市場リスク管理態勢の整備・確立における管理者の役割・責任

市場リスク管理部門の管理者は、市場リスク管理規程の整備、組織体制の整備を図る役割・責任があり、定期的に又は必要に応じて随時見直しを実施します。

市場リスク管理規程の整備・周知

【金融検査マニュアルのチェック項目】

管理者は、市場リスクの所在、市場リスクの種類・特性及び市場リスク管理手法を十分に理解し、市場リスク管理方針に沿って、市場リスクの特定、評価及びモニ夕リングの方法を決定し、これに基づいた市場リスクのコントロール及び削減の取決めを明確に定めた市場リスク管理規程を策定しているか。市場リスク管理規程は、取締役会等の承認を受けた上で、組織内に周知されているか。

市場リスク管理部門の管理者の役割・責任の項目として、第1番目に「市場リスク管理規程の策定」があります。
また、その前提として管理者は、市場リスクの所在、種類・特性、並びに市場リスク管理手法を十分に理解していなければなりません。

市場リスク管理部門の管理者により策定された市場リスク管理規程は、取締役会の承認を要するものとされています。
取締役会等の経営陣の役割として、市場リスク管理規程を管理者に策定させたうえで、これを承認していることを検証するチェック項目が別途設けられており、当該チェック項目は、本チェック項目と表裏一体の関係になります。

作成された市場リスク管理規程は、市場リスク管理に関係する部署の役職員に周知する必要があります。

市場リスク管理規程の内容

【金融検査マニュアルのチェック項目】

市場リスク管理規程の内容は、業務の規模・特性及びリスク・プロファイルに応じ、市場リスクの管理に必要な取決めを網羅し、適切に規定されているか。
例えば、以下の項目について明確に記載される等、適切なものとなっているか。

  • 市場リスク管理部門、市場部門及び事務管理部門の役割・責任並びに組織に関する取決め
  • 市場リスク管理の管理対象とすべきリスクの特定に関する取決め
  • 市場リスク計測・分析方法(手法、前提条件等)に関する取決め
  • 市場リスクのモニタリング方法に関する取決め
  • 市場リスク限度枠の設定に関する取決め
  • 市場リスク計測・分析方法(手法、前提条件等)に関する定期的な検証に関する取決め
  • 時価算定に関する取決め
  • 特定取引(トレーディング)に関する取決め
  • 取締役会等に報告する態勢に関する取決め

市場リスク管理規程の内容とすべき項目として、組織体制やリスク管理プロセス(リスクの特定、評価・分析、モニタリング、コントロール、等)に関わる取決めを列挙しています。

これらの項目を信用リスク管理規程の項目と比較すると、市場リスク管理規程の特徴として以下の点が挙げられます。

  • 市場リスク管理部門以外の市場取引に関わる部門、すなわち市場部門(フロント・オフィス)及び事務管理部門(バック・オフィス)も本規定の対象とされる。
  • リスク評価について、「リスク評価方法」ではなく、「リスク計測・分析商法(手法、前提条件等)として、定量的な評価・分析及び損失の程度を判断する手法を重視し、さらに定期的な検証を要求する。
  • 限度枠の設定に関する取決めを明示する。
  • 時価算定、特定取引(トレーディング)に関する取決めがある。

【市場リスク管理規程の主な内容】

  • 市場リスク管理部門、市場部門及び事務管理部門の役割・責任並びに組織に関する取決め
  • 市場リスク管理の管理対象とすべきリスクの特定に関する取決め
  • 市場リスク計測・分析方法(手法、前提条件等)に関する取決め
  • 市場リスクのモニタリング方法に関する取決め
  • 市場リスクの限度枠の設定に関する取決め
  • 市場リスク計測・分析方法(手法、前提条件等)に関する定期的な検証に関する取決め
  • 時価算定に関する取決め
  • 特定取引(トレーディング)に関する取決め
  • 取締役会等に報告する体制に関する取決め

【信用リスク管理規程の主な内容】

  • 信用リスク管理部門の役割・責任(問題債権として管理が必要な債権の範囲及び問題先に対する取り組み方針を含む)及び組織に関する取決め
  • 信用リスク管理の管理対象とするリスクの特定に関する取決め
  • 信用リスク評価方法に関する取決め
  • 信用リスクのモニタリング方法に関する取決め
  • 取締役会等に報告する体制に関する取決め

これらの項目は、あくまでも例示であるため、金融機関の業務の規模・特性及びリスク・プロファイルに応じて金融機関自ら定めるべきものとされています。自社に必要とされる内容について、どの程度詳細に規定するかも含め、改めて検討する必要があります。

例えば、項目の1つとして「特定取引(トレーディング)に関する取決め」が挙げられていますが、特定取引勘定を設けていない金融機関にあっては、必要のない項目ということになります。
この点に関しては、金融検査マニュアル改定の際のパブリック・コメントに対する回答では、次のやり取りがなされています。

市場リスク管理規程の内容の例示のうち「時価算定に関する取決め」と「特定取引(トレーディング)に関する取決め」を削除していただきたい。
→本チェック項目に例示されているものを字義通り全て包含している市場リスク管理規程を策定することを求めているものではありません。
なお、時価算定に関する取決めは、財務上使用している時価算定とリスク管理上使用している時価算定が同一の場合には、必ずしも市場リスク管理規程に含める必要はないと考えます。特定取引(トレーディング勘定)に関する取決めは、トレーディング勘定を設けている場合には、リスク管理の観点からの取決めが必要になると考えます。

「金融検査マニュアルに関するよくあるご質問(FAQ)」によれば、本チェック項目に関係するものとして次の記述がなされています。

Q:「リスク評価手法」と「リスク計測手法」とはどのような違いがあるのでしょうか。

A:1.「リスク評価手法」とは、リスクの性質・傾向性、特性、大きさについて質的又は量的に分析
     し、損失の程度を判断する手法を指しています。
  2.一方、「リスク計測手法」とは、リスク評価手法の中でもリスクを量的に分析し、損失の程度
           を判断する手法を指しています。

また、「モニタリング」は、「監視することのみならず、警告その他の具体的な抑止行動を行うことも含む」ものとされています。

 

管理者による組織体制の整備

【金融検査マニュアルのチェック項目】

  1. 管理者は、市場リスク管理方針及び市場リスク管理規程に基づき、適切な市場リスク管理を行うため、市場リスク管理部門の態勢を整備し、牽制機能を発揮させるための施策を実施しているか。
  2. 管理者は、統合的リスク管理に影響を与える態勢上の弱点、問題点等を把握した場合、統合的リスク管理部門へ速やかに報告する態勢を整備しているか。
  3. 管理者は、統合的リスク管理方針等に定める新規商品等に関し、統合的リスク管理部門の要請を受けた場合、事前に内在する市場リスクを特定し、統合的リスク管理部門に報告する態勢を整備しているか。
  4. 管理者は、市場リスク計測・分析方法(手法、前提条件等)の限界及び弱点を理解し、業務の規模・特性及びリスク・プロファイルに見合った市場リスク計測の範囲拡大、精綴化等の市場リスク管理の高度化に向けた態勢を整備しているか。
  5. 管理者は、市場リスク管理部門が市場部門から必要な取引情報等の内部データ及び市場データを直接、適切に入手できる態勢を整備しているか。
    また、市場リスク管理部門が各拠点のミドル・オフィス等に対し直接、指揮・監督を行うことができる態勢を整備しているか。
  6. 管理者は、業務の規模・特性及びリスク・プロファイルに見合った当該金融機関の重要な市場リスクを全て把握できる信頼度の高い、市場リスク管理システムを整備しているか。
  7. 管理者は、市場リスク管理を実効的に行う能力を向上させるための研修・教育態勢を整備し、専門性を持った人材の育成を行っているか。
  8. 管理者は、定期的に又は必要に応じて随時、取締役会等が設定した報告事項を報告する態勢を整備しているか。特に、経営に重大な影響を与える事案については、取締役会等に対し速やかに報告する態勢を整備しているか。

市場リスク管理部門の管理者が、自ら行うべき市場リスク管理に関わる組織体制の整備について、8つの事項が示されています。これらの中では、特にⅳ、ⅴが市場リスク管理態勢に特徴的な事項となります。

ⅰ市場リスク管理部門の管理者は、市場リスク管理部門の態勢整備、施策の実施を行う責務を負っています。

ⅱ、ⅲでは、市場リスク管理部門と統合的リスク管理部門の連携、報告態勢について示されています。

ⅲについては、「経営管理(ガバナンス)態勢ー基本的要素ーの確認検査用チェックリストⅠ.3.④を参照。」という脚注が付されています。

経営管理(ガバナンス)態勢Ⅰ.3.④(抜粋)

④【新規商品等審査に関する取扱い】

(ⅲ)取締役会等は、新規商品等審査について、新商品委員会等に新規商品等の妥自当性や適法
   性についての情報を集約し、十分な検討を行わせる態勢を整備しているか。
   例えば、以下の点について適切に態勢整備されているか。

  • 統合的リスク管理部門及び各リスク管理部門に、新規商品等に内在するリスクを特定させ新商品委員会等に適時に報告させる態勢

加えて、統合的リスク管理態勢の確認検査用チェックリストⅡ.2.(1)①では、「(ⅲ)統合的リスク管理部門は、統合的リスク管理方針及び統合的リスク管理規程に定める新規商品等に関し、各リスク管理部門を通じ、事前に内在するリスクを特定し、新商品委員会等に適時に報告しているか」として、本チェック項目を受けた記述となっています。

ⅳ市場リスクの計測・分析については、後ほど「2.市場リスク管理部門の役割・責任」にチェック項目が置かれていますが、市場リスク管理部門の管理者は、現状の市場リスク計測・分析方法の限界や弱点を理解した上で、精緻化・高度化へ向けて取り組んでいく必要があります。
この点は、市場リスク計測システムの更改を含めた中長期的な課題として位置づけられます。

ⅴでは、市場部門(フロント・オフィス)に対する牽制機能を確保する一環として、市場部門からの取引情報等の内部データ及び市場(価格・取引高、等)データを「直接・適切に」入手できる態勢とすることが求められています。

また、平成19年2月における金融検査マニュアル改定の際のパブリック・コメントに対する回答の中で、次のように説明されています。

「市場リスク管理部門が各拠点のミドル・オフィス等に対し直接、指揮・監督を行うことができる態勢を整備しているか」とあるが、地域金融機関においては、「市場リスク管理部門」と「各拠点のミドル・オフィス」は同じという理解でよいか。また、「直接、指揮・監督を行う」とはどのようなことを想定しているのか。
→本チェックリストにおいて、各海外拠点の市場リスクにかかるミドル・オフィスを想定しています。各拠点のミドル・オフィスに対し、市場リスク管理部門が直接、リスク管理方法、データの内容・取得方法等を指図できることを想定しています。

ⅵで示された「市場リスク管理システム」の範囲は、市場リスク管理に関するシステム全般を指すものとして広くとらえる必要があります。チェックリストの脚注では、「システムには、中央集中型の汎用機システムや分散系システムのほか、EUC(エンド・ユーザ・コンピューティング)によるものも含まれることに留意する。」とあります。
複数の管理システムを利用している場合には、各システムの守備範囲、受け渡しされるデータの整合性など、システム間の相互関係について注意することが必要です。

ⅶ専門性のある人材の育成及びⅷ取締役会等への方向態勢の整備は、各リスク管理部門の管理者に共通した項目です。

 

市場リスク管理規程及び組織体制の見直し

【金融検査マニュアルのチェック項目】

管理者は、継続的に市場リスク管理部門の職務の執行状況に関するモニタリングを実施しているか。また、定期的に又は必要に応じて随時、市場リスク管理態勢の実効性を検証し、必要に応じて市場リスク管理規程及び組織体制の見直しを行い、又は取締役会等に対し改善のための提言を行っているか。

検査マニュアルでは、金融機関が自律的にリスク管理態勢を改善する仕組みが整備されているかどうかが重視されています。

管理者は、具体的に何をどのように行えば、「実効性を検証」したことになるのか、よく理解しておかなければなりません。ここでは、リスク管理態勢の実効性を改善させる手段として、①既定の見直し、②組織体制の見直し、③取締役会等への提言が挙げられており、規程に問題点・弱点・不明瞭な点はないか、組織体制に関してはどうかというチェックを行う必要があります。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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