信用リスク管理のための組織の整備

組織整備の考え方

信用リスク管理のための組織を整備する上でも、利益相反が発生する業務を行う部門を分離すること「職責分離」を行って相互牽制機能を確保することが重要になります。

平成19年2月改定以降の金融検査マニュアルでは、各金融機関の固有の規模・特性およびリスク・プロファイルに応じた態勢を自ら構築すべきことが強調され、組織体制にに関する自社の選択の幅が広がっていますが、その結果、自社のとっている体制についての説明責任が一層重くなっていることに留意する必要があります。
例えば、信用リスク管理態勢の確認検査用チェックリストの注釈では、「信用リスク管理部門を独立した様態で設置しない場合、
(例えば、他のリスク管理部門と統合した一つのリスク管理部門を構成する場合のほか、他の業務と兼任する部署が信用リスク管理を担当する場合や、部門や部署ではなく責任者が信用リスク管理を担当する場合等)
には、当該金融機関の規模・特性およびリスク・プロファイルに応じ、その態勢のあり方が十分に合理的で、かつ、機能的な側面から見て部門を設置する場合と同様の機能を備えているかを検証する」とされています。

そのため、金融検査マニュアルに例示されている体制と自社の体制が異なるからといって、直ちに不可となるわけではありません。
ただし、自社の体制と金融検査マニュアルで例示されている態勢とのギャップについて、きちんと説明できなければならず、本来備えているべき機能が欠けている場合には、厳しく追及されることになることを認識しなければなりません。

内部監査の担当者の立場から考えた場合、信用リスク管理態勢に関して、金融検査マニュアルを読みこなし、的確な内部監査を実施していくためには、各部門に求められている役割・機能をしっかりと理解することが重要になります。

 

平成19年2月改定の金融検査マニュアルにおける組織体制

金融検査マニュアルの信用リスク管理体制の検査用チェックリストでは、次のようになります。

1.信用リスク管理態勢

部門名 定義・体制の要件、機能
融資部門等

(検査マニュアル上、定義されていない)
金融機関でどのような戦略目標を策定するかによって、「融資部門等」の範囲は異なります。
したがって、、「融資部門等」には、顧客と融資取引を行う部署のみならず、例えば、信用リスクの発生を伴う市場取引を行う部署等の信用リスクに関係する部署が幅広く含まれることも考えられます。
(パブリック・コメントより)

営業推進部門等 営業にかかわる部門・営業拠点のことをいいます。
例えば、営業を直接・間接に行う部門、これを推進・企画立案等をお行う部門をいいます。
管理すべき信用リスクの
存在する部門
例えば、営業推進部門等
信用リスク管理に関する部門

(以下、「信用リスク管理部門」という)

信用リスク管理に関する部門 審査部門 営業推進部門等から独立し、審査部門の担当取締役は営業推進部門等の取締役が兼務していないなど、営業推進部門等の影響を受けない体制とする。

  • 与信先の財務状況、資金使途、返済財源等を的確に把握するとともに、与信案件のリスク特性を踏まえて適切な審査及び管理を行う。
  • 営業推進部門等において、審査部門の指示が適切に実行されているか検証する。
与信管理部門
  • 与信先の業況推移等の状況等について、金融機関と連結対象子会社及び持分法適用会社とを、法令等に抵触しない範囲で、一体として管理する。
  • 貸出金のみならず信用リスクを有する資産及びオフ・バランス項目(市場取引に係る信用リスクを含む)について、統合的に管理する。
  • 直面する信用リスクを洗い出し、洗い出したリスクプロファイルを踏まえ、管理対象とするリスクを特定する。
  • 信用格付等を用いて信用リスクの評価・計測を行う。
  • クレジット・リミットの設定や与信集中リスクの管理等を通じて、信用リスクを適切にコントロールする。
  • 与信ポートフォリオの状況(特定の業種又は特定のグループに対する信用集中の状況等)を適切に把握・管理するとともに、ポートフォリオの状況を定期的に取締役会等に薪告する。
  • 新規商品等の取扱い、海外拠点・子会社での業務開始を行う場合には、信用リスクを特定する。
  • 信用格付の正確性や与信先の管理などの与信管理の適切性について検証するとともに、その検証結果を定期的におよび必要に応じて随時、取締役会等に報告する。
  • 信用リスク計測手法のバック・テスティング、ストレス・テスト。
問題債権の管理部門
  • 題債権として管理が必要な債権を早期に把握する。
  • 問題先の経営状況等を適切に把握・管理し、必要に応じて再建計画の策定の指導や整理・回収を行う。
    国際統一基準適用金融機関にあっては、問題債権を管理・回収する部門が専担の体制
統合的リスク管理部門 (信用リスク管理部門は)統合的リスク管理方針等に定める新規商品等に関し、統合的リスク管理部門の要請を受けた場合、事前に内在する信用リスクを特定し、統合的リスク管理部門に報告する。
内部監査部門 信用リスク管理に関し、以下の項目等を監査する。

  • 信用リスク管理態勢の整備状況
  • 信用リスク管理方針、信用リスク管理規程等の遵守状況
  • 業務の規模・特性及びリスク・プロファイルに見合った信用リスク管理プロセスの適切性
  • 信用リスク評価の限界・弱点を踏まえた運営の適切性
  • 信用リスク評価方法(手法、前提条件等を含む。)の妥当性
  • 信用リスク評価で利用されるデータの正確性及び完全性
  • ストレス・テストにおけるシナリオ等の妥当‘性
  • 内部監査及び前回検査における指摘事項に関する改善状況

 

平成19年2月改定以降の金融検査マニュアルでは、ミドルオフィスとしての「与信管理部門」に多くの機能が集約されており、「与信監査部門」の不明確さも解消されています。

一方で、「信用リスク管理部門」は、審査部門、与信管理部門、問題債権の管理部門を総称するものとして幅広にとらえられている点には、留意が必要です。
また、上記の表のとおり、「営業推進部門等」等について、改めて「営業に関わる部門・部署・営業拠点をいい、例えば、営業を直接・間接に行う部門、これを推進・企画立案等を行う部門をいう」と定義されましたので、融資に関わる企画部署や支援部署と信用リスク管理部門の機能的な切り分けについて、少なからず、自社において、業務分掌の見直しを必要とする可能性があるものと懸念されます。

2.資産査定管理態勢

自己査定

  部門   定義・体制の要件、機能  
 【パターン1】 【パターン2】 
  営業関連部門   営業関連部門とは、営業店および本部営業部門ならびに本部貸出承認部門のことをいう。  

 営業店及び本部営業部門
・第一次の査定を実施

本部貸出承認部門
・第二次の査定を実施

ー 
    自己査定管理部門等  営業関連部門から独立した自己査定の検証部門 営業関連部門から独立した自己査定の実施部門
・営業関連部門から独立した部門が自己査定を実施 
  金融機関の規模・特性に応じて設置された、自己査定を適切に実施するための機能を担う部門のことをいう。
(資産査定管理部門内の自己査定管理部門を含む)
資産査定管理部門     資産査定管理部門とは、自己査定を管理する部門(自己査定管理部門)及び償却・引当を管理する部門(償却・引当管理部門)のことをいう。
・自己査定基準及び償却・引当基準を策定(取締役会の承認が必要)
資産査定管理部門   自己査定管理部門  自己査定を管理する部門  
 償却・引当管理部門   償却・引当を管理する部門
内部監査部門    自己査定体制の整備等の状況等の内部監査

本部貸出承認部門は、審査部門と同一部署であるケースが多いと思われます。
信用リスク管理態勢では、審査部門は、「信用リスク管理部門」の一翼を担っていますが、この自己査定においては、「営業関連部門」としての役割を果たしている場合もありますので、留意が必要です。

償却・引当

部門 定義・態勢の要件、機能
【パターン1】 【パターン2】
営業関連部門 営業関連部門とは、営業店および本部営業部門ならびに本部貸出承認部門のことをいいます。
・個別貸倒引当金の算定
決算関連部門 ・一般貸倒引当金の算定
償却・引当管理部門等 営業関連部門および決算関連部門から独立した
償却・引当の検証部門
(算定された個別貸倒引当金および一般貸倒引当金の)
・適切性検証を行う。
営業関連部門および決算関連部門から独立した
償却・引当の算定部門
・営業関連部門および決算関連部門から独立した
部門が個別貸倒引当金および一般貸倒引当金の算定を行う
金融機関の規模・特性に応じて設置された、償却・引当を適切に実施するための機能を担う部門のことをいいます。
(資産査定管理部門内の償却・引当部門を含む)
資産査定管理部門 資産査定管理部門とは、自己査定を管理する部門(自己査定管理部門)および償却・引当を管理する部門(償却・引当管理部門)のことをいいます。
・自己査定基準および償却・引当基準を策定(取締役会の承認要)
資産査定管理部門
-自己査定管理部門
自己査定を管理する部門
資産査定管理部門
-償却・引当管理部門
償却・引当を管理する部門
内部監査部門 ・償却・引当態勢の整備等の状況等の内部監査

金融検査マニュアは、「部門」について、「機能」としてとらえるものとされています。
例えば、上記の表のように「償却・引当の検証部門」と「償却・引当の査定部門」を「償却・引当管理部門等」で担うものとしており、その位置づけは、必ずしも明瞭ではありません。

 

自己資本比率規制(バーゼルⅡ)告示における信用リスク管理部署

金融庁の自己資本比率告示においては、内部格付け手法を採用する場合、厳格な内部統制の実施が義務づけられており、独立した「信用リスク管理部署」の設置が必要とされています。(金融庁告示19号202条)

(信用リスク管理部署)
第202条

内部格付手法採用行は、内部格付制度の設計又は選択、実施及び実績について責任を負い、独立して信用リスクを管理する部署(以下「信用リスク管理部署」という。)を設けなければならない。
2 信用リスク管理部署は、与信部門及び与信業務の担当者から機能的に独立したものでなければならない。

(以下略)

 

(参考)信用リスク管理部署に関する金融庁の「バーゼルⅡに関するQ&A」からの抜粋

第202条-Ql信用リスク管理部署の独立性は、どの程度求められますか。
(A)
内部格付手法においては、金融機関の内部格付制度や推計パラメータに基づき早期是正措置の前提となる自己資本比率を算出することが認められる一方、その正確性・客観性を堅固な内部統制により担保させる観点から、第202条第2項において、「与信部門及び与信業務の担当者から機能的に独立した」信用リスク管理部署の設置が求められています。
これは、信用リスク管理部署が、内部格付制度の設計、格付制度の検証及び運用の監視、これらの報告書作成や格付手続の管理等を所管し、格付制度の適切な運営や、格付の正確性・一貫性の確保に責任を負う内部牽制部門であり、その牽制機能はバーゼルⅡで定める内部格付手法の採用及び継続利用の観点からは不可欠な機能であると考えているためです。
信用リスク管理部署が担うとされる内部格付制度の設計や監視・検証業務について考えると、悪意’性の入る隙のない客観的・機械的なプロセスに基づき明確な結論を導き出すといった作業は想定され難いため、上記のような内部牽制機能が十分に発揮されるための組織的及び機能的な分離が強く期待される状況であると考えています。
例えば、顧客と相対して案件を組成する機能、融資推進機能、又は個別与信先への営業方針に係る決定機能が信用リスク管理部署の中に並存している場合に、個別案件に対する内部格付付与に対する監視や、融資推進において重要視されているセクターの内部格付制度の設計・検証において、十分な内部牽制機能を確保することは難しいものと考えられます。
また、信用リスク管理部署が、担当役員も含めて与信部門と切り離された組織でない場合にも、上記と同様の理由から、十分な内部牽制機能の確保は難しいものと考えられます。
この他、信用リスク管理部署の主要な業績評価項目の一つとして「信用リスク計測の正確性」等の信用リスク管理に係る項目が含まれているか否かについては、内部格付制度の設計・検証等の信用リスク管理実務の発展が求められる位置付けにあって、信用リスク管理部署が真に内部牽制機能を発揮する上では不可欠な要素であると考えています。
もっとも、与信部門に該当する部署は各金融機関により部署名や組織体制が異なるものと想定され、また告示においても「機能的」な独立性を重視していることに鑑み一律の判断を行うことは適当ではないとも考えられるため、与信部門及び与信業務の特定に際しては上記のような状況を総合的に踏まえて、各金融機関内部で組織及び機能の整理について検討を行うことが必要であると考えています。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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