼性や適切性を確保しているか。
  4. バック・テスティングの結果、その分析及び検討内容は、担当取締役及び取締役会等に報告しているか。バック・テスティングの結果及び分析より、市場リスク計測手法の適切性に問題が発見された場合、速やかな取締約会等への報告及び対応策の策定のための態勢を確保しているか。

銀行向けの自己資本比率公示(金融庁告示19号274条)では、マーケット・リスク相当額の算出に内部モデル方式を用いる場合、当局の承認を得るための定性的基準として適切なバック・テスティングを行うことが要求されていることから、適切にバック・テスティングが実施されているか確認するチェック項目です。

金融庁告示第19号
(一般市場リスクを算出するリスク計測モデルの承認の基準)
第274条

  1. 金融庁長官は、一般市場リスクの算出について、第272条の承認をしようとするときは、定性的基準及び定量的基準に適合するかどうかを審査しなければならない。
  2. 前項の「定性的基準」とは、次に掲げるものをいう。
    一 マーケット・リスクの管理の過程の設計及び運営に責任を負う部署(以下、「マーケット・リ
      スク管理部署」という。)が、マーケット・リスク相当額を算出する対象となる取引に関わる
      部署から独立して設置されていること。
    ニ マーケット・リスク管理部署は、適切なバック・テスティング(第277条に定める要領で行う
      日ごとの損益とリスク計測モデルから算出される損益の比較の結果に基づき、リスク計測モデ
      ルの正確性の検定を行うことをいう。次条第4項第6号において同じ。)及びストレス・テスト
      (リスク計測モデルについて、将来の価格変動に関する過程を上回る価格変動が生じた場合に
      発生する損益に関する分析を行うことをいう。)を定期的にに実施し、それらの実施手続きを
      記載した書類を作成していること。

 

マーケット・リスク規制におけるマーケット・リスク相当額の算出

(マーケット・リスク規制対象の金融機関の場合)

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. マーケット・リスク相当額の算出
    マーケット・リスク相当額について、告示の定めに従って算出されているか。
  2. バック・テスティングによる超過回数に応じた適切な対応
    算出基準日を含む直近250営業日のうち、1日の損失額が対応する保有期間1日のVaRを超過した回数が5回以上となったときは、直ちに、その原因を分析し、その理由を明確に説明できる体制となっているか。

このチェック項目は、銀行向けの自己資本比率公示に定めた以下のマーケット・リスク相当額の規程に基づくものです。ここで「決められた乗数」とは、277条で規定された乗数を指し、バック・テスティングの結果に応じたものとなっています。

金融庁告示第19号
(内部モデル方式によるマーケット・リスク相当額)
第276条

  1. 内部モデル方式を用いて算出する一般市場リスク及び個別リスクに係るマーケット・リスク相当額は、次に掲げる額の合計額とする。
    ただし、バリュー・アット・リスクは、一営業日に一回以上の頻度で計測するものとし、ストレス・バリュー・アット・リスクは一週間に一回以上の頻度で計測するものとする。
    一 次のイ及びロに掲げる額のうちいずれか大きい額
     イ 算出基準日のバリュー・アット・リスク
     ロ 算出基準日を含む直近六十営業日のバリュー・アット・リスクの平均値に次条に定める乗数
       を乗じて得た額
    ニ 次のイ及びロに掲げる額のうちいずれか大きい額
     イ 算出基準日のストレス・バリュー・アット・リスク
     ロ 算出基準日を含む直近六十営業日のストレス・バリュー・アット・リスクの平均値に前号ロ
       で使用した乗数を乗じて得た額

     

  2. (略)

金融庁の銀行向けの自己資本比率告示では、「内部モデル方式を用いている銀行は、超過回数が5回以上となった時は、その都度、直ちに、その旨を記載した届出書に超過回数が5回以上となった原因を分析した書類を添付して金融庁長官に提出しなければならない」と規程しており(金融庁告示19号277号3項)、この体制ができていないことは、明らかに問題とされます。

 

ストレス・テスト(統計的手法でリスク量を計測している場合)

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. ストレス・テストの実施
    1. ストレス・テストの目的、実施方法、頻度、分析手続及び報告手続について文書化しているか。
    2. ストレス・テストを定期的又は必要に応じ随時、適切に実施しているか。マーケット・リスク規制対象金融機関の場合、定期的に実施しているか。
    3. ストレス・テストの対象となっているリスク・ファクターは、主要な取引をカバーしているか。また、ストレス・テストの対象となっていないリスク・ファクターについては、随時、見直しているか。
  2. ストレス・シナリオの設定
    金融機関に重大な影響を及ぼしうる事象や市場リスク計測手法の限界及び弱点を補うシナリオを設定しているか。

    • 大きな価格変動と流動性の急激な低下を併せ持った過去の大きな混乱時の市場変動を、現在のポートフォリオに対して適用するストレス・シナリオを設定しているか。
    • 当該金融機関のポートフォリオに対して、最悪事態を想定したストレス・シナリオを設定しているか。
    • ストレス・シナリオには、当該金融機関のリスク特性を反映しているか。例えば、オプションやオプションに類似した性質を有する商品の価格特性を考慮しているか。
    • 市場リスク計測手法の前提条件等が崩れた場合についてのストレス・シナリオを設定しているか。
  3. ストレス・テスト結果の活用
    ストレス・テストの結果、その分析及び検討内容は、相当取締役及び取締役会等に報告しているか。ストレス・テストにおいて多額の損失が予想される場合、速やかな取締役会等への報告及び対策の策定のための態勢を確保しているか。
    また、ストレス・テストの結果に応じた対応が策定され、運用方法、限度枠の設定及び自己資本充実度の評価に反映するよう活用しているか。

ストレス・テストとは、「リスク計測モデルについて、将来の価格変動に関する仮定を上回る価格変動が生じた場合に発生する損益に関する分析を行うことをいう」ものとされています(金融庁告示19号)。
VaRなどの統計的手法により、リスク量を算出している場合には、ストレス・テストを実施し、統計的手法の弱点を補完することが必要であり、自己資本比率告示における内部モデル方式を採用する際の定性的基準においてもそのことが求められています(金融庁告示19号 274条2項2号)。

 

市場リスク計測手法の正確性や適格性の検証

(統計的手法でリスク量を計測している場合)

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 市場リスク計測手法の開発から独立し、かつ十分な能力を有する者により、開発時点及びその後定期的に、市場リスク計測手法の正確性や適切性について検証されているか。
    また、市場リスク計測手法への重要な変更、市場の構造的な変化又はポートフォリオ構成の大きさの変化によって市場リスク計測手法の正確性や適切正が失われるおそれが生じた場合も検証されているか。
  2. 市場リスク計測手法において、前提条件等が不適切であることによりリスクを過小に評価していないか。
  3. 市場リスク計測手法の正確性や適切性を検証するためにバック・テスティングを行っているか。例えば、規制上のバック・テスティングに加え、中長期的な分析をするなど検証を向上させているか。
  4. 金融機関のポートフォリオと市場リスク計測手法の構造に照らして適切な手法でモデルを検証することにより、妥当な検証結果が得られているか。
  5. 仮想的なポートフォリオを使用した検証により、市場リスク計測手法がポートフォリオの構造的な特性から生じうる影響を適切に把握していると評価できているか。

本チェック項目に関連して、金融庁検査局が公表している「金融検査マニュアルに関するよくあるご質問(FAQ)では、パブリック・コメントを踏まえ、次のような回答がなされています。
Q:「市場リスク計測手法の開発から独立し、かつ十分な能力を有する者」とは、どのようなものです
  か。
A:1.例えば、市場リスク計測手法を開発した者でないことや、市場リスク計測手法を開発したもの
    から干渉を受けることがないことなど、実質的に、客観性が担保できる立場であることが必要
    です。
  2.この趣旨が担保できているのであれば、「市場リスク計測手法の開発から独立した者」とは、
    組織なのか、人なのかは問いません。

 

市場リスク計測手法に関する記録

(統計的手法でリスク量を計測している場合)

【金融検査マニュアルのチェック項目】

市場リスク計測手法、前提条件等を選択する際の検討過程及び決定根拠について、事後の検証や計測の精緻化・高度化のために詳細な記録等を保存し、継承できる体制を整備しているか。例えば、以下の記録を保存しているか。

  • 基本設計思想
  • 市場リスク計測手法の概要及び詳細説明書(計測手法、前提条件等)
  • 市場リスク計測手法選択の検討結果及び決定根拠
  • 市場リスク計測手法の正確性・適切正の検証についての実施内容、検討結果及び判断根拠
  • バック・テスティング、ストレス・テストの実施内容、検討結果及び判断根拠
  • 各商品のプライシング・モデル

事後の検証を可能とするため、自社において市場リスク計測手法、前提条件を選択した際の検討過程、決定根拠を文書化して保存しておかなければなりません。この記録は、リスク計測システムのテクニカル・ドキュメントではなく、自社における検討過程を記録したものです。

 

監査(統計的手法でリスク量を計測している場合)

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 監査プログラムの整備
    市場リスク計測手法の監査を網羅的にカバーする監査プログラムが整備されているか。

    • 内部監査の担当者は、市場リスク管理手法に習熟しているか。
    • 内部監査は、1年に1回以上の頻度で行っているか。
  2. 内部監査の監査範囲
    以下の項目について、内部監査を行っているか。

    • 市場リスク計測手法と、戦略目標、業務規模・特性及びリスク・プロファイルとの整合性
    • 市場リスク計測手法の特性(限界及び弱点)を考慮した運営の適切性
    • 市場リスク計測手法に関する記録は適切に文書化され、遅滞なく更新されていること
    • 市場リスク計測手法及びプライシング・モデルの使用に習熟した人員の配置の適切性
    • 市場リスク計測手法の算出結果が日々の市場リスク管理に統合されていること
    • プライシング・モデル及び市場リスク計測手法を含む新しいモデルの承認プロセスの適切性
    • 市場リスク管理プロセスにおける変更内容の計測手法への適切な反映
    • 市場リスク計測手法によって捉えられる計測対象範囲の妥当性
    • 経営陣向けの情報システムに遺漏がないこと
    • プライシング・モデルのロジックの合理性
    • 市場リスク計測手法、前提条件等の妥当性
    • 市場リスク計測に利用されるデータの正確性及び完全性
    • 市場リスク計測手法を可動させる際に使用するデータ・ソースの整合性、適時性、信頼性及び独立性
    • バック・テスティングのプロセス及び結果の適正性
    • ストレス・テストのプロセス及び結果の適正性
    • 定期的な市場リスク計測手法の検証の適切性
  3. 内部監査の結果の活用
    市場リスク管理部門は、内部監査の結果を踏まえて、市場リスク計測手法を適切に見直しているか。
  4. 外部監査の結果の活用
    外部監査は、業務内容や内部監査の実施状況を勘案して、適切に実施(範囲、頻度及び深度)しているか。
    また、市場リスク管理部門は、外部監査の結果を踏まえて、市場リスク計測手法を適切に見直しているか。

マーケット・リスク相当額の算出に内部モデル方式を用いている場合には、1年に1回以上、ここで示しているような市場リスク計測手法の内部監査を実施する必要があります。
そのために、1.にもあるように市場リスク計測手法に習熟した内部監査の担当者が配置されている必要があります。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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