バーゼルⅡにおけるオペレーショナル・リスクの考え方

バーゼルⅡの概要

1.バーゼル合意の流れ

BIS自己資本比率規制を巡るバーゼルⅡ適用までの動きは、次のとおりです。

2004年6月にバーゼルⅡの内容が確定し、各国の金融当局によって自国内のルールの整備が進められ、既にわが国でも2006(平成18)年3月、自己資本比率告示(金融庁告示19号など)が出されています。

自己資本規制に関するバーゼル合意の流れ

1988年7月 バーゼルⅠの公表
1992年末   バーゼルⅠの適用開始
1999年6月 新しい合意に関する第一次市中協議案の公表
2001年1月 第二次市中協議案の公表
2003年4月 第三次市中協議案の公表
2004年6月 「自己資本の測定と基準に関する国際的統一化:改定された枠組」
      (バーゼルⅡ)の公表
2007年3月 バーゼルⅡ適用開始

2.バーゼルⅡの概要

バーゼルⅡの枠組みは、(ⅰ)最低所要自己資本比率規制、(ⅱ)金融機関の自己管理と監督上の検証、(ⅲ)市場規律の「3つの柱」から構成されており、ポイントとして次の点が挙げられます。

  • 国際基準の最低比率8%は変更しない。
  • 分母の計算でリスクをより正確に反映する。
    ー中小企業向け、個人向け貸出について、小口分散によるリスク軽減効果を考慮
     して、所要自己資本額を軽減する。
    ー不良債権は、引当率に応じ所要自己資本額を加減する。
    ーオペレーショナル・リスクについても自己資本を求める。
  • 所要自己資本額の水準は、旧(バーゼルⅠ)規制と概ね見合うように調整する。
  • 金融機関の内部管理手法を規制上も活用し、金融機関自身による自己資本戦略の策定や開示の充実を重視する。

【バーゼルⅡの3つの柱】

  • 第一の柱:最低所要自己資本比率規制
    ・自己資本比率の計算
  • 第二の柱:金融機関の自己管理と監督上の検証
    ・銀行自身が自己資本戦略を策定、その妥当性を当局が検証する
  • 第三の柱:市場規律
    ・海自の充実を通じて市場規律の実効性を高める

 

バーゼルⅡにおけるオペレーショナル・リスクの扱い

オペレーショナル・リスクについては、2001(平成13)年1月に発表された第2次市中協議案によってその計測手法案が示されました。この協議案では、オペレーショナル・リスクに対する所要自己資本の算出について、①基礎的指標手法、②標準的手法、③内部計測手法という3つの計測手法が提案され、どの計測手法を採用するかは銀行自身の判断に委ねられることとされました。

その後、2001(平成13)年9月に「オペレーショナル・リスクの規制上の取扱に関するワーキング・ペーパー」が公表され、オペレーショナル・リスクの定義が明確化されたほか、リスクの計測方法に関してもいくつかの項目について修正が加えられました。その主な項目は、次のようになっています。

1.先進的計測手法

所要自己資本比率算出の選択肢として従来3つの方法が提示されていましたが、本ワーキング・ペーパーでは、3番目の内部計測手法の範囲を拡大して金融機関独自のリスク計測手法も含め、呼び方も先進的計測手法(AMA:Advanced Measurement Approaches)に改められました。
この先進的計測手法には、①内部計測手法に加えて、②損失分布手法、③スコアカード手法も含まれることになりました。

2.各計測手法の「的確基準」

より高度な計測手法を採用するに従って、要求されるリスク管理のレベルも高くなりますが、3つのそれぞれの計測手法を用いる際に満たすべき「的確基準」について、後述するオペレーショナル・リスクのサウンド・プラクティスに示される「10の諸原則」をベースとしたドラフトが提示されました。

3.所要自己資本の絶対水準の削減等

世界的な主要金融機関に対する調査の結果を踏まえて、オペレーショナル・リスクに割り当てる所要自己資本の比率を約20%から12%に引き下げました。
また、基礎的指標手法・標準手法に用いられる掛目について、それらのレンジが示されています。
さらに、先進的計測手法を用いた場合には、標準的手法によって算出された所要自己資本の75%を下回らないというフロア・ルールが暫定的に設けられました。

4.保険によるリスク削減効果の扱いの明確化

本ペーパーでは、保険によるリスク削減効果は先進的計測手法の場合のみ所要自己資本比率の算出に含められる方向性が提示されました。

 

オペレーショナル・リスク顕在化のメカニズム

平成13年9月に公表された「オペレーショナル・リスクの規制上の取扱いに関するワーキング・ペーパー」において、規制上の所要自己資本の算出に含まれるべき「事象の種類」として7つの項目が提示され、オペレーショナル・リスクがどのようにして発生するか、その顕在化のメカニズムについて、次のとおり3段階でとらえるものとされました。

①事件・事故の発生要因
②事件・事故(事象)の発生
③損失の発生

すなわち、「何が原因で、どんな事象が起こり、どんな損失が発生したか」を特定することで整理し、発生した損失をバーゼルⅡによる規制上のオペレーショナル・リスクの範囲に含めるべきかどうかを判断する枠組みが整えられました。

以上を踏まえ、整理されたオペレーショナル・リスクが顕在化するメカニズムについて、その発生原因、事件・事故、損失の各段階の内容を説明します。

1.事件・事故の発生要因

オペレーショナル・リスクに関する事件・事故の発生要因は、理論的には内部プロセス要因、人的要因、システム要因、外生的要因に大別することができます。
しかしながら、現実の事件・事故は、これらの要因が複雑に絡み合って発生することが多いでしょう。

【オペレーショナル・リスクにおける事件・事故の発生要因】

項番 発生原因 具体例
内部プロセス要因 規程不備等
人的要因 職員不正等
システム要因 システムダウン等
外生的要因 災害・外部犯罪等

 

2.事件・事故(事象)

事件・事故は、客観的な事象としてとらえることができますので、オペレーショナル・リスクの分析、計量化を行う上での出発点となります。内外の過去の事件・事故やシナリオとして将来的に発生する可能性のある事件・事故を洗い出し、その発生原因やそこから発生し得る損失を見積もることになります。

【オペレーショナル・リスクにおける事件・事故の種類】

項番 事件事故の種類 定義 具体例
内部の不正行為 少なくとも内部関係者が関与する、詐欺、財産の横領・着服又は規制・法令・社内規則の回避を目的とした類の行為による損失(差別行為は含まない)

意図的なポジションの誤報告、職員による窃盗、職員の口座を使用したインサイダー取引など

外部の不正行為 第三者による、詐欺、財産の横領・着服又は脱法を目的とした類の行為による損失(差別行為は含まない) 窃盗、偽造、融通手形の発行、コンピューターのハッキングによる損害など
雇用慣行と職場の安全 雇用・健康・安全に関する法令・協定に違反した行為、個人傷害に関する支払い、又は差別行為から生じる損失 労働者の補償請求、従業員の健康及び安全性に関するルールの違反、組織的な労働運動、差別補償請求、一般的な賠償責任など
顧客、商品と取引実務 特定の顧客に対する悪意又は過失による職務上の義務違反(受託者要件、適合性要件など)又は商品の性質・設計から生じる損失 受託責任違反、顧客機密情報の悪用、銀行口座を利用した不適切な取引活動、マネー・ロンダリング、認可されていない商品の販売など
物的資産の損傷 災害その他の事象による有形資産の損失・損害から生じる損失 テロリズム、破壊行為、地震、火災、洪水など
事業活動の中断、システム障害 事業活動の中断及びシステム障害から生じる損失 ハード及びソフト障害、通信障害、電力供給の停止など
取引実行、デリバリー・プロセスの管理 取引相手やベンダとの関係に起因するトランザクション・プロセスシングの又はプロセス管理上の失敗からの損失 データ入力エラー、担保管理不全、不完全な法律文書、顧客口座への未承認のアクセス、顧客以外の取引相手の債務不履行、ベンダとの争議など

 

3.損失

損失には、直接損失と間接損失があります。

直接損失

例えば、現金紛失額、職員の不正取引に伴う被害額などで、損失額として客観的に特定しやすく比較的容易に計量化することができます。

間接損失

例えば、

①直接損失を処理するための人件費・物件費
②システムダウン等に伴う機会費用
③風評による損失
④他の金融機関の事務ミス等による支払不能が当該金融機関に及びシステミック・リスクによる損失

などが挙げられますが、損失額を客観的に把握することが極めて困難なものです。
バーゼル銀行監督委員会のペーパーは、損失の種類として次のものを挙げています。

【オペレーショナル・リスクにおける損失の種類】

番号 損失の種類 定義
資産価値低下 窃盗、詐欺、権限外の行為による資産の価値の直接的な低下、又はオペレーショナル・リスクに係る損失事象の結果として生じた市場及び信用上の損失
請求権逸失 第三者が銀行に対する義務を履行しなかった場合に発生する損失で、その原因がオペレーショナル・リスクに係るミスや事象に帰せられるもの
補償 銀行に法的責任があるオペレーショナル損失による第三者への支払い
法的支払責任 判決、調停、その他の法的費用
規制と法令等の違反(課税を含む) 罰金、又はその他罰則(免許取消等)による直接的な費用
資産の損失又は損傷 (例えば、不注意、事故、火事、地震といった)いくつかの種類の事件・事故に係る物的資産(証券類を含む)の価値の直接的な低下

 

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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