ストレス・テスト

ストレス・テストとは、例外的な事象が発生した場合のリスク・ファクターの変動が金融機関の財務状況に与える潜在的な影響を検証する手法です。
一般的にVaRを補完するものと位置づけられます。

ストレス・テストとは

「ストレス・テスト」とは、例外的ではあるものの蓋然性のあるイベントが発生した場合のリスク・ファクターの変動が金融機関の財務状況に与える潜在的な影響を検証する方法を言います。

VaRのような統計的モデルは、特定の損失が生じる確率を扱うのに適している反面、予想しにくい極端に例外的な状況におけるリスクを評価するには、統計的推論の正確性の点で限界があります。
そこで、VaRを補完するものとして「ストレス・テスト」が利用されます。近年、VaRやその他のリスク軽量化手法が広まってきたことに連れてストレス・テストの重要性も高まってきています。

最も広く用いられているストレス・テストの手法として、次のものがあります。

  • センシティビティ・ストレス・テスト
    ある特定の市場リスク・ファクターの変動が金融機関全体や各部署のポートフォリオに与える影響を計測する手法
  • シナリオ分析
    将来発生し得るリスク管理者が考えているイベントについて、これを複数のリスク・ファクター(例えば、株価、為替レート、金利)が同時に一斉に変動する形で表現し、ポートフォリオに与える影響を計測する手法

センシティビティ・ストレス・テストは、特定の市場リスク・ファクターないしは相互に密接に関連する少数のリスク・ファクター群がある1つもしくは、複数の変動をした場合に、ポートフォリオの価値に及ぼすインパクトを抽出するものです。イールド・カーブ平行移動は、最も多様されているセンシティビティ・ストレス・テストになります。

シナリオ分析におけるシナリオには、過去に実際に起きた重大なイベントに基づいて設計される場合(ヒストリカル・シナリオ)と、これまでに発生していないものの蓋然性のあるイベントに基づいて設計される場合(仮想シナリオ)があります。
最も多く利用されているシナリオは、ヒストリカル・シナリオです。

センシティビティ・ストレス・テストでは、対照的なショック(リスク・ファクターが上下両方に変動)を想定することが多いのに対して、シナリオ分析では一方行のショックのみを想定(リスク・ファクターが上ないしは下のどちらかに変動)する場合が一般的です。

 

ストレス・テストの手順

ストレス・テストの手順を下図に基づいて説明します。

ステップⅠ:ストレス・テストの対象の選定

  1. 市場変数の選択
  2. ストレス変化幅の大きさ
  3. ストレス・テストの有用性とデータ量とのバランスの決定

ステップⅡ:仮定の設定

  1. 相関関係は安定しているか、崩れているか
  2. 崩れた相関について、新しい仮定は何か
  3. もとになっている金融モデルは成立するか

ステップⅢ:ポートフォリオの再評価

  1. 過去の手法か洗練された最新モデルか

ステップⅣ:アクションプランの策定

  1. 報告
  2. リスク計測モデルと価格評価の有効性のダブル・チェック
  3. 市場部門のトレーダーに対するフォローアップ
  4. 破滅的状況に対するアクションプランの策定

 

 

ステップⅠ:ストレステストの対象の選定

  1. 市場変数の選択
    まず、どの市場変数が連動するのか、どの変数が独立して動くのかを考える必要があります。
    通貨やイールド・カーブのように、同時に変化させることが合理的な一連の変数の組み合わせがあるのかどうかがポイントとなります。
    【変数のタイプの例】
     ・独立した市場変数(金利、ボラティリティ等)
     ・相対的市場変数(10年/30年の金利スプレッド等)
     ・セットになった変数(イールド・カーブ全体等)
     ・組み合わせとなった変数(金利とボラティリティ等)
  2. ストレス変化の大きさ
    変化の大きさについても留意する必要があります。現在の状況に近い小さな動きを採用したストレス・テストをVaR値の代替と考えるべきではなく、また極端に大きな変化を採用したストレス・テストでは原モデルにおける現実的な仮定を超えるため、意味のないものとなるかもしれません。
  3. ストレス・テスト情報の有用性とデータ量のバランスの決定
    保守的に考えた場合想定されるすべてのケースについてテストを行うという結論になりがちですが、この考え方は誤っています。
    ストレス・テストは、あくまでも補完的なリスク管理技術jと位置付けられますので、ストレス・テストの実施や結果の分析にリスク管理部門の担当者が過度な時間と労力をかけるべきではありません。

ステップⅡ:仮定の設定

  1. 相関関係は安定しているか、崩れているか
    平常時に安定的な相関関係があることは、相場急変時における相関関係の安定を保証するものではありません。相関関係に対する信頼度は、市場の性質をどのように判断するかにかかっています。
    異なる市場変数の間での相関関係の仮定は、ストレス変化させる変数を選択する際に、改めて再度チェックする必要があります。
  2. 相関が崩れるとした場合、新しい仮定は何か
    ストレス・テストにおいては、一般的にストレス変化させる変数の間の相関及びポートフォリオに影響を与える他の市場変数の間での相関は、「ゼロ」(すなわち、相関関係がないもの)と仮定しています。
    しかしながら、イールド・カーブのように同期して変動し、相関係数を「1」とする組み合わせのものも考えられます。どのような相関係数を仮定することがよりよい推計値をもたらすか検討が必要になります。
  3. もとになっている金融モデルが成立するか
    ストレス・テストを実施するにあたっては、しばしば最も好ましくない仮説的な状況を採用することも多く見られます。歴史的な事象を超えて市場変数を動かす場合には、ベースとなるモデルが極端なストレス状況にも通用するような十分に強固なものとなっている必要があります。

ステップⅢ:ポートフォリオの再評価

  1. 過去のモデル化洗練された最新モデルか
    一般的に、ストレス・テストに洗練された理論モデルを用いることはほとんどありません。仮定が複雑になった場合には、シナリオ分析のモンテカルロ・シミュレーション等の複雑な手法が採用されています。ストレス・テストの手法を検討する際には、分析に要する時間も重要な決定要素となります。

ステップⅣ:アクションプランの決定

  1. 報告
    市場リスク管理部門が実施したストレス・テストの結果は、経営陣や市場部門に報告されます。
    ストレス・テスト結果の報告内容として、リスク管理部門や経営陣にとっては、様々なストレス状況が損益に与える影響が最も重要な内容になりますが、市場部門のトレーダーは報告されたセンシティビティや市場流動性を気にしていることが多いものです。
    これらの異なったニーズに応えられるような報告内容とするために、ストレス・テストの方法を事前によく協議した上で実施する必要があります。
  2. リスク計測モデルと価格評価の有効性のダブル・チェック
    ストレス・テストの場合、不自然に大きい損益上のインパクトを示すことがありますが、これは実際の市場の動きによるのではなく、モデル上の計算ロジックの欠陥を示している場合があります。
    その意味ではストレス・テストは、リスク計測モデルの正確性をダブル・チェックする方法としても有効です。
  3. 市場部門のトレーダーに対するフォローアップ
    リスク計測モデルや価格評価が正確であるとした場合、ストレス・テストで発見されたリスクを減らすために、市場部門のトレーダーに対するフォローアップが必要になります。
  4. 破滅的状況に対するアクションプランの策定
    日常のVaR分析が有効であり続けるのはどの段階までかということに対する判断は、最終的には経験と判断力で来ますことですが、ストレス・テストは破滅的状況に至る前にアクションプランを立てる際の手掛かりとなります。
    例えば、ストレス・テストを用いることによって加速度的に損失が拡大する節目となる変化点を見出すことができます。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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