内部規程・組織体制の整備

コンプライアンス態勢を確立するためには、経営陣が主体的に取り組む必要があります。

コンプライアンス・マニュアル、コンプライアンス・プログラムは、取締役会の承認を受けておく必要があります。

内部規程の整備・周知

取締役会等は、法令等遵守方針に則り、法令遵守に関する事項を一元的に管理する部門(コンプライアンス統括部門など)に「法令等遵守規程」を策定させ、所定の手続を経て承認し、組織内に周知することが求められています。

なお、「取締役会等」とは、次の組織が想定されます。

  • 「取締役会等」には、取締役会のほか、常務会、経営会議等の、経営陣レベルによって構成される経営に関する事項を決定する組織(以下、「常務会等」といいます。)も含みます。
  • 「取締役会等」の役割とされている項目についても、取締役会自身において決定することが望ましい。
  • 常務会等に委任している場合には、
    ①取締役会による明確な委任があること
    ②常務会等の議事録の整備等により事後的検証を可能としていること
    ③取締役会への結果報告や常務会等に監査役の参加を認める等の適切な措置により、十分な内部牽制が確保されるような態勢となっているかを確認する必要があります。

 

コンプライアンス統括部門の態勢整備

コンプライアンス統括部門の設置

会社全体の法令等遵守の徹底を図るためには、会社の様々な部署に散在する法令等遵守に関する情報(例えば、顧客からの苦情、営業職員の勤務状況、不祥事件に関する調査報告、保険契約継続の状況、経費支出状況等の法令等遵守に関する問題を適時かつ的確に認識するために必要となる情報(以下、「コンプライアンス関連情報」という。)を一元的に収集、管理、分析、検討して、その結果に基づき適時に適切な措置・方策を講じることが必要不可欠です。

そのため、取締役会等は、法令等遵守方針及び法令等遵守規程に則り、コンプライアンス統括部門を設置し、所掌事項を明確にして権限を付与し、適切な役割・機能を発揮させる態勢を整備することが必要です。
適切な役割・機能を発揮するためには、他の部門から独立した組織として設置することが基本となります。

管理者の配置

取締役会は、コンプライアンス統括部門に、当該部門を統括するために必要な知識と経験を有する管理者を配置し、当該管理者に対し管理業務の遂行に必要な権限を与えて管理させる必要があります。

取締役会が任命する管理者は、一般には取締役でない執行役員、従業員などを意味します。場合によっては、使用人兼務の担当取締役が任命されることも考えられます。任命は、通常代表取締役等からの提案に基づき取締役会が承認する形式となることが考えられます。
なお、取締役会には、任命した管理者の適格性や業務遂行状況の監督責任、説明責任があります。

コンプライアンス統括部門への経営資源の投入

取締役会等は、コンプライアンス統括部門に対して適切な経営資源を投入する役割、責任があります。
単に経営資源を投入するのではなく、コンプライアンス機能を十分に果たすことができるだけの資源(人、予算、権限など)を適切な規模で配分されなければなりません。
また、コンプライアンスと業務の両面に精通する専門的人材の教育や育成を前提にしたものであり育成・配置のための一定のプロセス構築も必要になることでしょう。
なお、経営資源が十分に投入されているかは、事後的には、コンプライアンス態勢の機能によって説明されることになります。

営業推進部門等に対する牽制機能

取締役会等は、コンプライアンス統括部門が営業推進部門等に対して牽制機能が発揮される態勢を整備する必要があります。

牽制機能を発揮する方法としては、例えば、「独立性の確保」があります。まず、営業推進部など他部門からの独立性確保が重要です。
ただし、部門の独立性だけでなく、他の方法による牽制機能確保も考えられます。その場合には、取締役会等が牽制機能の発揮に問題ないことの説明責任を果たす必要があります。

 

各業務部門および営業拠点等における法令等遵守態勢の整備

経営陣やコンプライアンス統括部門がいかにコンプライアンスに熱心であっても、各業務部門や営業拠点等の現場にコンプライアンスが徹底されていなければ意味がありません。
取締役会等の経営陣には、各業務部門や営業現場にコンプライアンスを徹底するための態勢を整備する責任があります。

遵守すべき法令等の周知と遵守させる態勢整備

遵守すべき法令等は、業務細則等に規程して周知する方法があります。
業務細則とは、一般的に規程の下位にある細則・要領・要綱、マニュアル、手順書・手続書などと言います。
取締役会等から授権された者又は部署が制定・改廃を行う内部規程の下位規程とすることもあります。
また、内部規程については、経営方針等に則り、業務に関する取り決め等を記載した会社内部に適用される規程のことを言います。業務に関する取り決め等を記載することまでは、必ずしも要しないことが多いです。

法令等遵守において遵守しなければならない対象には、「内部規程、業務細則等」の社内ルールが含まれています。

取締役会等の経営陣には、各業務部門や営業拠点等におけるコンプライアンス実効性確保の責任があります。
コンプライアンスの実効性確保が、現場任せ、あるいはコンプライアンス統括部門任せであってはなりません。
法令や内部規程等の特定や研修等の施策を具体的に指示するように求められています。

コンプライアンス担当者の配置

法令等遵守態勢の実効性を確保するために各業務部門や営業拠点等の現場に「コンプライアンス担当者」を配置することが求められています。
また、法令等遵守について、高水準の管理が必要と判断した業務部門や営業拠点等(海外拠点など)には、当該部門・拠点の業務ラインから独立した「コンプライアンス・オフィサー」を配置することが望まれます。

コンプライアンス担当者とは

一般的には、各業務部門に所属して当該部門の業務を担いつつ、コンプライアンス統括部門と連携してコンプライアンスの推進やモニタリングを行う者です。
原則として各部門に所属しますが、場合によってはコンプライアンス統括部門に所属し、ここから配置されることも考えられます。

例えば、管理者やコンプライアンス統括部門と連携し、各業務部門の情報を収集し、伝達するなど、モニタリングのための役割を負うものです。

コンプライアンス・オフィサーとは

コンプライアンス統括部門が直接管理困難な部署等において、当該部署との独立性を確保しつつ(指揮命令を受けず)、コンプライアンスの観点から業務への牽制機能を果たすものを言います。

例えば、海外拠点等のようにコンプライアンス統括部門による日常のモニタリングが困難な事情のある場合に、当該拠点の法令等遵守を確保する役割を負うものです。

現場における法令等遵守態勢を整備する際の注意点

必要に応じて業務隔壁(ファイアーウォール)および情報の遮断措置を取ることが挙げられます。
具体的には、インサイダー取引や利益相反を管理する措置が挙げられます。

 

コンプライアンス・マニュアルの整備・周知

取締役会は、「コンプライアンス・マニュアル」を承認して組織全体に周知させることが求められています。
ここで「コンプライアンス・マニュアル」とは、「法令等遵守方針及び法令等遵守規程に沿って、役職員が遵守すべき法令等の解説、違法行為を発見した場合の対処方法等を具体的に示した手引書」と定義します。
したがって、マニュアルという名前が付けられていますが、コンプライアンス・マニュアルを通常の業務細則(業務マニュアル)と同列に扱うべきではありません。

コンプライアンス・マニュアルの位置づけとして、金融検査マニュアル改定時のパブリック・コメント回答では、次のように位置づけられています。

コンブライアンス・マニュアルは、中でも役職員が遵守すべき法令等の解説や違法行為を発見した場合の対処方法等を示したものであり、その性質、重要性と経営に与える影響の大きさにかんがみ、管理者が策定し、取締役会が承認するということを前提

また、コンプライアンス・マニュアルの承認を「取締役会等」とせず、「取締役会」の役割としている点に注意が必要です。
この点は、金融検査マニュアル改定時のパブリック・コメント回答でも、「コンブライアンス・マニュアルの性質及び重要性にかんがみて、取締役会の役割としております。なお、旧マニュアルにおいてもコンブ ライアンス・マニュアルの策定及び重要な見直しは、取締役会が承認するもの」としています。

また、「重要な見直し」の考え方については、金融検査マニュアルFAQにおいて、次のように示されています。

  • 「重要な見直し」に該当するか否かについては、役職員の行動に実質的な影響を与えるものであるかがポイントになります。
    例えば、金融機関の業務に関係する法令改正に伴うコンプライアンス・マニュアルの見直しであったとしても、法令改正の内容がいわゆる条ずれの範囲に留まるようなものであれば、当該法令改正に伴うコンプライアンス・マニュアルの見直しは「重要」なものとは考えられない。
  • 他方、法令改正により、役職員が取るべき行動自体が変化するようなもの、具体的には、新たな義務が課されるものや禁止行為が新設される等の場合には、当然コンプライアンス・マニュアルもその内容が見直され、周知が図らなければ、金融機関の業務の適切性が確保できない可能性があると考えられ、こういった場合には「重要な見直し」と言えます。

 

コンプライアンス・プログラムの整備・周知

「コンプライアンス・プログラム」とは、法令等遵守方針および法令等遵守規程に沿って、コンプライアンスを実現させるための具体的な実践計画(内部規程の整備、職員等の研修計画等)と定義した上で、「最長でも年度毎」に策定すべきものです。
取締役会がコンプライアンス・プログラムを承認し、組織全体に周知させる責務を負います。そのため、代表取締役に委ねてはならない、取締役会に固有の権限・責任と解されます。

コンプライアンス・プログラムの進捗状況や達成状況は、代表取締役および取締役会が把握・評価すべき事項です。そのために必要な情報は、経営陣に報告される態勢、情報に基づいて的確に判断する経営陣の資質が要求されます。
さらに、コンプライアンス・プログラムの実施状況を業績評価や人事考課等にリンクさせるなど、業績・人事考課の評価体系に組み込むことが肝要です。その際には、業務部門や営業拠点等、あるいは役職員の間で反映の反映のさせ方に偏りがないようにしなければなりません。

なお、コンプライアンス・プログラムについて、金融検査マニュアル改定時のパブリック・コメントの回答において実効性確保を極めて重視されています。

  • コンプライアンス・プログラムは、金融機関の役職員の行為が法令等に沿ったものとなるための基本となる具体的な実践計画であり、その性質、重要性および経営に与える影響の大きさにかんがみ、取締役会の承認が必要であることを前提としている。
  • 業績評価や人事考課等は、そもそも、職責に応じて行われるものであり、コンプライアンス・プログラム実施状況も職責に応じて反映することについては、当然と考えます。
    なお、コンプライアンス・プログラムは、コンプライアンス担当者等に限らず全役職員に適用されるものであり、その実施に関する業績評価や人事考課等においては、全職員に衡平に反映すべきです。
    例えば、営業担当社であっても営業成績のみを偏重することがないか等、その実施に関する状況を従業員官で衡平に反映しているか検証する。

 

取締役会等への報告・承認態勢の整備

取締役会等は、コンプライアンス統括部門の管理者から取締役会等に対して報告すべき事項、取締役会等の承認を要する事項を設定することが求められています。
なお、定期的な報告・承認に加えて、「経営に重大な影響を与える事案」、「顧客の利益が著しく阻害される事案」を迅速に取締役会等に報告する態勢を整備しなければいけません。

どのような事象がこれらの事項に該当するかは、各会社の判断に委ねられていますが、内部で報告基準を定めて、重大事案の報告がなされないという事態を防ぐとともに、報告を行う管理者が鋭敏なリスク感覚を発揮し、適切な判断報告を行うことがその実効性を高めることになります。

 

監査役への報告体制の整備

監査役が本来の監査機能を発揮することは、経営管理(ガバナンス)態勢の一部として極めて重要です。
監査役への直接報告という仕組み・プロセスがあり得ることを示すとともに、その場合、適切な報告事項の設定、管理者からの直接報告の態勢・手続が求められています。
なお、検査マニュアルが法律の規定を超えるものではありません。例えば、監査役が自ら報告を求めることを妨げるものではなく、監査役の権限及び活動を何ら制限するものではないです。

 

内部監査実施要領および内部監査計画の策定

取締役会等は、内部監査部門又は内部監査部門長に、法令遵守について、監査すべき事項を適切に特定させ、内部監査の実施対象となる項目及び実施手順を定めた要領ならびに内部監査計画を策定させた上で承認する必要があります。
法令遵守(コンプライアンス)態勢も内部統制の一部として、当然に内部監査の対象になります。
なお、コンプライアンス統括部門が監査対象となりますので、同部門と内部監査部門は、原理上、組織的に分離される必要があることに注意しなければいけません。

法令等遵守に関する内部監査をどのように実施すべきかについては、検査マニュアルではまとまった記述はされていません。
しかし、法令等遵守態勢の確認検査用チェックリストを中心に検査マニュアルのチェック項目は、検査官の検査の着眼点であることにとどまらず、法令等遵守態勢の検証のための必要かつ重要な監査要点を相当含んでおり、これらのチェック項目を上手く活用して内部監査を実施することが必要です。

 

内部規定・組織体制の整備プロセスの見直し

取締役会等は、法令等遵守態勢の自律的な改善を目指すPDCAサイクルを回していく一環として、自らの責務である内部規定・組織体制の整備プロセスについて、絶えず見直しを実施することが求めらます。

プロセスの実態を把握した上で、「判断すること」、「プロセスの改善を図ること」がポイントになります。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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