市場リスク管理部門の役割・責任

市場リスク管理部門の担当者は、市場リスク管理のプロセスである、市場リスクの特定・評価、市場リスクの計測・分析、モニタリング、コントロール及び削減の実務を担うとともに、この市場リスク管理プロセスの検証・見直しを行うことが役割・責任になります。

市場リスクの特定・評価

1.市場リスクの特定

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 市場リスク管理部門は、当該金融機関の直面する市場リスクを洗い出し、洗い出した市場リスクの規模・特性を踏まえ、市場リスク管理の管理対象とすべきリスクを特定しているか。洗出しの際、資産・負債(オフ・バランスを含む。)に対する金利リスク、為替リスク、株式リスク等のリスク・カテゴリー(又はリスク・ファクター)の網羅性に加え、バンキング・トレーディング勘定、海外拠点、連結対象子会社等の業務範囲の網羅性も確保しているか。
  2. 当該金融機関が保有するリスクについて、例えば、以下のリスクを洗い出し、これらの市場リスクを管理対象とすべきか検討しているか。
    イ.金利リスク
      金利が変動することによって、資産・負債(オフ・バランスを含む。)の現在価値(又
      は期間収益)に影響を与えるリスク。金利リスクの発生源として、金利更改リスク、
      イールドカーブ・リスク、ベーシス・リスク、オプション性リスクを考慮する必要が
      ある。例えば、以下のものが金利リスクを保有する。
    ・預金
    ・貸出金
    ・債権
    ・金融派生商品

    ロ.為替リスク
      為替レートが変動することによって、資産・負債(オフ・バランスを含む。)の現在
       価値(又は期間収益)に影響を与えるリスク。
       例えば、以下のものが為替リスクを保有する。
    ・外貨建ての資産・負債
    ・外国為替取引
    ・上記の派生商品(先渡、先物、スワップ、オプション等)
    ・為替レートを参照してキャッシュ・フロー(償還金額、クーポン・レート等)が定まる
      資産・負債

    ハ.株式リスク
      株価、株式指数等が変動することによって、資産・負債(オフ・バランスを含む。)
      の現在価値(又は期間収益)に影響を与えるリスク。例えば、以下のものが株式リス
      クを保有する。
    ・株式
    ・新株予約権付社債
    ・上記の派生商品(先渡、先物、スワップ、オプション等)
    ・株価、株式指数等を参照してキャッシュ・フロー(償還金額、クーポン・レート等)が
     定まる資産・負債

    ニ.コモディティ・リスク
      商品価格、商品指数等が変動することによって、資産・負債(オフ・バランスを含
      む。)の現在価値(又は期間収益)に影響を与えるリスク。
      例えば、以下のものがコモディティ・リスクを保有する。
    ・商品の派生商品(先渡、先物、スワップ、オプション等)
    ・商品価格、商品指数等を参照してキャッシュ・フロー(償還金額、クーポン・レート
      等)が定まる資産・負債

    ホ.その他の市場リスク
      現在価値を決定するイ~ニ以外のリスク・ファクターとして、例えば、キャッシュ・
      フローが複数の指標を参照して定まる資産・負債(オフ・バランスを含む。)におけ
      る複数の指標間の相関等がある。

  3. 社債、クレジット・デリバティブ等については、例えば、信用スプレッドが変動することによって、現在価値(又は期間収益)に影響を与えるリスクなどを洗い出し、管理対象とすべきか検討しているか。
  4. オプション等については、例えば、以下のリスクを洗い出し、これらの市場リスクを管理対象とすべきか検討しているか。
    ・ボラティリティが変動することによって、現在価値(又は期間収益)に影響を与えるリス
     ク(ベガ・リスク)
    ・原資産価格の変動が現在価値に影響を与えるリスクのうち非線形の部分
     (ガンマ・リスク)
  5. 市場リスク管理の管理対象外とする市場リスクが存在する場合、その影響度が軽微であることを確認しているか。
  6. 市場リスク管理部門は、新規商品等の取扱い、新規の商品の購入、海外拠点・子会社での業務の開始等を行う場合に、事前に内在する市場リスクを洗い出し、市場リスク管理の管理対象とすべきリスクを特定しているか。

市場リスク管理部門は、金融機関における市場リスクの洗出しを実施した上で、管理対象とすべきかどうかについて検討しなければなりません。

ⅰでは、市場リスクの洗出しに当たって、「網羅性」が確保されているかどうか、2つの側面からチェックすることとされています。

【市場リスクの洗出し】

・リスク・カテゴリー  
・業務範囲の網羅性の確保

ⅱ金融検査マニュアルにおける市場リスクの定義は、確認検査用チェックリストの冒頭にある「検証ポイント」で示されていますが、ここでは、そのようなリスク・カテゴリー毎の市場リスクが金融機関のどのような業務、商品、取引に所在しているかについて例示されています。
ここに示されたリスク・カテゴリーを確認検査用チェックリスト冒頭に置かれた検証ポイントで示されている市場リスクの定義と比較すると、「金利リスク」をさらに4つに細分化していること、「価格変動リスク」に代えて「株式リスク」、「コモディティ・リスク」を挙げていること、「その他の市場リスク」にも触れていることなど、より詳細な記述がなされており、バーゼルⅡに基づく自己資本比率告示におけるリスク・カテゴリーを踏まえたものとなっています。

【市場リスクのリスク・カテゴリー】

・金利リスク
     ー 金利更改リスク
         ー イールドカーブ・リスク
      ー ベーシス・リスク
       ー オプション性リスク

・為替リスク

・株式リスク

     ・コモディティ・リスク

    ・その他の市場リスク

コモディティ・リスクのある取引として金融機関が取り扱うことができるものは、商品デリバティブ取引(及びそのオプション取引)になります。すなわち、銀行法10条2項14号により、金融等デリバティブ取引が銀行の付随業務として認められており、この規定を受けた銀行法施行規則13条の2の2において商品デリバティブ取引が金融等デリバティブ取引の1つとして挙げられています。

銀行法 第10条 第2項第14号

金利、通貨の価格、商品の価格、算定割当量(地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号)第2条第6項(定義)に規定する算定割当量その他これに類似するものをいう。次条第4号において同じ。)の価格その他の指標の数値としてあらかじめ当事者間で約定された数値と将来の一定の時期における現実の当該指標の数値の差に基づいて算出される金銭の授受を約する取引又はこれに類似する取引であって内閣府令で定めるもの(次号において「金融等デリバティブ取引」という。)のうち銀行の経営の健全性を損なうおそれがないと認められる取引として内閣府令で定めるもの(第5号及び第12号に掲げる業務に該当するものを除く。)

銀行法施行規則 第13条の2の2

法第10条2項第14号に規定する類似する取引であって内閣府令で定めるものは、次に掲げるものとする。

  1. 当事者が数量を定めた商品について当該当事者間で取り決めた商品相場に基づき金銭の支払を相互に約する取引その他これに類似する取引(次に掲げる取引に限る。以下「商品デリバティブ取引」という。)
    イ 差金の授受によって決済される取引
    ロ 商品及びその対価の授受を約する売買取引であって、次に掲げる要件のすべてを満たす
      もの
    (1)当該売買取引に係る商品を決済の終了後に保有することとならないこと。
    (2)当該売買取引に係る商品の保管又は、運搬に伴い発生しうる危険を負担しないこと。
  2. (略)
  3. 当事者の一方の意思表示により当事者間において前二号に掲げる取引を成立させることができる権利を相手方が当事者の一方に付与し、当事者の一方がこれに対して対価を支払うことを約する取引その他これに類似する取引

2 法第10条第2項第14号に規定する銀行の経営の健全性を損なうおそれがないと認められる取
  引として内閣府令で定めるものは、前項各号に掲げるものとする。

3 (略)

ⅲに関しては、社債やクレジット・デリバティブでは、発行体の信用リスクの度合いが価格、運用レートの主な変動要因となることから、市場リスクではなく信用リスクとして特定する場合がある旨の脚注が付されています。

クレジット・デリバティブについては、金融商品取引法2条22項6号イ等で次のように規定されています。

当事者の一方が金銭を支払い、これに対して当事者があらかじめ定めた次に掲げるいずれかの事由が発生した場合において相手方が金銭を支払うことを約する取引(当該事由が発生した場合において、当事者の一方が金融商品、金融商品に係る権利又は金銭債権(金融商品であるもの及び金融商品に係る権利であるものを除く。)を移転することを約するものを含み、第二号から前号に掲げるものを除く。)又はこれに類似する取引イ法人の信用状態に係る事由その他これに類似するものとして政令で定めるもの

 

ⅳオプションについては、原資産の内容により、金利リスク、為替リスク、株式リスク、コモディティ・リスク等の分類で特定される場合が多いことが脚注に記されていますが、その際に、オプションの価値に影響を与えるものとして、デルタ・リスクに加えてベガ・リスク、ガンマ・リスク等も自社のリスク管理対象とすべきか否か、検討することが必要とされています。
バーゼルⅡに基づく自己資本比率告示(第1の柱に関する告示)では、標準的方式で、オプション取引に関するマーケット・リスク相当額の算出にデルタ・プラス法を用いる場合には、ガンマ・リスク及びベガ・リスクについて計測する必要があります。(銀行法14条の2の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準(金融庁告示19号)294条・296条)。

ⅴ洗い出した市場リスクの規模・特性を踏まえ、市場リスク管理の管理対象とすべきかどうか判断し特定することが、ⅰで示されており、ⅴのチェック項目はその裏付けを行うものとなります。

ⅵ新規商品、新規業務に関わる事前のリスク洗出しを確実に行うことは、重要なポイントになります。

2.市場リスク計測・分析

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 市場リスク管理部門は、市場リスク管理の管理対象とする全てのリスクについて計測・分析を行っているか。
    また、金融機関の組織体系、委譲された役割・責任等と整合的な範囲毎に、市場リスクは計測・分析されているか。
  2. 市場リスク管理部門は、業務の規模・特性及びリスク・プロファイルに見合った頻度で、ポジションの現在価値(時価)を計測しているか。
  3. 市場リスク管理部門は、業務の規模.特性及びリスク・プロファイルに見合った適切な市場リスク計測・分析方法(手法、前提条件等)を用い、バンキング・トレーディング勘定の市場リスクを適切に計測・分析しているか。
    また資産・負債(オフ・バランスを含む。)の現在価値に影響を与える要因及び期間収益に影響を与える要因の双方を踏まえ、市場リスクの計測.分析を行っているか。
    (注)以下に、市場リスクの計測・分析手法の一例を記載する。
    ・ポジション残高、評価損益、実現損益
    ・金利更改ラダーや資金満期ラダー等に基づいた、ギャップ分析や静態的シミュレーション
     分析及び動態的シミュレーション分析
    ・感応度分析(デュレーション、BPV(ベーシス・ポイント・バリュー)、GPS(グリッ
     ド・ポイント・センシティビティ)等)
    ・静態的シミュレーション及び動態的シミュレーションを用いたシナリオ分析
    ・VaR(バリュー・アット・リスク)
    ・EaR(アーニング・アット・リスク)
  4. 市場リスク管理部門は、プライシング・モデル、リスク計測・分析手法(又は計測モデル)、前提条件等について、妥当性を確保しているか。プライシング・モデルやリスク計測手法は、金融界で一般に受け入れられている概念やリスク計測技術を活用しているか。

市場リスク管理部門による市場リスクの計測・分析のあり方について問われています。

  1. 市場リスク管理部門において、管理対象とされるすべてのリスクを網羅的に、計測・分析しなければならないことが示されています。
    その計測・分析に際しては、組織体制や権限分掌、責任の所在と整合的な範囲毎に区分して計測・分析しなければなりません。
    したがって、計測・分析の範囲が組織体制上の区分と異なっていることがないか、その相違は市場リスク管理態勢上の問題となることがないか、市場取引を実施する部署のパフォーマンス評価に影響を及ぼさないかどうかなど、注意深く検証する必要があります。
    また、金融検査マニュアルにおける「部門」は、機能面からとらえることとされていますので、ここで示された「市場リスク管理部門」の機能を自社のどの組織が担当しているか、注意深く確認する必要があります。場合によっては、複数の部署が分担している可能性もあります。
  2. 時価評価を実施する頻度の設定をどのようにするかが問われています。リスク・プロファイルが複雑で、かつ、急速に変化するような市場取引に関しては、計測・分析の頻度を高める必要があります。
  3. においては、市場リスク計測の適切性の確保が問題とされています。
    また、リスク計測・分析の対象範囲は、バンキング勘定とトレーディング勘定の双方をカバーしたものでなければなりません。

そして、ここでは、「資産・負債(オフ・バランスを含む。)の現在価値に影響を与える要因及び期間収益に影響を与える要因の双方を踏まえ、市場リスクの計測・分析を行っているか」というチェック項目があります。この点に関しては、平成19年2月における金融検査マニュアル改定に際してのパブリック・コメントにおいて、次のやりとりがされています。

  • 市場リスク計測の内容について、①【市場リスクの特定】では「現在価値(又は
    期間収益)」と選択的な表記である一方、②【市場リスクの計測分析】では、「資
    産・負債の現在価値に影響を与える要因及び期間収益に与える要因の双方を踏まえ、市場リスクの計測・分析を行っているか」とある。当該金融機関の業務内容、
    リスク特性に応じ選択的な対応が可能とすべき。
    【理由等】期間損益に対する市場リスク変動の影響評価はALM運営の一部として財務部門等が担うことも多く、これについてVaR等の現在価値ベースのリスク計測と同様の組織態勢を一律に求めることは妥当でないと考えられるため。
  • 「市場リスク管理部門は、資産・負債の現在価値に影響を与える要因及び期間収
    益に与える要因の双方を踏まえ、市場リスクの計測・分析を行っているか。」と
    あるが、例示にあるような分析は、市場リスク管理部門だけでなく、経営管理部
    門や市場業務部門等の部署による実施でも要件を満たすとの認識でよいか。

→市場リスク市場リスク計測・分析は、市場部門から独立し牽制機能が働く部門において、リスク管理の視点で分析を行うことで、客観’性を確保する必要があると考えます。
仮に、市場リスク管理部門が市場リスク計測・分析を行っていない場合も、市場リスク管理部門はその計測・分析結果を評価する必要があると考えます。

バーゼル銀行監督委員会の「金利リスクの管理と監督のための諸原則」(2004年7月)では、金利リスクの計測について、損益及び経済価値の双方に対する評価を実施することを前提とした次の記述があります。

「金利リスクの管理と監督のための諸原則」

パラグラフ40

銀行は、一般的には、個々の銀行の活動の複雑さと範囲にもよるが、金利変化の損益及び経済価値双方に対する影響を評価する金利リスク計測システムを有しているべきである。これらのシステムは、銀行のその時点での金利リスク・エクスポージャーについての意味ある指標を提供するべきであり、発生するかもしれない過度のエクスポージャーを識別できるものであるべきである。

ⅳ.市場リスク管理部門によるプライシング・モデル、リスク計測・分析手法(または計測モデル)、前提条件等に係る妥当性の確保に関しては、金融検査マニュアル改定に際してのパブリック・コメントにおいて次のようなやりとりがなされています。

市場リスク管理部門」を「市場リスク管理部門等」に変更していただきたい。

→本チェック項目でいうプライシング・モデルはあくまでもリスク評価のために用いるものであるため、市場リスク管理部門がその妥当性を確保する必要があります。もっとも、例えば、市場部門との牽制機能の働く部門等に対して、妥当性の検証を委任する等、妥当性を確保する手段は一つに限りませんが、最終的な責任は市場リスク管理部門が負うべきものと考えます。

金融庁検査局が公表している「金融検査マニュアルに関するよくあるご質問(FAQ)」では次のように記されています。

Q:プライシング・モデル等の妥当性については、市場リスク管理部門が確保しなければならないのですか。

A:1.リスク評価のために用いるう.ライシング・モデルについては、あくまでもリスク管理に用いる
     以上、市場リスク管理部門がその妥当性を確保する必要があります。
  2.もっとも、例えば、実際の作業について市場部門との牽制機能の働く財務部門等が行うことを否
     定するものではありません。しかしながら、最終的な責任は市場リスク管理部門が負うべきであ
     ると考えます。

3.統一的な尺度によるリスク量の計測

【金融検査マニュアルのチェック項目】

市場リスク量を統一的な尺度で定量的に計測している場合、市場リスク管理部門は、市場リスク管理の管理対象として特定した全てのリスクについて、統一的な尺度で計測しているか。統一的な尺度で十分に把握できない又は計測を行っていないリスクが存在する場合には、補完的情報を用いることにより、市場リスク管理の管理対象として特定した全てのリスクを勘案しているか。

現在のところ、市場リスク量の統一的な尺度による定量的な計測は、VaRに基づくリスク量の計測により実施されている金融機関がほとんどです。
本チェック項目では、そのようなリスク計測について、①市場リスク管理部門において実施していること、②原則として、管理すべきすべてのリスクがVaRの対象になっていること、③例外的に、VaRによるリスク計測の対象外となっている市場リスクがある場合には、補完的情報による管理の対象とすることが求められています。

4.ストレス・テスト

【金融検査マニュアルのチェック項目】

市場リスク管理部門は、定期的に又は必要に応じて随時、市場等のストレス時における資産・負債(オフ・バランスを含む。)の現在価値の変動額等について計測しているか。過去に発生した外部環境(経済、市場等)の大幅な変化並びに現在の外部環境業務の規模・特性及びリスク・プロファイルの状況を踏まえた適切なストレス・シナリオを想定し、ストレス・テストを実施しているか。

ストレス・テストとは、例外的であるものの蓋然性のあるイベントが発生した場合のリスク・ファクターの変動が金融機関の財務状況に与える潜在的な影響を検証する手法です。
VaRのような統計モデルでは、極端に例外的なイベントが発生した場合に、どの程度の損失を被るか十分に補足できない限界がありますが、ストレス・テストはそのようなVaRの限界を補完するものと位置づけられています。
ここでは、ヒストリカル・シナリオ(過去に発生した外部環境の大幅な変化)と仮想シナリオ(現在の外部環境、業務の規模・特性及びリスク・プロファイルの状況を踏まえた適切なストレス・シナリオ)というシナリオ分析の2つの手法により、ストレス・テストを実施することが示されています。

 

モニタリング

1.市場リスクのモニタリング

【金融検査マニュアルのチェック項目】

市場リスク管理部門は、市場リスク管理方針及び市場リスク管理規程に基づき、当該金融機関の内部環境(リスク・プロファイル、限度枠の使用状況等)や外部環境(経済、市場等)の状況に照らし、当該金融機関の市場リスクの状況を適切な頻度でモニタリングしているか。例えば、トレーディング勘定については、市場リスク管理部門が日中において必要に応じ主要商品のポジション、損失額をモーターしているか。
また、内部環境及び外部環境の状況並びに前提条件等の妥当性のモニタリングも行っているか。

市場リスク管理部門により実施される市場リスクの状況に対するモニタリングについて示されています。一般的に、モニタリングとは、「その対象となるものが正常な状態に保たれるように監視すること」を言いますが、ここで重要な点は、自社の特性、リスク・プロファイルに応じたモニタリングの「頻度」を適切に設定することです。
上記の記述では、モニタリングの対象が「市場リスクの状況」、「内部環境・外部環境」、「前提条件等の妥当性」とされていますが、実際には、金融機関の市場リスクのコントロールは、市場部門(トレーディング担当部署、ALM担当部署、等)が市場リスク管理方針や市場リスク管理規程等に基づいた市場業務運営を行うことを通じて実施されており、市場リスク管理部門は、市場部門によってリスクが適切にコントロールされているかどうかを含めてモニタリングを行うことになります。

実務的には、このようなモニタリングを実施するためには、必要に応じて、事前にモニタリングのためのITシステムやモニタリング手続に関する詳細な取り決めを整備しておかなければなりません。
特に、ここで例示されているようなトレーディング勘定についての日中モニタリングは、コストや市場リスク管理部門の担当者への負担もかかる一方、約定取引の入力とポジション・損益への反映のずれによる誤解も少なくないため、注意が必要です。

2.限度枠の順守状況等のモニタリング

【金融検査マニュアルのチェック項目】

市場リスク管理部門は、適切に限度枠の遵守状況と使用状況をモニタリングしているか。

限度枠の超過が判明した場合には、何らかのアクションを取る必要があり、限度枠のモニタリングは、市場リスク管理上、極めて重要な機能と位置付けられます。
また、限度枠に対する実績額・使用率がどの程度かという使用状況のモニタリングも大切です。あまり使用されていないようであれば、設定された限度枠の削減を検討する必要がありますし、反対に、使用率が恒常的に高い場合には、限度枠の増枠も視野に入れておかなければなりません。

3.取締役会等への報告

【金融検査マニュアルのチェック項目】

市場リスク管理部門は、市場リスク管理方針及び市場リスク管理規程に基づき、市場リスク管理の状況及び市場リスクの状況に関して、取締役会等が適切に評価・判断できる情報を、定期的に又は必要に応じて随時、直接、報告しているか。
例えば、以下の項目について報告しているか。

  • 市場リスク・プロファイル及びその傾向
  • 限度枠の順守状況及び使用状況
  • 市場リスク計測・分析手法(手法、前提条件等)の特性(限界及び弱点)及び妥当性

経営陣に対して、市場リスク管理や市場リスクの状況を報告することは、市場リスク管理部門の重要な役割の1つです。経営陣は、市場リスク管理部門からの報告や他の部門からの報告等を踏まえて、市場リスク管理態勢の実効性、現場の実態を評価・判断することになります。

4.市場部門等への還元

【金融検査マニュアルのチェック項目】

市場リスク管理部門は、市場部門等に対し、市場リスクの状況について計測・分析し、検討した結果等を還元しているか。

市場リスク管理部門がモニタリングした結果について、市場リスクをコントロールしつつ収益獲得を図っている市場部門等に還元することによって、現状の市場リスクの現状に対する認識を共有化し、リスク管理態勢の強化へ向けた取組みを容易にすることが期待されます。
また、市場部門等のパフォーマンス向上の契機ともなります。

 

コントロール及び削減

1.管理不可能な市場リスクが存在する場合の対応

【金融検査マニュアルのチェック項目】

市場リスク管理部門は、市場リスク管理の管理対象外とするリスクの影響が軽微でない場合や適切な管理が行えない管理対象リスクがある場合、当該リスクに関連する業務等の撤退・縮小等の是非について意思決定できる情報を取締役会等に報告しているか。

金融機関の業務や商品・取引において、従来、市場リスク管理の対象外としてきたリスクが無視できない状況になったと判断される場合、あるいは、コントロール不可能な市場リスクの存在が明らかになった場合、業務自体からの撤退・縮小を含めたリスク回避・削減策をとることは経営判断を伴うものであり、取締役会等の経営陣の役割・責任となります。

取締役会等が適切な判断を行えるよう、市場リスク管理部門は、適切な情報を提供する必要があります。

2.限度枠を超過した場合の対応

【金融検査マニュアルのチェック項目】

場リスク管理部門は、限度枠を超過した場合、速やかに、ポジション、リスク等の削減等の是非について意思決定できる情報を取締役会等に報告しているか。

一般的な考え方として、ある限度枠に対して責任を持つ者への必要な権限を委譲したところ、当該限度枠を超過した場合には、この責任を持つ者よりも上位の者が取り扱いを判断することが基本となります。

金融検査マニュアルでは、限度枠の適切な設定は、「取締役会等」の役割としています。
したがって、本チェック項目では、限度枠を超過した場合、市場リスク管理部門は取締役会等に必要な情報を報告すべきものとしています。
リスク管理の実効性を確保する上で、この報告は超過の事実が判明し確認され次第、「速やかに」なされる必要があります。

 

検証・見直し

1.市場リスク管理の高度化

【金融検査マニュアルのチェック項目】

市場リスク管理部門は、市場リスク計測・分析方法(手法、前提条件等)の限界及び弱点を把握するための検証を実施し、それを補うための方策を検討しているか。
また、把握した限界及び弱点を踏まえ、リスク・プロファイルに見合った市場リスク管理の高度化に向けた、調査・分析及び検討を実施しているか。

市場リスク管理部門の役割・責任として、自ら所管するプロセスの検証・見直しを通じた市場リスク管理の高度化に向けた自主的な取組みについて示しています。
本チェック項目に関しては、「リスク管理の高度化とは、リスク計測の範囲拡大、精緻化、高度化等だけでなく、限界・弱点を補う定性的な方策、計測結果の活用方法等についての高度化も含むことに留意する」という脚注が付されており、チェック項目自体の書き振りと合わせると、金融機関が市場リスク計測・分析方法の「限界・弱点」をいかに補っているかという底上げの姿勢が特に着目されています。

2.市場リスクの特定に関する見直し

【金融検査マニュアルのチェック項目】

市場リスク管理部門は、業務の規模・特性及びリスク・プロファイルの変化や外部環境(経済、市場等)の変化等によって、市場リスク管理の管理対象外とするリスクの影響度が大きなものになっていないか、定期的に又は必要に応じて随時、確認しているか。
また、その影響度が大きいと判断された場合、適切に対応しているか。

金融機関の行うビジネスや業務の変化、外部環境の変化によってリスクの態様も変わってきますので、市場リスク管理部門において一度実施された市場リスクの特定が現時点でも妥当なものか、見直しを行い、必要に応じて変更手続きをとることが求められます。

3.市場リスクの評価方法の見直し

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 市場リスク管理部門は、市場リスクの計測・分析の範囲、頻度、手法等が、戦略目標、業務の規模・特性及びリスク・プロファイルに見合ったものかを、定期的に又は必要に応じて随時、検証しているか。見直しの必要がある場合には、内部規程等に基づき、適切な手続を経た上で修正を行っているか。
  2. 市場リスク管理部門は、プライシング・モデル、市場リスク計測・分析手法、前提条件等の妥当性について、定期的に又は必要に応じて随時、理論的及び実証的に検証し、見直しているか。また、市場リスク管理部門は、市場リスク計測結果と実際の損益動向とを比較することによって、市場リスク計測方法の有効性を検証し、見直しているか。
  1. 市場リスクの評価に関わる定性的な項目について、自社に即したものとなっているかどうかという観点から見直しを行うことが重要になります。
  2. では、市場リスクを定量的に把握するプライシング・モデルや市場リスク計測・分析手法について、理論的及び実証的に検証して見直すことを求めています。

4.限度枠の設定方法及び設定枠の見直し

【金融検査マニュアルのチェック項目】

市場リスク管理部門は、限度枠の設定方法及び設定枠が、戦略目標業務の規模・特性及びリスク・プロファイルに見合ったものかどうかを、定期的に又は必要に応じて随時、検証しているか。見直しの必要性が認められる場合には、速やかに、取締役会等が適切に評価及び判断できる情報を報告しているか。

特に限度枠の超過が頻繁に発生する状況、あるいは、著しく低い利用状況にある場合には、設定された限度枠の見直しを行う必要性が高いものと考えられます。
また、市場部門の業務分掌と限度枠が設定された範囲に齟齬がないか、限度枠を遵守すべき責任の所在があいまいになっていないか、見直しを実施した上で、必要に応じて取締役会等へ報告します。

5.戦略目標等の見直し

【金融検査マニュアルのチェック項目】

市場リスク管理部門は、市場リスク計測結果と実際の損益動向とを比較することによって、リスク・リターン戦略等の妥当性について検証しているか。市場リスク管理部門は取締役会等が戦略目標等を見直すに当たり必要となる情報を報告しているか。

市場部門の戦略目標については、どの程度のリスクを取り、どの程度の収益を目標とするのかについて、経営陣が留意しなければならないことは、「方針の策定」のチェック項目として挙げられていましたが、ここでは、市場リスク管理部門の役割として、市場リスク計測結果・実際の損益動向を踏まえて、このリスク・リターン戦略のパフォーマンスを検証し、経営陣に必要とされる情報提供を行うことが示されています。

本チェック項目に関しては、平成19年2月の金融検査マニュアル改定に際してのパブリック・コメントにおいて、次のやり取りがなされています。

「市場リスク管理部門は、市場リスク計測結果と実際の損益動向とを比較することによって、リスク・リターン戦略等の妥当性について検証し、市場営業部門の戦略目標等の見直しに活用しているか。」とあるが、当該検証や活用は、市場リスク管理部門だけでなく、経営管理部門等の部署による実施でも要件を満たすとの認識でよいか。

→市場部門から独立し牽制機能が働く部門において、リスク管理の視点でリスク・リターン戦略等の妥当性を検証する必要があると考えます。
 仮に、市場リスク管理部門が市場リスク計測・分析を行っていない場合も、市場リスク管理部門はその計測・分析結果を評価する必要があると考えます。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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