シナリオ分析(長期的に潜在するリスクの評価手法)

経済のファンタメンタルズを調査し、連鎖的な事象が金融機関に与える最悪のケースをより広範囲にカバーすることにより、長期的に潜在するリスクを評価する手法であるシナリオ分析を解説します。

短期間における市場価格の変化に対する金融機関のトレーディング勘定のリスクを見るためには、VaRとストレス・テストが大変有益で、経営者、リスク管理部門、フロント・オフィスに対して重要な情報を提供します。
しかしながら、これらの手法は、金融機関を取り巻くマクロ経済の変化のような長期的かつ最悪のケースをカバーするものではありません。
シナリオ分析は、このような長期的かつ最悪のケースをカバーすることによってVaRやストレス・テストを補完する手段になります。

 

シナリオ分析の定義

シナリオ分析とは、様々な事象が自社の損益に与える影響を評価することを目的とした戦略的手法です。多次元にわたる予測を行うことによって、自社の構造的な弱みを評価する助けとなります。

シナリオ分析の目的は、稀にしか発生しないものの壊滅的影響を与える事象が生じた場合の影響について、経営陣があらかじめ知ることにあります。危機的な状況を経験した経営陣は、過去から現在の延長戦上に未来があるのではなく、過去の傾向に基づく仮定が崩れる場合があることを体験して、将来同じような損失が起きないように常に注意するようになるでしょう。シナリオ分析はそうした経営陣による判断の一助になる判断の一助となるものです。

シナリオ分析とストレス・テストを比較すると、両者ともに起こりにくい状況の結果として生じる損失を数量化する予測手法でですが、ストレス・テストでは市場変数の一定の動きがポートフォリオに与える短期的なインパクトを評価するに対し、シナリオ分析は、より複雑かつ連鎖的な事象が企業に与える、より広範な影響を評します。複数の悪いシナリオが連鎖的に起きて大きな損失になることがありますが、シナリオ分析はそうした潜在的な問題を事前に見出しそうとするものです。

【シナリオ分析とストレス・テストの比較】

ストレス・テスト シナリオ分析
ボトムアップアプローチ トップダウンアプローチ
一次元的 多次元的
1つないしいくつかの市場変数が一定方向に動いたときのポートフォリオに対する損益の影響 世界に関するある状態の仮定とその結果としての市場変数の仮定
戦術的 戦略的
短期的視点 長期的視点
例:S&P500が10%変化 例:「中東危機」が起きたらどうなるか

 

【リスク・カテゴリーごとのシナリオの例】

リスク
カントリー・リスク 大きな投資を行った国で政変が起きたため、その影響ついて早急に評価する必要が発生した。
オペレーショナル・リスク 新規導入した決済システムとホスト・コンピュータのデータ交信に不具合が発生し、取引の会計記帳ができなくなった。
法的リスク 取引のある大企業から、契約時に必要なリスクの説明を受けなかったとして巨額の損害賠償請求の訴訟が起こされた。
信用リスク 信用リスク・工クスポージャーの上位5社が同時に流重性危機にみまわれた。
評判リスク あるファンドマネージャーが長期にわたって不正運用そ行ってきたことが発覚した。

 

シナリオ分析プロセス

【シナリオ分析のステップ】

ステップⅠ:シナリオの定義
  • シナリオの初期設定を行う
  • 基本的な仮定
  • 想定期間の定義
ステップⅡ:リスク要因の特定
  • シナリオ分析に関連するリスクの内容要因を確定する
ステップⅢ:シナリオ結果の予測
  • シナリオ要因のあり得る動きを検討し、生じ得る損失額を算定する
ステップⅣ:シナリオ結果の合算
  • 結果を合算する
  • データの一貫性の確認、二重カウント等の誤りのチェック
  • 第三者によるチェック
ステップⅤ:報告とフォローアップ
  • 結果の要約とりまとめ
  • 分析、評価の実施
  • アクションプラン等の検討・協議

 

ステップⅠ:シナリオの定義

第一のステップは、シナリオの定義を行います。
ここで重要なことは、自社のポートフォリオの現状と当該ポートフォリオに影響を及ぼす可能性のある事象を理解することです。このような事象は、市場の主要な指標や経済情勢、各国の政治的な動向、自然環境など、無数にあるため、取捨選択してシナリオを規定することは決して容易ではありません。

ステップⅡ:シナリオにおけるリスク要因の特定

社内の関連部署や専門家からの情報を収集し、シナリオによって影響を受けるリスク要因を特定して、シナリオをより精緻なものにします。
この場合には、1つの事象がどのような影響を与えるか、二次的あるいは三次的な影響も検討することが望ましく、様々な部門の異なるバックグラウンドを持った多くの人々のノウハウを集積する必要があります。
また、シナリオにおけるリスク要因を検討するにあたっては、過去の歴史的な事例が大いに参考とされます。

ステップⅢ:シナリオから導かれる結果の予測

各シナリオの分野でリスク要因毎に設定された想定期間における潜在損失を見積もるもので、シナリオ分析の中核となるものです。
ここでは、最悪のシナリオにおける結果の予測が極めて重要です。この予測は、精緻なものである必要はなく、現時点で「最善を尽くした」ものであれば足りるものとされています。
ただし、結果予測プロセスを継続的に改善していくことが望まれます。

ステップⅣ:シナリオ結果の合算

これはシナリオ分野毎に行われてきた予測を1つの一貫したシナリオ分析に統一する作業です。
この段階では、シナリオ一貫性のチェック、すなわち、二重計上や仮定同士の矛盾がないかのチェック、入力内容とフィードバックされた結果の妥当性のチェックを実施し、必要に応じた修正・再調整を行います。シナリオ結果が現実的かどうか、過去の損益実績に照らして分析することも必要です。

ステップⅤ:報告とフォローアップ

結果の最終分析とその報告は重要なプロセスです。
結果を評価した上で結論を引き出すことはかなり主観的なプロセスであり、その解釈には経験と判断力が必要です。
シナリオ分析の結果、予想を超えた潜在損失の大きさに疑いを呼ぶケースもあります。
したがって、分析結果を報告する際には、結果を説明する前に、置かれた仮定と分析の目的とを明確に示して報告を受ける者がその内容の持つ意味を正しく理解できるようにすることが肝要です。
シナリオ分析の第一の目的は、、参加者が壊滅的損失も起こりうるのだということを認識することです。しかし、もっと重要なことは、経営者に起こりそうにない事象に対しても適切な準備をさせることにあります。報告を受けて何らかのアクション・プランが検討されなければなりません。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

コンサルティングのご依頼などサービスの詳細は、次のバナーをクリックしてください。  

コメントを残す