VaR(Value at Risk:バリュー・アット・リスク)

VaRとは、端的にいいますと「ある一定の確率で起こりうる将来の損失額の最大値」のことです。
統計的手法が用いられ、ポートフォリオのリスクを共通の尺度で比較することやリスクを自己資本と対比することを可能としました。
VaRに用いられる用語、算出ステップについて、解説していきます。

VaRの基本概念

VaRは、一言で表現すると「ある一定の確率で起こりうる将来の損失額の最大値」であり、より厳密に定義すると次のように定義されます。

「今後、将来の特定の期間内(保有期間)にある一定の確率の範囲内(信頼水準)で、ポートフォリオの現在価値がどの程度まで損失を被るか(損失値の最大値)を、過去のある一定期間(観測期間)のデータを元に理論的に算出された値」

 

また、バーゼルⅡに基づく金融庁のいわゆる自己資本比率告示の中では、次のように定義されています。

バリュー・アット・リスク
特定のポジションを一定期間保有すると仮定した場合において、将来の価格変動により一定の確率の範囲内で予想される最大の損失額をいう。
(銀行法14条の2の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準(金融庁告示19号)1条28号)

VaRを算出するにはいくつかの方法がありますが、例えば、次の式を用います。

VaR=(信頼係数)×√(保有期間)×(ボラティリティ)

このVaRの定義や算出式に用いられている用語(ボラティリティ、保有期間、観測期間、信頼水準、信頼係数、等)については、次のようになっています。

 

VaRのボラティリティ、観測期間、保有期間

1.ボラティリティ

「ボラティリティ」とは、先に説明したように将来の分布の標準偏差で、分布のばらつき具合を示しています。
ボラティリティは、現時点からどれくらい先の将来の時点であるかによっても値が異なってきます。そこで、将来のどの時点まで計測の対象とするかを「保有期間」として定めます。

2.保有期間

「保有期間」は、投資ホライズンとも呼ばれ、現状のポートフォリオを解消するのに必要な期間とされています。
設定される保有期間は、資産・ポートフォリオの性質や目的によって様々です。
例えば、トレーディングでは1日、ファンドでは資産の組替え、あるいは運用結果評価を行うためのインターバル、年金などの長期資金では、3か月~5か年とすることが一般的です。
BISの自己資本比率規制では、保有期間は10日とされています。このことは、BIS規制ではマーケット・リスク相当額の算出対象となるポジション(エクスポージャー)を解消するのに10日間を見込んでいることを意味します。

先ほどのVaRの算出式において保有期間の平方根を乗じていますが、これは保有期間が長いほど、リスクが大きくなることを示しています。保有期間の平方根を乗じているのは、データが時系列的に独立している(系列相関がない)ことを前提とした理論に基づいているためです。(この前提を用いた分析方法を「ルートt倍法」といいます)。

3.観測期間

将来の一定期間(保有期間)におけるボラティリティを推計するためには、過去の一定期間における市場価格データ(ヒストリカル・データ)の標準偏差を算出して用いることが一般的です。
このデータの採取期間が「観測期間」です。
例えば、過去の日次の収益率データを30日分採って(観測期間30日)、現時点から1日後に(保有期間1日)どの程度の範囲に分散するかボラティリティを算出することになります。
この際、過去のどのくらいの期間のデータを元に計算するのが適切かということが問題になります。観測期間の長さは、求めようとする分析精度によって決まります。
観測期間が短い場合、十分なデータ数が確保されず、分析結果の精度、信頼性が低くなります。
観測期間が長い場合、過去の市場環境が異なり、最近のマーケット状況を的確に反映できないという欠点があります。
BISk規制で求められる精度からすると、データ数は、25~75個必要とされますので、単純計算すると、保有期間10日に対して観測期間は、1~3年(250日~750日)となります。そこで、直近のデータを重視してウェイトづけを行ったり、観測期間をずらしていくムービング・ウィンドウ法を採用したり、様々な工夫がなされています。

このようにして、過去の観測期間のデータから得られたボラティリティを将来の一定期間における(予測)ボラティリティとしますが、その後に実現したボラティリティと事後的に比較すると一致していないことが大半です。それほど将来のボラティリティを正確に予測することは、困難なことなのです。

信頼水準(信頼区間)と信頼係数

VaRの定義を再度おさらいすると、この定義の中の「信頼水準」(もしくは「信頼区間」ともいう)という用語と、VaR算出式の「信頼係数」という係数が、VaRを理解するための最も重要な要素です。

VaRの算出で一般的な分散共分散法では、将来のポートフォリオの価値変化は、正規分布に従っているものと仮定されています。下図がそのような正規分布を示したものですが、理論的には、この正規分布のある一定区間の面積を求めることでその区間に応じた発生確率が求められます。
例えば、この図では、片側99%の確率に相当する区間を探した結果を示しています。すなわち、正規分布を示すベル型の内側の面積が99%に達する区間の下端Xが平均からどれだけ離れているかを見ていったところ「2.33×標準偏差」離れたところに位置していたということになります。
このとき、99%を「信頼水準(信頼区間)」といい、標準偏差に乗じた係数2.33を「信頼係数」といいます。
また、100%から信頼水準を引いた値「100%-99%=1%」が損失発生確率となります。

正規分布を仮定しない場合や信頼水準が99%ではない場合、信頼係数は、2.33ではなく他の値を取ることになります。

【標準正規分布における信頼水準と信頼係数】

信頼水準 99.9% 99.5% 99% 95%
信頼係数 3.09 2.58 2.33 1.65

 

 

VaRの概念のまとめ

VaRは、過去の観測期間における価格変動に基づき、保有期間経過後の将来の価格変動として正規分布などの確率分布を仮定して、信頼水準に対応した確率で生じる損失額の最大値を推定するものです。このようにして計算されるVaRには、次のような特徴があります。

  • 多種多様なポートフォリオのリスクを、「ある一定の確率のもとでの損失可能性」という共通の尺度で比較できること
  • 様々なリスク要因相互の関連を考慮し、投資戦略の全体の予想損益変化を認識できるため、自己資本等との比較ができること
  • 統計的手法により、理論的な裏付けがあること。
  • 特定のシナリオに依存していないこと。

一方で、VaRには、将来のボラティリティについて、過去の価格変動と同様と想定していること、正規分布を仮定していることなど、多くの理論的な過程を前提条件としていることによる限界があります。

 

VaRの算出プロセス

VaRの算出は、次の5つのステップに分けて整理することができます。

【VaR算出のための5つのステップ】

ステップⅠ:自社が保有するポジションの特定

リスク管理システムによってVaRを算出する最初のステップとして、VaR算出の対象となる自社が保有する様々な取引を網羅したポジション・データ(取引種別、取引額、約定単価、評価価額、等)ならびに、市場価格(様々なシナリオのもとでの再評価を可能とするようなリスク・パラメーター)の情報についての正確で包括的なデータベースを作ることが必要になります。

多くの金融機関にとっては、このポジション・データを特定して網羅的に収集する作業が最も困難を伴うものです。実務における典型的な問題点として次のようなものがあります。

  • 取引種別毎に、あるいは各部署で異なる多くのシステムを利用している。
  • ポジションの定義がシステム毎に異なっており、一貫していない。
  • バック・オフィスにおける会計記帳や取引確認書作成に利用されているシステムは、取引条件明細データまで保有していないことがある。
  • フロント・オフィスで用いられているシステムやスプレッド・シートは、必ずしもポジションの正確性やデータの完全性が確保されているわけではない。

最も望ましいのは、バック・オフィスで会計記帳に用いられているシステムからのデータをそのまま取り込む方法ですが、その場合でも、システムでリスク計測に必要な全ての情報をカバーしていないため、問題が生じることがあります。
このように1つのシステムから完全なデータが得られない場合は、リスク管理部門は、複数のシステムから必要な情報を取得して、VaR算出用のデータに組み込むステップが加わります。

ステップⅡ:ポジションの評価に影響を与えるリスク・ファクターの特定

ポジションを評価するためのリスク・ファクター(リスク要因)の種類とデータ数を特定します。その際には、リスク評価の正確性を高めることと計算回数の増加によるシステムの負荷や計算時間が長くなることの兼ね合いを考慮します。

例えば、株式のリスクは、平均株価指数により捉えることが一般的ですが、自社のポートフォリオにおいて市場全体の動きに連動しない個別株式が占める割合が多い場合には、平均株価指数では主要なリスク要因を捉えたことにはなりません。
同様に、債券のイールド・カーブをモデル化するためには、どのようなデータを取ってくるべきか、事業債のスプレッドのモデル化にはどれだけの産業・格付あるいは満期による分類が必要か、通貨はいくつ必要か、先物価格などの要件をすべて決める必要があります。このようなリスク・ファクターの特定は、完全な答えを出すことが難しく、ある程度の割り切りが必要です。
特定したリスク・ファクターの組み合わせが十分かどうかについては、VaRモデルを絶えずチェック、更新することで改善を図ります。

ステップⅢ:すべてのリスク・ファクターのシナリオに対して確率を特定して割り振る

各リスク・ファクターの将来の確率分布を作成します。
この局面では、ボラティリティと相関関数の推計、分布の形状(例えば、実際の分布が正規分布と異なって、裾野が厚いファット・テイル(Fat tail)であることなど)の特定や安定性等が問題点として挙げられます。

1つのリスク・ファクター、例えば、国債の日次リターンの確率分布を特定する場合にも、数多くの切り口やアプローチの仕方が想定されます。
まず、過去のデータについてはどうでしょうか。過去における実際の国債のリターンといった場合に、どの銘柄を採用するのか、そのデータをどのように扱うのか、といった問題が存在します。
債券価格としてどの取引価格を用いるべきか、過去のリターンの変化か、利回りの変化を見るのか、単純なリターンと超過リターンのどちらで見るのか、さらに、無リスク・レートか、平均リターンから差し引くのか、既発債から新発債への入れ替え時に生じるデュレーションの変化は考慮するのかしないのか、様々なアプローチが想定されえます。
ボラティリティについても、最近のボラティリティ・データに比重をかけるかどうか、国債のオプション価格から導かれるインプライド・ボラティリティも利用するかどうか、検討して特定しなければなりません。

ボラティリティが特定できたとしても、さらに国債のリターン分布の形状を知る必要があります。実際の証券市場のデータからは、分布の端が膨らんだファット・テイルと呼ばれる現象があって、正規分布で仮定されるよりも大きな損失が発生する可能性が高いことが知られています。

【確率分布のファット・テイル】

リスク要因を2つ以上の複数にすると、問題の数は急激に膨れ上がります。リスク要因間の相関係数を推計することが必要となりますし、ボラティリティの推計値に影響を与える要因は、すべて相関係数にも影響してくるからです。

このような困難を伴いますが、合理的で説明が可能で、なおかつ、自社で実現可能な設定がどのようなものか、1つひとつ足固めしながら、リスク・ファクターの将来価値の確率分布を設定していきます。

ステップⅣ:すべてのポジションの価格評価関数をリスク要因の価値の関数として設定

計算対象となるポジションの多くは、リスク・ファクターの微小変化の関数として値洗いを行います(センシティビティ・アプローチ)。
例えば、ある債券のデュレーションをリスク指標となる長期国債のデュレーションと比較する場合、その債権の値洗い上のインパクトは、その国債のリターンをデュレーション比率で調整したものと等しくなります。
デリバティブを利用した複雑な証券の場合には、リスク要因の値をインプットして時価評価モデルで算出することになります(値洗いアプローチ)。
また、債券オプションの場合には、まず原債券の価値を指標とする銘柄のリターンに換算したうえで、ボラティリティを何らかのボラティリティ・リスク要因に換算することで、値洗い価格を算出することになります。

さらに考えなければならない問題点として、計算時間のパフォーマンスの問題があります。
例えば、デリバティブの再評価の正確性を期すために複雑なモデルを用いたとしても、算出が長時間になるのでは、実用的ではありません。パフォーマンスを改善するため、近似計算を用いることが一般的ですが、近似計算が使える条件が崩れた場合には、大きな誤解を生じることもあり、注意が必要です。特に価格関数が不連続なエキゾチック・オプションや満期が近づいて大きな非線形性を持つオプションの場合に顕著な問題になります。

ステップⅤ:ポジションの値洗い及び分布結果の作成

保有するポジションについて、すべての各シナリオの場合の価格を価格評価関数により算出し、その結果の分布を作成します。この分布上における一定の裾野部分の限界点がVaR値となります。

ステップⅢで与えられたリスク要因の確率分布から数学的アルゴリズムを用いて、将来どのような値動きをするかという1つのシナリオを導きます。そして、当該シナリオに対してステップⅣの値洗いを行うことでポートフォリオの価値の変化を1つ算出できることになります。
この作業を数万回から数百万回繰り返すことで、ポートフォリオ価値の変化の分布を作り上げます。
VaR値は、このポートフォリオ価値の変化の分布における一定の確率に対する裾野ですので、算出結果を大きさ順に並べ替えてその点を見つければよいのです。
したがって、例えば、VaR値を分布上の1%の点として定義した場合、ポートフォリオの価値の変化を10万個計算していたのであれば、分布における1%の裾野部分の限界点とは、10万個の1%にあたる1,000番目に大きな損失の値を取ってくることになります。

記事製作者

中小企業診断士 湯谷 一夫

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