オペレーショナル・リスクの計測手法

バーゼルⅡでは、オペレーショナル・リスクの計算手法として、「基礎的指標手法」
、「標準的手法」、「先進的計測手法」の中から企業が選択するものとされています

オペレーショナル・リスクの定量化

バーゼルⅡでは、金融機関にとってのオペレーショナル・リスクの重要性が増してきたことに鑑み、合意された手法によってオペレーショナル・リスクを計測(定量化)した上で、第一の柱でもある所要自己資本比率の算定対象とすることとされました。
これは、これまでの信用リスクや市場リスクと同様、オペレーショナル・リスクに対しても、一定の構え(バッファー)として自己資本をあて、その比率を規制することによって金融機関の健全性を確保していくという考え方に基づくものです。

 

トップダウン・アプローチとボトムアップ・アプローチ

オペレーショナル・リスクを定量的に把握する方法は、「トップダウン・アプローチ」と「ボトムアップ・アプローチ」に大別することができます。

1.トップダウン・アプローチ

トップダウン・アプローチは、金融機関の業務(オペレーション)と関係する経営財務指標(例えば、損益額、資産残高、等)を代数変数として、その一定割合をオペレーショナル・リスク相当額とみなすものです。

長所:算出が簡易であり、客観性が高い

短所:リスク感応度が低くなる
   内部管理体制の水準や外部環境の状況等が的確に反映されない
   リスク削減のインセンティブが働かない

2.ボトムアップ・アプローチ

ボトムアップ・アプローチは、金融機関の個々の損失事象を観測し、さらに外部データやシナリオ分析も用いて構築される損失分布モデルによってオペレーショナル・リスク量を計測するものです。

長所:リスク感応度が高い
   自社の内部管理体制の水準や外部環境の状況等反映される
   リスク削減のインセンティブが働く
   業務プロセス毎のリスクの大小を把握することができる

短所:算出方法が複雑で高度な手法
   モデルの前提条件、入力データの妥当性による制約を受ける
   現時点では、業界標準といえる方法は存在しない

 

オペレーショナル・リスクの3つの計測手法

バーゼルⅡでは、オペレーショナル・リスクの次の3つの計測手法から金融機関がオペレーショナル・リスク計測手法を選択するものとしています。

  1. 基礎的指標手法(BIA)
  2. 標準的手法(TSA)
  3. 先進的計測手法(AMA)

※基礎的指標手法(BIA)は、基礎的手法ともいいます。
※標準的手法(TSA)と先進的計測手法(AMA)は、粗利益分配手法ともいい、金融庁長官の承認が必要となります。

1.基礎的指標手法(BIA:Basic Indicator Approach)

基礎的指標手法とは、銀行の全業務にオペレーショナル・リスクを単一の指標で計測するトップダウン・アプローチによるものであり、オペレーショナル・リスクの大きさ(リスク量)は、銀行の規模に比例するという考え方に基づいています。

具体的には、過去3年間の銀行全体の平均粗利益に対してバーゼル銀行監督委員会が設定した一定の掛け目(α=15%)を乗じて算出します。
粗利益がマイナスもしくは、ゼロの場合には、当該年の係数は、分母・分子ともに勘案しません。

金融庁告示では、「基礎的手法」という名称が用いられています。

【オペレーショナル・リスク相当額】

2.標準的手法(TSA:The Standardized Approach)

これは、銀行のビジネスライン(8つに区分)毎の粗利益にそれぞれ異なる掛け目(β=12%、15%、18%)を適用し、それらを合算することでオペレーショナル・リスク量を算出するトップダウン・アプローチによる手法です。

ただし、これらのビジネスラインのうち、リテール・バンキングとコマーシャル・バンキングについては、ビジネスラインの粗利益に代えて{平均資産額×m(=3.5%)}を選択することが金融監督当局によって認められているものとされています(ASA:代替標準的手法)。

標準的手法は、金融庁の自己資本告示では、「粗利益配分法」という名称が用いられています。

番号 ビジネスライン 掛け目(β)
1 コーポレート・ファイナンス 18%
2 トレーディングおよびセールス 18%
3 リテール・バンキング 12%
4 コマーシャル・バンキング 15%
5 決済業務 18%
6 エージェンシー・サービス(代理業務) 15%
7 アセット・マネジメント(資産運用) 12%
8 リテール・ブローカレッジ 12%

 

標準的手法では、ビジネスライン毎に規定されたβを掛け、全ラインを足し合わせた結果がマイナスとなる場合、当該年は分母・分子ともに勘案され、粗利益はゼロとして計算されます。

【オペレーショナル・リスク相当額】

3.先進的計測手法(AMA:Advance Measurement Approach)

先進的計測手法は、過去の損失実績等を基礎に、損失分布手法、スコアカード手法など、銀行自身が内部的に用いているリスク手法によって所要自己資本額を計算するものです。

先進的計測手法のうち損失分布手法は、ビジネスリスク・リスクタイプの組合せ毎に「単一事象における損失額」と「事象の頻度」からオペレーショナル・リスクに係る累積損失額の確立分布関数(VaR)を計算し単純合計するもので、非期待損失額を直接的に求める点で内部計測手法と異なっています。

また、スコアカード手法は、各部署のリスク管理の状況や外部環境などについて、様々な角度から多面的にその定性面を評価し、評点を金額換算することによってリスク量を推定するものです。代表的なものとして、バランスト・スコアカードの考え方を取り入れたものなどが挙げられます。

金融庁の自己資本比率公示では、先進的計測手法を用いて算出するオペレーショナル・リスク相当額は、原則として、銀行の内部管理において用いられるオペレーショナル・リスクの計測手法に基づき、片側99.9%の信頼区間で、期間を1年間として予想される最大のオペレーショナル・リスク損失の額に相当する額とするものと規定されています。

オペレーショナル・リスクの計測に先進的計測手法を利用するためには、分析やリスク管理の質などに関して監督当局が定めた基準をクリアすることがその条件とされます。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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