米国における信用リスク管理

1980年代の米国の金融危機

金融機関が抱えている信用リスク管理の問題は、日本だけに限ったことではありません。
米国の金融界では、1980年代、ラテンアメリカ向け融資の不良債権化による大手銀行の危機、1984年のコンチネンタル・イリノイ銀行の破綻、さらに、企業買収(LBO)、不動産向け等特定分野への与信集中、ALMの失敗・不正融資を原因とする小規模の銀行や貯蓄貸付組合(S&L : Savings and Loan Association)の破綻が多発し(連邦預金保険制度加盟銀行のうち、1980年から1994年にかけて約1,600の銀行、1,300のS&Lが破綻)、連邦預金保険公社(FDIC)ならびに整理信託公社(RTC : Resolution Trust Corporation)が中心となって、これらの破綻金融機関の処理を行いました。

米国の銀行や米国銀行監督当局が金融危機から得た教訓に基づく対応は、概ね次のような事項に集約できます。

  • 信用リスクに対して、フレームワークとしてコントロールすること(以下のプロセスを含む)
  • 与信ポートフォリオ管理の徹底により、与信集中(ローン・コンセントレーション)を回避すること
  • 与信格付(ローン・グレーディング・システム)により、資産の内容を的確に把握すること
  • ローン・マイグレーション分析の導入等により、信用格付と償却・引当の関係づけを強化すること
  • クレジット・レビューにより、自己査定・信用格付の妥当性や貸出全体の内容を独立した立場からチェックすること

 

米国銀行監督当局の検査手法の変化

1.AIMからROCAへ

米国金融当局のスタンスによって強化された変化には、例えば、1995年にFRB(連邦準備制度理事会)によって導入された(米国にとっての)外国銀行の在米支店等に対する銀行検査の「AIM」方式から「ROCA」方式への変更です。
AIMとは、
Asset quality(貸出資産の質、不良債権)
Internal Control
Management(経営)
を意味し、中でも不良債権などのAsset qualityの資産査定に着目したものでした。この点においては、実は、日本も米国も金融監督当局の事情は同じであったと言えます。
しかしながら、AIM方式の検査手法では、後追い的となり、有効に機能しないことが明らかになったことから、1990年代後半以降は、ROCAの順へと評価の重点を変更しました。

ROCAとは、
Risk management(リスクマネジメント)
Operation(オペレーション:業務遂行)
Compliance(コンプライアンス:法令遵守)
Asset quality(アセットクオリティ)
を意味します。

今までの不良債権額の査定中心であったものから、リスク管理全般、これを支える業務状況、役職員のコンプライアンスを踏まえた上、資産の状況をチェックすることとしたのです。

【ROCAにおけるランキング】

ランク リスク
マネジメント
オペレーション コンプライアンス アセット
クオリティ
1 完全に近い 十分 際立っている 完璧
2 問題なし 満足できる 十分 満足できる
3 やや問題 不足気味 やや問題 まあまあ
4 重大な問題がある 重大な問題がある かなりの注意が必要 いくつかの重大な
欠陥がある
5 致命的である 問題外である 不満足 不満足

 

2.CAMELS

また、OCC(Comptroller of the Currency Administrator of National Banks)では、銀行検査の結果を1979年以来、統一金融機関格付制度(the Uniform Financial Institutions Rating System:UFIRS)に基づいて、「CAMEL」という5項目によって評価してきましたが、貸付ポートフォリオ重視からリスク管理重視へという検査方針の変更によって、1997年1月より新たな項目としてS(Sensitivity to market risk)が追加されています。

【CAMELSの構成項目】

C:Capital adequacy(自己資本の充実度)
A:Asset quality(資産内容)
M:Management(経営管理)
E:Earnings(収益力)
L:Liquidity(流動性)
S:Sensitivity to market risk(市場リスクに対する感応度)

信用リスク管理に関して、プロセスを重視する考え方は、日本より早い段階で金融危機を迎えた米国に端を発するものですが、その後の欧米の金融機関や規制当局でもスタンダードな考え方として定着しています。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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