リスク管理の目的

リスク管理の必要性

企業が業務を遂行していくためには、これを阻害する様々な要因、不確実性(リスク)を認識し、対処していくことは避けて通ることができません。企業がその機能を発揮するためには、こうしたリスクを一概に全て最小化すれば良いというわけでなく、適切なコントロールのもとで能動的に必要なリスク・テイクを行っていく必要があります。
このようなリスクへの対処をどうするかということは、まさしく経営判断の範疇に属する事項になります。経営陣が業務執行の意思決定を行う際には、それに伴う様々なリスクを勘定して判断しなければいけません。そのためには、自社が直面するリスクに対してどの程度コントロールすることができるのか、経営陣が認識しておく必要があります。これが、リスク管理です。

なので、リスク管理は、経営陣の経営判断のツールと位置づけられなければなりません。
リスク管理は、経営陣の合理的な意思決定をサポートするためのものです。その結果として、合理的な意思決定が迅速にできるようになると、組織の競争力の維持や向上に繋がります。
「当局や法令で求められるからリスク管理態勢を整える」という発想は、本末転倒です。リスク管理の重要性は、経営の必要性から自ずと出てくるはずです。

 

全社的なリスク管理態勢の構築

企業において、個々の業務に伴うリスクの管理は、従来からも行われてきました。業務取扱規則などの社内規程等には、そのようなリスク管理の手続が概ね含まれているものです。
しかしながら、自社の全体のリスク管理はどうでしょうか。わが国の金融機関では、かつての大蔵省のいわゆる護送船団方式の行政の下で、この金融機関全体のリスク管理という点は、ほとんど意識されてこなかったと言えるでしょう。BIS規制の適用や金融検査マニュアルの登場によって、はじめてわが国の金融機関においてリスク管理の必要性が認識されるようになってきたというのが実態だと思います。

そこで、このリスク管理態勢をどのように構築していくかが問題となります。
リスク管理態勢を構築していくには、経営の観点からリスクを認識し、優先順位(プライオリティ)をつけてその程度を計測する「トップダウン・アプローチ」と実務の観点からリスクを認識していく「ボトムアップ・アプローチ」があります。

有効なリスク管理態勢を構築するためには、この2つのアプローチを両者とも必要としています。経営に用いられないリスク管理は意味がなく、実務的にワークしないのでは組織にリスク管理を定着させることができません。
すなわち、経営方針や収益にかかわる経営陣の踏まえた上で、日々のリスク管理業務が円滑に執り行われるのかという実務面に十分に留意しながら、具体的な態勢構築を行っていくべきなのです。

 

 トップダウン・アプローチの重要性

リスク管理の目的は、あくまでも経営陣が意思決定を行う際の判断材料として活用することにあります。全てのリスク管理は、「経営陣がこれを使ってどうするのか」という発想から設計されなければなりません。

わが国の金融機関における過去のリスク管理の導入過程を振り返ってみると、BIS規制の導入、特に1990年広範に市場リスクについて、バリュー・アット・リスク(VaR:統計的手法を使用して市場リスクの予想最大損失額を算出する指標)を中心とした高度化された手法によるリスク計測が認められたことから、もっぱら「リスク計測をどのように行うか」を焦点をあてた議論が中心に行われてきました。
しかしながら、この間の反省をこめて言えば、高度な統計や金融工学を駆使して、最新のリスク計測モデルの解説が試みられているものの、そこにまったく経営の視点が抜け落ちている、又は感じられない場合が非常に多かったのです。
経営の視点が感じられない、経営に活用されないリスク管理の議論には何の意味がないと言わざるをえないです。
リスク管理は、裏を返せば収益管理のツールであり、経営手法そのものだからです。
例えば、VaRに関しては、少なからぬ金融機関が数億円から数十億円のコストをかけてリスク計測システムを導入しました。ところが、その同じ金融機関がALM(Asset Liability Management)のリスク管理には、簡便な表計算ソフトの活用で間に合わせていたり、さらに、持ち合い株式については、売却の可能性がないという理由でリスク管理の枠組みに含めていなかったりしたケースが見受けられました。
リスク管理本来の考え方からすると、こうした状況は適切なものとは言えません。なぜならば、一般的に金融機関がかかえる市場リスクの中で、VaRで計測されるトレーディング勘定のリスクは、せいぜい5%程度、ALMのリスクが約30%、残りの大半が持合株式のリスクを占めていたからです。つまり、経営陣の立場からすると、リスクの大きさと管理のプライオリティ(優先順位)のバランスが不均衡なものと評価せざるを得なかったからです。

収益の源泉は、各企業によって異なっています。自社の業務展開の特徴を考えずに他社のリスク管理プロセスを単純に模倣することや、完璧なリスク管理態勢を追求することはあまり意味がありません。経営方針によっても直面するリスクは異なりますし、それに応じてその組織にとって最善のリスク管理態勢も異なるのです。そうした視点がリスク管理態勢の構築時に欠けていると、結果として経営陣によるリスク管理上の意思決定が鈍ることになります。

リスク管理の軽量化における注意点

リスク管理の軽量化において注意すべきこととして、リスク計測システムで計量化された答えは1つしかなく「常に正しい」という考え方にとらわれがちになることが挙げられます。
しかし、リスク管理の現場では、「確からしい答えはいくつかあり得る」というのが実態なのです。したがって、1つの答えを過信することなく、現在採用しているリスク管理手法が現在の環境において、整合的か否かについて、常に見直し(レビュー)を行う必要があります。
また、最先端の高度なリスク管理手法に基づくリスク管理システムを導入したので自社のリスク管理態勢は万全だということにはなりません。忘れてならないのは、その最先端のリスク管理手法を使いこなせるだけの組織なっているか、ということです。

 

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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