コンプライアンスの方針と手続

コンプライアンスに関わる方針と手続

コンプライアンスに関わる方針と手続の中核的要素には、次の3点があります。

  • 法令遵守に関わる基本方針及び遵守基準(コンプライアンス・ポリシー)
    コンプライアンスに関わる経営陣の考え方や取組み姿勢を示すもの
  • 実践計画(コンプライアンス・プログラム)
    コンプライアンスに関わる具体的な実施計画を示したもの
  • 手引書(コンプライアンス・マニュアル)
    法令等の解説・法令等の違反の対処方法を示したもの

 

コンプライアンスの基本方針

1.コンプライアンスの基本方針の意義

コンプライアンスの基本方針とは、コンプライアンスに関する経営の基本方針及び遵守基準をいいます。
経営理念の実現に向かってコンプライアンスをいかに重視しているかという経営陣の基本姿勢が反映された内容である必要があります。

企業によっては、コンプライアンス・マニュアルの中にコンプライアンスの基本方針の内容を含むケースが見られます。
重要なことは、形式的な文書の体裁ではなく、コンプライアンスの基本方針として記載されるべき「コンプライアンスの考え方とコンプライアンスの取組み姿勢」が明確になっているかどうかということです。

2.コンプライアンスの基本方針の内容

コンプライアンスの基本方針に最低限盛り込むべきものとしては、次のような事項が考えられます。

【コンプライアンスの基本方針】

  • コンプライアンスの意義・目的
  • コンプライアンスの取組み姿勢
    コンプライアンスは、経営陣が率先して行うものであり、コンプライアンスを経営上最重要課題の1つとして取り組むといった経営陣の意思表明
  • 行動規範
    役職員にとっての倫理的な価値判断の基準、拠り所
  • 責任
    コンプライアンス遂行にあたり、取締役やコンプライアンス統括部をはじめとした各部署の責任・役割など、コンプライアンスに関わる組織の大枠
  • コンプライアンス・マニュアル、コンプライアンス・プログラムとの関係
  • 策定と定期的な見直し
    策定と改定には、取締役会の承認が必要であること

行動規範(指針)

コンプライアンス基本方針の重要な要素の一つに「行動規範(指針)」があります。
行動規範は、役職員が業務を遂行するにあたって、どのような判断を行うべきか、倫理的な価値判断の基準(当社の人間は、このように判断すべきだ、など)、拠り所となるものです。

行動規範を考えるに当っては、どの立場の倫理に重点を置くかが問題となりますが、個人・職業・組織にとっての理論という3つの要素のすべてが企業倫理を構成するという考え方も参考になります。

  • 組織を構成する経営者・社員の人間としての「個人倫理」
  • 仕事を有する人に関わる専門職倫理を含む「職業倫理」
  • 企業使命・経営理念などに基づく企業活動に関わる「組織倫理」

行動規範を策定するメリット

行動規範を策定するメリットとして、次の5項目が考えられます。
※「ビジネス・エシックス」(リチャード・D・ジョージ著より)

  1. 作成するという経験自体に価値がある
  2. 作成する過程を通じて企業内の多くのメンバーが、新しい視点で企業や社会に対するグループまたは個人としての自分たちの使命や重要な責務について考えることになる
  3. 一度採用されれば、継続的な議論を換気するために使用でき、それによって修正することも可能
  4. 企業責任についての見方、自分の行動を道徳的観点から考えることの必要性、地位に相応しい美徳を習得することの重要性等を全役職員に教示することに役立つ
  5. 従業員が違反するような行為を求められたとき、参照する資料として使用することができる

 

コンプライアンス・マニュアル

1.コンプライアンス・マニュアルの意義

コンプライアンス・マニュアルは、各検査マニュアルにおいて次のように定義されています。

「コンプライアンス実現のための具体的な手引書、すなわち、遵守すべき法令の解説、法令違反を発見した場合の対処方法等などを具体的に示したもの」

2.コンプライアンス・マニュアル策定の留意点

コンプライアンス・マニュアルの策定に関しては、次の点に注意します。

【コンプライアンス・マニュアル策定の留意点】

  • 遵守・実践すべき行動規範、法令等の特定
  • 具体的な内容と手続
  • 役職員への周知徹底を前提としたわかりやすさ
  • リーガル・チェック等の実施
  • 見通しと経営陣のコミットメント

遵守・実践すべき行動規範、法令等の特定

自社の業務の規模・特性に即した遵守・実践すべき行動規範、法令等の特定を行う必要があります。

単に法令等の解説に終止することなく、自社の業務実態を踏まえて、どのような行為が組織にとって重大なコンプライアンス・リスクになるのかを識別・評価してコンプライアンス・マニュアルに反映させて行く必要があります。

こうした過程を経て策定されたコンプライアンス・マニュアルは、優先度の高い重要な項目を取りまとめたものとなります。

具体的な内容と手続

コンプライアンス・マニュアルに記載される判断基準、報告手続などは、実効性を確保するために具体的に記述される必要があります。
例えば、どのような行為がコンプライアンス違反にあたるか、コンプライアンス違反行為を発見した場合、どのような方法で、組織の誰に報告するべきか、違反に対してどのように対処すべきかなど、マニュアルを見れば対処方法が明快に理解できるように適切かつ具体的に記述する必要があります。

役職員への周知徹底

コンプライアンス・マニュアルは、役職員に理解され、実践されなければ意味がありません。
問題は、それをどう工夫するかです。内容を正確に理解させるためには、役職員にとって読みやすく、わかりやすいものにすることが重要です。
マニュアルの内容は、専門的すぎてもいけませんし、分量が多すぎてもいけません。行動規範や法令等に精通していない職員が、コンプライアンス・マニュアルの内容を理解すれば、倫理的に望ましい行動を判断できるようになるよう作成することが必要です。
また、職員への配付、社内イントラネットへの掲載、各部署での読み合わせ、理解度テストなどを通じて、内容の浸透・定着を図っていくことが重要です。

リーガル・チェック等の実施

コンプライアンス・マニュアルは、行動規範や重要な法令の内容、不正や不適切な事例などを解説するものなので記述の正確性が担保されなければなりません。そのためにリーガル・チェックなどの審査が必要となります。

リーガル・チェックとは、法的観点からの審査を指しますが、この場合のリーガル・チェックとは、法令への適合性にとどまることなく、内容の妥当性・適切性、必要事項の網羅性、掲載事例の適切性など、コンプライアンスの本質にさかのぼったチェックを指します。
リーガル・チェック等は、社内の法務部門などによって実施することが考えられますが、より客観的な検証のため外部の弁護士等により行われる場合も想定されます。

承認と見直し

コンプライアンス・マニュアルは、コンプライアンス態勢の構成する重要文書であるため、その制定・改定は取締役会等で承認を受けるべきと考えます。

組織内外のコンプライアンス環境の変化を適時的確に反映させるため、毎年、もしくは随時見直しを行う必要があります。
策定や見直しは、コンプライアンス統括部門を中心に行われますが、全社に関連する内容であることを考慮すると、他の関係部署との連携も欠かせません。
また、各部門や営業店等の実態や改善点を踏まえた見直しを行わなければなりません。

3.コンプライアンス・マニュアルの内容

コンプライアンス・マニュアルに記載する内容は、遵守すべき主要な法令等以外では、次のような項目を盛り込みます。

【コンプライアンス・マニュアル】

  • コンプライアンス・マニュアルの目的
    ■コンプライアンス・マニュアルが、「遵守すべき行動規範、法令等の解説、違反を発見した場合の対処方法等コンプライアンス実現のための具体的な手引書」であることを示す。
    ■全ての役職員に周知されなければならないものであることを明記
  • コンプライアンス推進に関する責任の明確化
    ■コンプライアンス統括部及びコンプライアンス・オフィサーの役割と責任を明確化
    ■コンプライアンス担当者がいる場合には、その役割と責任、また、各部署におけるコンプライアンス遂行の役割・責任
  • コンプライアンスの推進体制
    ■取締役会等のコンプライアンスに関わる役割と責任
    ■コンプライアンスに関わる組織・体制の役割と責任
    ■コンプライアンスに関わる具体的な報告体制・手順
  • 不祥事等の問題発生時の報告・連絡等の体制
  • コンプライアンス・マニュアルの策定ならびに見直し
    ■コンプライアンス・マニュアルは、最低年1回みなおしされ、また、法令等が改正された場合等、適宜見直しされることを明記
    ■策定ならびに見直しの場合は、取締役会等での承認
  • 遵守すべき法令等の解説
  • コンプライアンスに関する社内規定との関係
    ■法令以外の内部規則等遵守すべき項目の解説ならびにコンプライアンス・ポリシーやコンプライアンス・プログラム等との関係の明確化

 

コンプライアンス・プログラム

1.コンプライアンス・プログラムの意義

コンプライアンス・プログラムとは、コンプライアンスを実現させるための具体的な実践計画のことです。
コンプライアンス関係組織の整備、コンプライアンス研修の実施計画、社内規程の整備計画など、一連のコンプライアンス態勢整備のための実行計画書です。

2.コンプライアンス・プログラムの内容例

【コンプライアンス・プログラムの内容】

  • プログラムの目的
  • 実施期間
    ■最低1年に1回の見直し実施
    ■環境の変化等必要に応じて随時見直しを行う
  • 担当部門の明記
    ■コンプライアンス・プログラムの策定及び実施状況のフォローアップを所管する担当者の役割と責任の明確化
  • コンプライアンス・プログラムの内容
    (各事項毎に責任者及び目標時期を明確化)
  • 実施計画・研修計画
  • 規程・マニュアル等の整備計画
  • フォローアップの方法
    ■経営陣(取締役)、意思決定機関(取締役会)ならびに内部監査部門への報告頻度を明確化
  • 制定及び改廃
    ■制定及び改廃は、意思決定機関(取締役会)において行う

3.実行的なコンプライアンス・プログラムの運用

コンプライアンス・プログラムの運用において最も重要な点は、このプログラムの内容が各部で確実に実践されることです。
実践されるためのポイントは、次のとおりです。

計画遂行の体制・責任の明確化

計画の遂行に関し、社内各部とコンプライアンス統括部門の責任分担を明確にしておきます。
実際にコンプライアンスを現場で推進する者(コンプライアンス担当者等)と、それらをコーディネートするコンプライアンス統括部門の役割分担が重要です。

研修計画と推進・啓蒙活動の計画

役職員にコンプライアンス意識を浸透させる研修を行うこと、または、同様の効果が期待できる推進・啓蒙活動を確実に実施させる計画が必要です。

  • 実施計画の策定
    ■研修等の年間計画
    ■報告・相談に対する改善計画
    ■経営陣による見直しを受けて実施されるその他の改善計画
  • 法令及び関連するルールの整備計画
    ■コンプライアンス・マニュアルでまとめた遵守すべき法令等とは別に業務に関わるその他ルールを整備
    ■関連部署がいつでもアクセス可能なこと
  • 内部規程の整備計画
    ■コンプライアンスを機能させるための社内手続・規程等の整備に関する計画

モニタリング

プログラムを効果的に機能させるためには、コンプライアンス統括部門並びに内部監査部門によるコンプライアンス・プログラムのモニタリングの仕組みが必要です。
また、進捗状況・達成状況だけでなく、実施された施策の内容、妥当性などを厳しく評価しなければなりません。
社内各部、営業店等に対し、形だけの対応で終わらせないためです。

報告

コンプライアンス・プログラムの進捗状況・達成状況を取締役会(経営陣)に報告する必要があります。
経営陣は、単に報告を受けるだけでなく、報告内容を踏まえてコンプライアンス態勢の改善活動を指導していかなければなりません。
プログラムが計画どおりに遂行されない場合、責任部署に対して厳しくその理由を問い、実施を促す必要がありますが、場合によってはプログラム自体に欠陥があることも考えられます。こうした場合には、プログラムそのものの見直しを行うことも必要です。

業績評価・人事考課への反映

一般的には、業績評価や人事考課では、業績をあげた者の評価が高くなるのは当然です。
しかし、業績達成の手段・方法にコンプライアンスの観点から問題がある場合、成果だけを評価することは不適切です。そのため、コンプライアンス意識の高さやコンプライアンスの実践状況を業績評価・人事考課に反映することによって、業績だけでなくコンプライアンスが重要であるとの基本認識が全社員に共有され、コンプライアンス・マインドをより高めることができます。

【コンプライアンス・プログラムの枠組み】

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

コンサルティングのご依頼などサービスの詳細は、次のバナーをクリックしてください。  

コメントを残す