市場リスクの定義

市場リスクの定義

金融機関は、短期金融市場、債権市場、外国為替市場、株式市場等、様々な市場における相場変動の影響を受けています。
そのような金融機関にとっての市場リスクについて、金融庁検査マニュアルの「市場リスク管理態勢の確認検査用チェックリスト」では、次のように定義されています。

市場リスクとは、金利、為替、株式等の様々な市場のリスク・ファクターの変動によ
り、資産・負債(オフ・バランスを含む。)の価値が変動し損失を被るリスク、資産・
負債から生み出される収益が変動し損失を被るリスクをいう。

この定義では、金融機関の「価値」と「収益」という2つの側面から市場リスクを捉えていることに注意してください。

  • 現在価値の支店
    資産・負債及びオフ・バランス取引から生じる将来のネット・キャッシュフロー(の期待値)の現在価値に与える影響に着目するアプローチ。
  • 収益の視点
    市場のリスク・ファクターの変動が期間損益ないしは、会計上の収益に与える影響に注目する。
    金融機関にとって伝統的な評価のアプローチ。

そのうえで、主な市場リスクとして、次の3つのリスクを挙げています。

  1. 金利リスク
  2. 為替リスク
  3. 価格変動リスク

 

金融庁のバーゼルⅡ第1の柱に関する告示(自己資本比率告示))では、内部モデル方式による場合のマーケット・リスク・ファクター(マーケット・リスク相当額の算出の対象となる取引の価格に影響を及ぼす金利その他の原因の区分)、あるいは、標準的方式によりマーケット・リスク相当額を算出する際のリスク・カテゴリー(マーケット・リスクを発生させる原因の区分)として、①金利、②株式、③外国為替、④コモディティが挙げられています(銀行法14条の2の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準(金融庁告示19
号)274条3項5号.280条)。

 

金利リスク

金融検査マニュアルによれば、金利リスクは、次のとおり定義されています。

金利変動に伴い損失を被るリスクで、資産と負債との金利又は期間のミスマッチが存在している中で金利が変動することにより、利益が低下ないし損失を被るリスク

顧客から預金等を受け入れ貸出等で運用して収益を得ることを本業とする銀行にとって、金利リスクが不可避のリスクであることを示しています。
また、債券は、価格を基準に取引されますが、そのリスクの主因が金利リスクであることから、価格変動リスクではなく、金利リスク・カテゴリーとして区分されることが一般的です。

金融機関は、様々な形で金利リスクに直面していますが、その主な態様・要因として次の4つのリスクを挙げることができます。

  • 金利改定リスク
  • イールドカーブ・リスク
  • ベーシス・リスク
  • オプション性のリスク

1.金利改定リスク

「金利改定リスク」とは、金融機関の資産、負債、オフ・バランス・シート商品の満期や金利改定期(変動金利の場合)のタイミングのズレから発生する金利リスクです。

金利改定リスクは、「(期間)収益」「経済価値」という2つの側面から金融機関を予期せざる変動に晒す可能性があります。
例えば、長期で固定金利の貸出のための資金を短期の預金で調達した金融機関は、短期の市場金利が上昇した場合には、このポジションから発生する将来の収益とその根源的な価値の両方の低下に直面する可能性があります。

【例】

銀行が金額1億円、期間6か月、金利0.5%の定期預金を受け入れ、これと同額を期間1年で固定金利2%の貸出で運用した。
6か月後に市場金利に連動して6か月物の定期金利が0.5%上昇し、1.0%になった。

  • 当初の6か月間
    運用側 1億円×2.0%×1/2(6か月)=1,000千円の運用収入
    調達側 1億円×0.5%×1/2(6か月)=   250千円の調達費用
              ネット金利収入= 750千円
  • 6か月後から1年後までの期間
    運用側 1億円×2.0%×1/2(6か月)=1,000千円の運用収入
    調達側 1億円×1.0%×1/2(6か月)= 500千円の調達費用
              ネット金利収入= 500千円
  • 当初の見込みと比較すると、金利上昇によって250千円の収益減少となり、金利改定リスクが発現したケースとなる。

2.イールドカーブ・リスク 

イールドカーブとは、市場金利を短期のものから長期金利まで結んだ利回り曲線のことです。
金利が変化する場合、必ずしも長短の金利が同一幅で変動する訳ではありません。
例えば、短期金利に比較して長期金利の上昇幅が大きい場合にはイールドカーブの形状は急になり(スティープニング)ます。
反対に短期金利の方が長期金利よりも上昇幅が大きい場合には、形状が緩やかになります(フラットニング)。

「イールドカーブ・リスク」とは、このようなイールドカーブ形状の変化が銀行の収益ないし経済価値に不利な影響を与える場合に発生します。

              ※記入内部監査士養成コース5分冊より引用

例えば、10年物国債のロング・ポジションを3年もの国債のショート・ポジションでヘッジしている場合、このポジションは、イールドカーブ全体が同一幅で変動する(例えば、3年物、10年物ともに国債利回りが0.5%上がった)場合には引き続きヘッジされていますが、短期金利より長期金利の上昇幅が大きくなり、イールドカーブの傾きが急になった(例えば、3年物国債利回りが0.5%、10年物国債利回りが1.0上昇した)場合には、そのポジションの経済価値が低下することになります。

3.ベーシス・リスク

「ベーシス・リスク」とは、似たような金利改定に関する特徴を有するいくつかの金融商品の間で、支払利息と受取利息の金利調整の相関が不完全な場合に発生します。ベーシス・リスクは、スプレッド・リスクともいいます。

金利が変化した場合、この不完全さのために似たような満期ないしは金利改定周期の資産、負債、オフ・バランス商品の間のキャッシュフロー及び収益スプレッドに予期せざる変化が発生する可能性があります。
例えば、金利改定期が期間3か月物と同一であっても、短期プライム・レートを金利指標とする変動金利貸出に対して、TIBORレートに基づく変動金利預金で金利調達した場合には、短期プライム・レートとTIBORレートの間のベーシス・リスクにさらされることになります。

4.オプション性のリスク

金利リスクの発生源としてオプション性のリスクがあります。
この金利に関わるオプション取引には、明示的には単独の取引や他の金利商品と組み合わせられているもの、コールやプットのオプションが特約条項として付されている場合などがあります。
さらに、近年、理論的な研究が進展した分野として、借入人に期限前返済の権利を与える貸出や、ペナルティー(違約金)を払うことなく随時引き出し可能な満期のない預金商品等をオプションとして分析・把握するようになってきています。

 

為替リスク

金融検査マニュアルによれば、為替リスクは、次のように定義されています。

外貨建資産・負債についてネット・ ベースで資産超又は負債超ポジションが造成されていた場合に、為替の価格が当初予定されていた価格と相違することによって損失が発生するリスク

為替リスクは、金融機関が外貨建ての取引を行い、正味(ネット)で外貨超や円貨超のポジションを構築した場合や、円資金を元手に外貨建ての資産運用を行う場合などに発生します。

【例1】外貨のロング・ポジション

  • 1米ドル=120円で1百万米ドルを購入し(その対価は、120百万円)、米ドルのロング・ポジションを保有している場合
  • 1米ドル=110円に当該通貨の相場が下落することにより、円高・ドル安→評価額=110百万円:▲10百万円の損失

【例2】外貨のショート・ポジション

  • 1米ドル=120円として、1百万米ドル借入・売却し、米ドルのショート・ポジションを取っている場合
  • 当該通貨が上昇(円安・ドル高→評価額=130円)となることにより、1百万ドル=130百万円:▲10百万円の損失

 

価格変動リスク

金融検査マニュアルによれば、価格変動リスクは次のように定義されています。

有価証券等の価格の変動に伴って資産価格が減少するリスク

価格変動リスクは、市場等で取引されている金融商品を購入した場合にさらされるリスクであり、銀行等の金融期間における主要な価格変動リスクとして次のようなものが挙げられます。

1.株式リスク

株式リスクとは、株式の株価変動に伴い損失を被るリスクです。

わが国の金融機関では、かなり昔から取引関係の強化を図る目的で貸出先を中心とする取引先との間で株式の相互持ち合いを続けてきました。株式相場が右肩上がりの時代には、取得時の価格を簿価として、いわゆる持合株式の含み益が金融機関の健全性の裏付けとされてきました。
しかし、バブルの崩壊以降、不良債権処理を進める過程で、これらの含み益をほとんど吐き出してしまったこと、株式相場の低迷が続いたこと、また、金融商品時価会計の導入に伴い、持合株式は「その他有価証券」として時価評価の対象とされることになったこと等から、金融機関の自己資本を上回る水準の株式を保有することのリスクが高まっていました。
このため、「銀行等の株式等の保有の制限等に関する法律」が施行され、時価で評価した対象株式の保有総額(評価益が生じている場合には、これを控除する)について、自己資本比率規制上の自己資本のうち、基本的項目(Tier1)を上限とする株式保有制限が実施されています。

2.コモディティ価格変動リスク

コモディティとは、取引所を中心とした市場で取引される商品のことです。
代表的なコモディティとしては、金などの貴金属、原油等のエネルギー・原材料、大豆・コメなどの農産物があります。
コモディティ価格変動リスクとは、このようなコモディティを購入した後、コモディティ価格が下落するリスクのことです。投資家は、商品(コモディティ)を購入した時点で、コモディティ価格変動リスクの影響をうけることになり、コモディティ価格が下落することで損失を被ります。

なお、バーゼルⅡの枠組みの中では、金(ゴールド)は、コモディティではなく、「外国通貨」として取り扱われています。昔の金本位制の名残かもしれません。

3.オプション価格変動リスク

オプション価格の変動に伴い損失を被るリスクです。
投資家は、オプション取引を行った時点で、オプション価格変動リスクにさらされることになります。「オプション」とは「権利」を意味しており、オプション取引とは、この「権利」を売買することを言います。

オプションを買ったものは、「権利」を持つことになりますから、反対に「権利」を売ったものは、義務のみを負うことになります。この一見アンバランスな取引は、オプションを売った対価として「オプション料(プレミアム)」と呼ばれる権利の価値を取引当初に受払することで売買としてのバランスを取ることになります。

ちなみに、オプション取引や先物取引、スワップ取引、これらを組み合わせた金融取引は、基本的な金融商品から派生した取引という意味でデリバディブ(派生商品)と呼ばれています。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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