疑わしい取引

疑わしい取引の届出制度は、いわゆるマネー・ロンダリングを防止するための対策の一つであり、金融機関等から犯罪収益に係る取引情報を集めて捜査等に役立てることを目的とする制度です。

他方で、金融機関等のサービスが犯罪者に利用されることを防止し、金融機関業務や金融システムの健全性及びこれらに対する信頼を確保しようとする制度でもあります。

犯罪収益移転防止法(犯罪による収益の移転防止に関する法律
(疑わしい取引の届出等)
第9条第1項特定事業者(第二条第二項第四十号から第四十三号までに掲げる特定事業者を除く。)は、特定業務において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあり、又は顧客等が特定業務に関し組織的犯罪処罰法第十条の罪若しくは麻薬特例法第六条の罪に当たる行為を行っている疑いがあると認められる場合においては、速やかに、政令で定めるところにより、政令で定める事項を行政庁に届け出なければならない。

 

疑わしい取引に関する内部規程の策定

疑わしい取引に関して適切な内部規程を策定し、リーガル・チェック等を経て、それを取締役会等で承認することが求められます。
疑わしい取引に関する規程に定めるべき要件として次の事項が挙げられます。

  • 疑わしい取引に該当するか否かの判断に関する事項(判断基準、判断権限者等)
  • 該当すると判断した場合の対応措置(当局届出、取引停止等)
  • 情報の伝達
  • 記録の作成・保存

これらの要件は、疑わしい取引の届出を行うにあたって必要かつ基本的な要件です。
もっともこれら以外にも取引届出に関する業務の全社的な統括部署、届出を怠った場合の制裁措置などの必要な項目が考えられます。

 

疑わしい取引に関する態勢の整備

取締役は、疑わしい取引に関する責任者又は担当部署の設置とこれらの部署等を中心とした態勢の整備を行う必要があります。
想定される疑わしい取引情報届け出の基本的なプロセスは、次のとおりです。

  1. 各役職員が疑わしい取引に関する情報を取得
  2. 情報を取得した各役職員がそれを適時に上記責任者、担当部署に伝達
  3. 責任者、担当部署が当該情報を当局に速やかに届出
  4. 必要に応じて社内で適切な措置を実施

なお、疑わしい取引に関する責任者又は担当部署について、果たすべき役割・機能が実行的に発揮されている限り、別の部署との兼任が可能と考えられます。
併せて、取締役会等は、保有している取引情報から適切な届出が行えるような情報収集・分析や判断手続等の態勢整備、責任者又は担当部署から定期的な状況報告を受けるプロセス、重大な情報に関するコンプライアンス統括部門や内部監査部門への報告プロセスを整備することが求められています。

 

疑わしい取引に関する指導・研修

責任者又は担当部署は、疑わしい取引に接する各業務部門・営業拠点等の職員に対して、定期的な指導・研修等による周知徹底を求められます。重要な点は、各部署、営業拠点の責任者、管理者等による社員への指導・研修です。この点が適切かつ十分に行われるような管理や指導の仕組みの有無をチェックすることが重要です。
さらに単に指導・研修を行ったということにとどまらず、現実に内容が社員に周知徹底されていることを何らかの手続により確認するべきでしょう。

 

疑わしい取引のチェック方法に関する留意点

疑わしい取引に関する事例の蓄積など、管理体制を検証する場合のポイントは次の3点になります。

  • 疑わしい取引の傾向に関する事例蓄積と事例集等の作成・周知
  • 対処すべき当事者属性や取引の性質等の情報収集と蓄積
  • 取引の判断基準の機能の有効性

疑わしい取引傾向の事例蓄積、当事者又は取引性質の情報収集、これら周知、適切な取引の判断基準の設定など、意識的かつ組織的な対応が必要になります。
取引事例の傾向の事例蓄積や情報収集等は、まず自社内で行われることになりますが、必要に応じて同業他社や他の業界の情報も収集していく必要があります。

取引傾向の事例や情報は、関係部署に正しく迅速に周知されることも重要となります。

自社で発見できなかった問題事例等が発覚した場合は、自社の取引判断基準の課題を確認し、見直しつつ改善を図ります。
なお、疑わしい取引の判断基準については、特定金融情報室等の作成した「疑わしい取引の参考事例」が参考になるでしょう。参考事例の作成は、義務ではありませんが、社員が的確に疑わしい取引の判断をできるようにするためには、何らかのわかりやすい事例とその説明資料が必要となるでしょう。

疑わしい取引の判断基準等が有効に機能しているか検証する際は、その適切性の検証や態勢の有効性も併せて検証する必要があります。

 

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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